地震保険.事業継続計画,BCP,財務戦略,リスクファイナンス,防災,東日本大震災
プログラム ? 事前申し込み開始 http://risktaisaku.com 日 時:9月8日(木) 10:00~18:00 会 場:牛込箪笥区民ホール(東京都新宿区箪笥町15 番地) 都営大江戸線「牛込神楽坂」A1 出口より0分 定 員:330 人 ※申し込み多数の場合、抽選とさせていただきます。 主 催:新建新聞社 「リスク対策.com」 協 力:㈱東京ビッグサイト 参加費:リスク対策.com 定期読者無料(契約者ご本人様に限ります) ※定期読者以外1万200 円(ただし1年間分の購読料として) 日本の危機管理 ~東日本大震災後に見直すべきこと~ 京都大学防災研究所/林 春男 教授 中国の危機管理の発展 北京清華大学公共安全政策研究所所長/顧 林生 教授 アメリカの危機管理の発展 京都府立大学公共政策学部/青山 公三 教授 欧米の危機管理と企業の事業継続マネジメント 東京海上日動リスクコンサルティング㈱/岡部 紳一 主幹 9.11以降のサイバーテロ対策と日本が強化すべき点 ㈱サイバーディフェンス研究所/名和 利男 部長 ※上記ほかに、危機管理産業展出展企業のプレゼンテーションを予定 巨大災害からの 教訓 ~9.11 後のアメリカと四川大震災後の中国、 そして東日本大震災後の日本の危機管理~ 今、世界の危機管理に学ぶ。 9.11 ニューヨーク同時多発テロから10年、 アメリカの危機管理は飛躍的な成長を遂げた。 中国は2003 年のSARS、 そして08 年の四川大震災の教訓を生かし 現在、国を挙げて危機管理体制を強化している。 東日本大震災を経験した日本が、 今後、見直すべきことは何か。 政府、自治体、民間企業に求められる、 これからの危機管理のポイントを探る。 リスク対策検 索 RISCON TOKYO2011 コラボレーション企画 リスク対策.com 特別シンポジウム
4 リスク対策.com 2011/07 東日本大震災では、ツイッターやフェイスブックなど誰もが手軽に情報発信できるソーシャルメディアが注 目を集めた一方で、被災地では手書きで避難所に張り出された石巻日日新聞の壁新聞や、コミュニティFM などアナログ媒体が大きな役割を果たした。そして、これらのメディアを通じて伝えられた情報の中には、 現地での生活に不可欠なものもあれば、真実とは違うデマや、何が真実か分からないあいまいなものも多く 含まれていた。今後のメディアコミュニケーションのあり方を、江戸川大学の濱田逸郎教授とNPO 法人広 報駆け込み寺の三隅説夫代表に対談していただいた。聞き手は本誌編集長・中澤幸介。 東日本大震災における× メディアコミュニ 対談江戸川大学 濱田逸郎教授 NPO 法人広報駆け込み寺代表 三隅説夫氏(みすみ・せつお) プロフィール/元・安田生命取締役広報部長。 NPO 法人広報駆け込み寺では、企業広報に長年携 わった実務経験者らの経験を生かし、広報全般から 危機管理、消費者対応まで、企業や自治体、学校な どの広報活動を幅広く支援している。
2011/07 リスク対策.com 5 で、インターネットのパケット通信は災害に強い、 という一般的な認識に結びつきました。今回の大地 震でも、携帯電話や固定電話がつながりにくい状況 の中、ツイッターやスカイプなどインターネットを 活用した通信手段が活躍しました。 そもそもインターネットのベースとなったARP ANET(Advanced Research Projects Agency Network)という仕組みは、米国が旧ソ連に対する << 対談× ケーションを問う NPO 法人広報駆け込み寺 三隅説夫代表 Q 東日本大震災ではインターネットを活用したツ イッターなどが情報をいち早く伝えました。濱 田先生はどのように評価されていますか。 濱田 日本でインターネットが普及したきっかけの 1つが阪神・淡路大震災だったと言えます。電話も 携帯電話もつながらない状況の中、神戸にあったい くつかの大学や研究機関のサイトがつながったこと 江戸川大学教授 濱田逸郎氏(はまだ・いつろう) プロフィール/江戸川大学メディアコミュニケー ション学部教授、江戸川大学サテライトセンター所 長。慶大経済学部卒。( 株) 電通に入社。2005 年 に同社を退職し、同年10 月から江戸川大学教授。 11 年から日本広報学会理事長。
6 リスク対策.com 2011/07 ターネットが優位であったことは事実でしょうが、 現地ではそれすら使える状況ではなかった。そこに は全く逆のアナログの世界があったということで す。 濱田 炊き出しや生活用品の配布など地域のきめ細 かな情報が求められたことから、県レベルの地方紙 より、もっとローカルの媒体が力を発揮したと言え ます。ワシントンの博物館に保存されることになっ た石巻日日新聞の壁新聞、そのほかにもコミュニテ ィFM や臨時災害放送局が有効に機能しました。 軍事警戒として、電話などの通信網が爆撃を受けた 場合にも耐え得る通信網として開発、整備されたも のですから、災害時には強いわけです。 Q 一方で、被災現場では新聞などローカル・メデ ィアが重要な役割を果たしました。 三隅 被災地では停電でテレビを見ることができな かったため、新聞やラジオが大変役に立ったという 話を多く聞きました。地元の新聞社やラジオ局がも のすごく頑張って安否情報を伝え続けたのです。固 定電話も携帯電話も駄目で、日本全土で見ればイン Q IT によるボーダレス社会が広がる一方で、危 機管理には「コミュニティ」という視点が重要 になるということでしょうか。 三隅 今後、危機管理では3つの「C」が注目され てくると考えています。1つは、コミュニティ、2 つ目がコミュニティの中でのコミュニケーション、 そして3つ目がコラボレーションです。コミュニテ ィをつくって、それを上手く活用すれば大きな力に なるはずです。その大きな力に加えて、例えば中央 の企業と現地の企業がコラボレーションして復旧や 復興に取り組めれば、コミュニティ力をさらに増幅 させることが可能になります。 濱田 災害そのものを無くすことはできませんが、 被害を減らすことはできます。キーワードは「減災」 です。コミュニティの力は減災につながります。三 3つの「C」が力になる 危機管理には コミュニティの
2011/07 リスク対策.com 7 隅さんの言う通り、今、まさに3つのCが重要にな っています。 Q ソーシャルメディアをめぐっては、震災後、デ マやあいまいな情報がツイッターやチェーン メールで流れ大きな社会的な問題になりまし た。 濱田 確かにそうした現象はありました。ただ、実 はツイッターなどに流れたデマ情報は、多くの人が << 対談 デマ=「重大性」×「あいまいさ」 見ているために、すぐに打ち消されています。とこ ろが、知り合いから送られてくるメールの場合は、 受け取った人が信じてしまう。つまり、ツイッター に代表されるソーシャルメディアではあまりデマが 拡散する危険性は少ないのですが、チェーンメール はとても危ない側面を持っているということです。 デマというのは、ものごとの「重大性」×「あい まいさ」で大きくなります。あいまいな話であれば あるほど、しかも話題が大きければ大きいほど広が りやすい。福島第一原発事故による放射能漏れの情 報は、重大で、かつあいまいであるが故に風評につ ながってしまったと言えます。 Q 情報を受け取る側も、さまざまな情報が飛び交 う中で、それらをどう処理するかが重要になり ます。 濱田 今回の東日本大震災では、新聞やテレビのほ うが「大本営発表」をそのまま流してしまったとい う面も否定できません。逆にツイッターは3月15 日ぐらいから、福島第一原発について「メルトダウ ンしているのではないか」など危険性を指摘してい ました。まだ十分な検証はできていませんし、デマ が多くあったことも確かですが、少なくとも大手メ ディアのような「大本営発表」にはなっていなかっ たように思います。 三隅 今やツイッターなどのソーシャルメディア は、色々な情報を発信していますが、現場に一番近 い人の情報が、より正確なことは言うまでもありま せん。しかし、中には裏をとっていない、不正確な 視点が重要
8 リスク対策.com 2011/07 情報が含まれることも多々ある点に注意をする必要 があります。 濱田 今回の大震災でツイッターの性格は大きく変 わったと、私は考えています。ツイッターというの は140 字に限られた文字数で、これまでは「いま、 虎ノ門にいる」などと、仲間同士がつぶやきながら 情報交換するためのツールでした。ところが今は、 何かあったらすぐに要件を知らせる情報発信のため のメディアになったと思うのです。 例えば、ホリエモン(堀江貴文)のツイッターには、 彼が刑務所に収監されている今でも73 万人以上が フォローしていますが、今回の震災に関連して彼の フォロアーが被災地で不足しているものや、困って いることなどをツイッターに書き込むと、ホリエモ ンがそれをリツイート(RT)機能を使って転送して、 それが彼のフォロアーすべてにつながり、さらにフ ォロアーが再びそれをRT して、そのまたフォロア ーへと広がるという情報拡散が見られました。 今や一般市民はもちろん、首相官邸、多くの市町 村、あるいは企業でもツイッターを情報発信の手段 として普通に使っています。情報化社会においては、 危機の際にツイッターを使うことは、ある意味必須 になったと言えるかもしれません。 ツイッターが情報発信のツールになった理由の1 つに、仲間同士の情報交換のツールとしてフェイス ブックが使われるようになったことが挙げられま す。フェイスブックのほうが、仲間同士で連絡しあ うメディアとしては使いやすいと考えられるように なったわけです。今回の震災でも、フェイスブック を活用して連絡を取り合った人は多いと思います。 メディアの特性を使い分けて、広報戦略を考えてい くことも必要です。 Q 誰もが情報発信ができるようになったことの半 面、例えば「想定外」が流行語のように使われ ているように、安易に言葉が使われすぎ、それ がまた風評の原因になるようなことも起きてい るのではないでしょうか。 三隅 今「想定外」と「一定の目途がついたら」と いうのが、小学生の間で流行っている言葉だそうで す。お母さんが「宿題をやりなさい」と言うと、子 どもが「一定の目途がついたらやる」と言う。 そもそも「想定したくない」から「想定外」と言 い逃れをする。もちろん、津波の高さや大きさが予 測を上回ったということは事実でしょうが、最悪の 事態を考え、徹底的にあらゆることを考えておくの が危機管理ですから「想定外」などと軽々しく言っ てはいけないのです。 Q 言葉のあいまいさに加え、誰が発表すべきこと なのか、担当者のあいまいさも問題でした。 三隅 危機管理の対策としては、普通、司令塔が3 人は必要といわれます。会長、社長、副社長という ように。3人のうち、必ず1人は社内にいなければ なりません。ところが、3.11 の地震が起きたときに 東電では、会長と社長が不在でした。はたして3番 手を決めていたのかどうかは疑問です。あの時、右 往左往して、結局、時間を費やして対応に遅れが生 じてしまったことは否定できません。情報の発信窓 口をあらかじめ定めておいて、危機発生時にはそれ が機能するようにしなければなりません。当たり前 のことですが、これができるか、できないかはトッ プの姿勢によります。 ただ、東電に同情するのは、会見での発表内容は フェイスブックの台頭 問われる企業のマスコミ対応 ホリエモン効果 ソーシャルメデ
2011/07 リスク対策.com 9 << 対談 国や原子力安全・保安院にかなり制約されていたと 思われます。 個人的には、民間企業のリーダーとして、本来な ら社長が自発的に発表すべきだったと思います。国 の危機管理という側面から言えば、理想的なのは国 と原子力安全・保安院と東電が一緒になって記者会 見をして情報発信することでしょうが、そうした体 制を構築するまでにも1カ月近くかかってしまいま した。 Q 会見の際、特に重要なことは? 三隅 会見ではスポークスマンを固定しなければな りません。いつも同じ人が会見することで、「ラポ ール」といってスポークスマンと記者の間に“コミ ュニケーションの橋”が架かるのです。ところが、 今回は当初、東電は入れ替わり立ち替わり色々な人 が出てきて広報窓口を一本化していませんでした。 その後の計画停電の説明はあまりにひどかったよう Q 今後、企業経営にはどのような危機管理の視点 が求められてくるとお考えですか。 三隅 予測不可能な時代が来ています。 地震は来るだろうと思われていたが、これほどの 被害にまでなるとは考えられていなかった。民主党 がこの程度だとは誰も思っていなかった。去年のこ とで言えば、リーマンショックが終わったのに円が どんどん上がって収束しないことも予想できなかっ た。そして気候変動による夏の猛暑。おまけにロッ テが優勝し、今年は(7月7日現在)ヤクルトが首 位を走っている(笑)。 こんなふうに全く予測できないことが起きている 時代に企業に求められるのは3つのパワーです。 1つは危機管理能力。「想定外」なんて“逃げ言葉” を使わない、最悪の事態を想定した対策が必要です。 2つ目は情報発信力。的確な情報をいつ、どんな タイミングでどう発信するのかが問われます。そ して3つ目はCSR(企業の社会的責任)力です。 今回の大震災では企業のCSR 力がものすごく問わ れたと思います。本業はもちろん、本業以外での CSR も重要でしょう。 これらを実現するために「現場力」と「実行力」 が求められています。現場の状況をいかにスピーデ ィに捉えるか。そして、それに対応する実行力をい かに確保するか、です。 濱田 今回の震災で世の中も人々の心理も大きく変 わったと思います。人のつながりを大切に思う傾向 になってきているように思います。おそらく、結婚 したいという人も増えてくるでしょう。人の消費パ ターンも変わります。何か社会のためになる、そん なコンセプトに対して消費ニーズが高まってくるで しょう。企業のビジネススタイルも当然、変化して いかなくてはいけません。それに併せて、情報発信 のあり方も変えていく必要があると思います。 に思います。 濱田 最近では、会見でフリーの記者の質問が厳し くなってきているようです。ラポールの裏返しにな りますが、フリー記者の場合は、既存メディアの記 者のように締め切り時間や記事の文字数制約があり ませんから、いつまでも聞き続ける。その内容は、 すべてネットを活用したユーストリームやニコニコ 動画などで生中継されるわけです。 今後はこうした報道が普通になってくる可能性が 十分にあるわけで、企業の広報担当者はこうした対 応も考えていかねばなりません。 予測不可能な時代の企業経営 で実証された ィアの有効性
10 リスク対策.com 2011/07 e-book 最新号の目次ページに記載されているID とパスワードを、幣誌ウェブサ イトから入力すると、最新号およびバックナンバーを組織全体で閲覧して いただくことができます(企業・自治体に限る)。※組織外への無断提供 は固く禁じます。 最新号および バックナンバーが 組織全体で 見られます 主な機能表示画面 参考ページ 2010 年5 月号 Vol.19 より 電子ブックサービスのご案内 ④リンクを開く ②キーワード検索 AND OR 詳細 検 索 ①ページを拡大表示 ③印刷可 弊社ウェブサイトで 「購読者ログイン」をクリック 1 2 3 4 最新号の目次上に記載のID と パスワードを入力 キーワード検索が可能バックナンバーが 閲覧可能 使い方 雑誌の持ち運び不用、 好きなページを印刷、 キーワード検索が できる! 一冊購入するだけで 組織全体で利用できます。 ※ iPad およびスマートフォンの一部には対応していません。 本機能をお使いいただくにはAdobe Flash Player が必要となります。 ※ 原則として、自治体・企業に限る 組織外への無断提供は固く禁じます。
2011/07 リスク対策.com 11 対談 江戸川大学 濱田逸郎教授× 広報駆け込み寺 三隅説夫代表 東日本大震災における メディアコミュニケーションを問う 地震保険の盲点13 4 14 世界の保険市場を揺るがす 2.7兆円のインパクト 22 保険商品を買う時代は終わった 防災・BCPを売り込め 25 地震による損失額はこうして算出される! 自社の地震リスクを知る 28 事業継続に役立つ費用を保険で調達 日本の保険市場に新風 30 リスクと向き合うのが我々のビジネス 日本から逃げはしない 45 東日本大震災におけるBCP 事例 第2弾 教訓を語り継げ 古河電気工業 46、ソフトバンク 49、フィリップモリスジャパン 51 32 中小・中堅企業に新たな地震保険 財物と休業を同時補償 34 解説 被災時に役立つ財務戦略 36 特別寄稿 災害時に備えた中小企業の財務戦略/眞崎達二朗氏 BCPと資金対策 Feature 対談 42 青山学院大学/榊原英資教授 今こそ国債による大型支援を 特別インタビュー 特集1 特集2 以下のサイトにID・パスワードを入力して下さい http://touroku.risktaisaku.com/member/login.php ※ ID・パスワードの共有は同一組織内(企業・自治体のみ)に限ります July 2011 Vol.26 7.25 リスク対策検 索 今号のID・パスワード(有効期間7/25 ~ 9/24) ID risk2011-04 パスワード p8VMEDA2cGYO4coH 2011/07 リスク対策.com 11 対談 江戸川大学 濱田逸郎教授× 広報駆け込み寺 三隅説夫代表 東日本大震災における メディアコミュニケーションを問う 地震保険の盲点13 4 14 世界の保険市場を揺るがす 2.7兆円のインパクト 22 保険商品を買う時代は終わった 防災・BCPを売り込め 25 地震による損失額はこうして算出される! 自社の地震リスクを知る 28 事業継続に役立つ費用を保険で調達 日本の保険市場に新風 30 リスクと向き合うのが我々のビジネス 日本から逃げはしない 45 東日本大震災におけるBCP 事例 第2弾 教訓を語り継げ 古河電気工業 46、ソフトバンク 49、フィリップモリスジャパン 51 32 中小・中堅企業に新たな地震保険 財物と休業を同時補償 34 解説 被災時に役立つ財務戦略 36 特別寄稿 災害時に備えた中小企業の財務戦略/眞崎達二朗氏 BCPと資金対策 Feature 対談 42 青山学院大学/榊原英資教授 今こそ国債による大型支援を 特別インタビュー 特集1 特集2 以下のサイトにID・パスワードを入力して下さい http://touroku.risktaisaku.com/member/login.php ※ ID・パスワードの共有は同一組織内(企業・自治体のみ)に限ります July 2011 Vol.26 7.25 リスク対策検 索 今号のID・パスワード(有効期間7/25 ~ 9/24) ID risk2011-04 パスワード p8VMEDA2cGYO4coH
12 リスク対策.com 2011/07 被災地を最も歩いた外国人学者が見た風景 “壊滅的な沿岸部に学校が残っていた” 顧 林生氏/北京清華大学都市計画設計研究院公共安全研究所所長 寄稿 連載 データ 特別インタビュー インタビュー 62 震災関連の倒産が急増 2011年5月6月企業倒産状況 震災の中から見えた病院経営 株式会社パースジャパン/佐藤勝浩 100 68 東日本大震災後の企業のリスクマネジメント NPO 法人日本リスクマネージャー&コンサルタント協会/横井千香子理事長 102 内田久美子弁護士の社内リスク相談 弁護士/内田久美子 76 あなたの組織の内部通報制度は機能するか? 社内調査におけるヒアリング手法(1) 弁護士/中村 勉 法律86 法律 企業における危機管理と法律 労働者(従業員)との雇用関係におけるリスク 弁護士/北 周士 法律80 BCP 94 事業継続マネジメントの国際規格案を読み解く BCMSの中身に迫る(その2) 勝俣良介 BCP 見直しの必須項目と解決策 サプライチェーンのレジリエンス評価 黄野吉博 BCP 89 表2 ネオジャパン 安否確認機能搭載のグループウェア「desknet's」 59p 日本能率協会 医療機器や病院/ 福祉設備機器が集結「HOSPEX Japan 2011」 61p ダイドードリンコ 自動販売機が災害時にできること「災害救援ベンダー」 73p 第3 回上海国際減災及び安全博覧会・国際減災と公共安全フォーラム 99p 日本規格協会 事業継続マネジメントの実践ガイドのご案内 表3 BSI グループジャパン 事業継続マネジメントシステム関連書籍のご案内 表4 江守商事 事業継続マネジメントソリューション「LDRPS」 AD INDEX 54 被災病院の現場 津波直撃の中、救った患者の命 特集3
2011/07 リスク対策.com 13 東日本大震災をきっかけに、企業の地震保険への注目が集まっている ところが、大手損害保険各社は震災後、地震関連保険の新規引き受けや、 既存契約先の補償拡充を相次いで停止 企業の命綱である地震保険に入りたくても入れない状況が全国的に生じている 保険料率も今年度以降、大幅に引き上げられる可能性が大きい 企業はいかに地震リスクに立ち向かえばいいのか 地震保険の現状と、新たな対策への道筋を探った 世界市場に異常事態。日本企業は救えない!? 特集1 地震保険の、 盲点
14 リスク対策.com 2011/07 地震保険のニーズが高まっているのに、地震保険に入れない。 そんな状況が生まれている背景には、 世界の保険市場が抱える根本的な問題がある。 今、保険市場に何が起きているのか。 今回の東日本大震災で地震保険に入っていた企業 と、入っていなかった企業では、財務状況に大きな 差が出ることは必至だ。宮城県にあるA 社は地震 保険の検討を進めている最中に被災した。工場の大 半が津波で流され復旧費用の調達に今も苦慮してい る。「もし少し早くに地震保険に入っていたら」と A 社常務は悔やむ。 被災地では、設備投資などの融資を受けていた会 社が被災し、復旧のために二重ローンを組まざるを えないような企業が何社もある。操業レベルが落ち 込んでいる中、多額の借金を背負う負担はあまりに 大きい。 一方、地震保険によって大きな被害を避けた企業 もある。 茨城県ひたちなか市の那珂工場を中心に甚大な被 害を受けた半導体メーカーのルネサスエレクトロニ クス株式会社は、建屋や生産設備の被災、操業停止 に伴う売上の低下などで約655 億円の損失を出した が、地震保険に加入しており160 億円を上限に保険 金が支払われる見通しだ。「被害額全体をカバーす ることはできないものの、震災からの復旧に必要な 費用を補う上で十分意味のある金額であった」と同 社広報部では話している。 三菱ケミカルホールディングスでは、子会社であ る三菱化学株式会社の鹿島事業所を中心に設備の停 止や損傷などの被害が発生し、休止期間中の固定費 や棚卸資産の消失損失など400 億円の被害(うち 300 億円は販売の減少によるもの)が出たか、事業 中断の損失をカバーする利益保険にも加入していた ことで90 億円の資金調達が可能になった。 このほか、JA 共済は、地震保険ではないが、キ ャットボンド(Catastrophe: 大災害、bond:債権) と呼ばれる一定規模以上の自然災害の発生リスクを 証券化によって資本市場の投資家に移転する仕組み を構築しており、今回の震災では300 億円近い資 金調達を可能にした。同証券は、2008 年5月にケ イマン諸島に設立された特別目的会社のMUTEKI Limited が投資家に対して3年満期、額面3億ドル の米ドル建て債券を発行して資金調達したもの。キ 2.7兆円のインパクト 東日本大震災における地震保険 世界の保険市場を揺るがす
2011/07 リスク対策.com 15 ャットボンドで100%枠の資金調達が行われる(投 資家への償還がゼロになる)のは世界で初めての事 例となる。JR 東日本もキャットボンドの仕組みを 構築していたが、今回の地震は条件となる対象エリ ア外で発生したため発動されなかった。ただ、損壊 した土木構造物の復旧に要する費用は、710 億円を 上限とした地震保険ですべてカバーされるとしてい る。 いずれも大企業の事例ではあるが、地震保険など の有効性を裏付けた。 東日本大震災で、個人と企業を合わせた損害保険 全体の支払い額は約2.4 兆円にのぼる見通し。生命 保険を加えると約2.7 兆円となる。これは、日本で 最大の保険金支払い事故となった1991 年の台風19 号(損害保険と共済の合計7167 億円)を大幅に上 回り、世界的に見ても、2005 年に米国ニューオリ ンズなどを襲ったハリケーン・カトリーナに次ぐ規 模となる。 内訳は、家計向けの地震保険の支払いが6月29 日時点で1兆300 億9466 万円に達している(損害 保険協会調べ)。これは阪神淡路大震災の783 億円 を13 倍も上回る。一方、企業向けの地震保険から の支払額は、正確な数字は発表されていないが、世 界的な再保険会社として知られるGen Re ジェネラ ルマネージャーの石井隆氏は、企業の地震保険は約 6000 億円、共済の支払額が7500 億円程度と見積も る。 政府発表によると、東日本大震災の直接被害は << 特集 ハリケーン・カトリーナに次ぐ保険規模 東日本大震災で被災した工場(仙台港)
16 リスク対策.com 2011/07 が、世界的に比較すると決して高くない」と指摘す る。過去の巨大災害を見ても、ハリケーン・カトリ ーナは被害額の約50%、ノースリッジの地震が35 %、チリの大地震でも約27%が保険によりカバー されている。今年2月に発生したニュージーランド のクライストチャーチの地震では経済損害額の約半 分にあたる8000 億円が保険でカバーされる見通し だ(下図表)。 「日本の生命保険の加入率は国際的にみても高い 水準であると言えるが、地震保険を含む損害保険に 16.9 兆円(東京電力福島第一原子力発電所の事故に よる放射能汚染の被害は含まず)と試算されている が、石井氏の見積りによれば、被害総額の約14% が保険によってカバーされる計算だ。 一般的に、保険会社は、リスクの一部を世界の再 保険会社に転嫁しているが、石井氏は、企業に支払 われる保険金のうち8000 ~ 8500 億円が再保険市 場から回収されるものと推計している。保険支払の うち、家計地震は政府と日本の損害保険会社が共同 で全ての責任を負担するため再保険市場からの資金 回収はない。したがって、それを除く企業向け地震 保険と共済についての再保険回収の割合は約6割に なる。 経済損失額だけを見れば、東日本大震災は、ハリ ケーン・カトリーナを上回り、世界の災害史上、最 大の被害をもたらしたことになる。しかし、石井氏 は「保険によるカバー率は、阪神淡路大震災ではわ ずか3%だったので、その時より改善されてはいる もともと低かった加入率 日本の保険カバー率は低い 経済被害と保険損害額 世界の10 大自然災害(1980 年以降)+ 東日本大震災・クライストチャーチ地震 2011 2005 1995 2008 1994 2008 1998 2010 2004 1992 1996 2011 *1 23,500 1,300 *2 6,437 84,000 60 170 4,200 520 50 60 3,050 >150 *1 300,000 125,000 100,000 85,000 44,000 38,300 30,700 30,000 28,000 26,500 24,000 20,000 *1 30,000 62,200 3,000 300 15,300 18,500 1,000 8,000 760 17,000 445 10,000 10.0 49.8 3.0 0.4 34.8 48.3 3.3 26.7 2.7 64.2 1.9 50.0 東日本大震災 *1 ハリケーン・カトリーナ 阪神・淡路大震災 中国四川大地震 ノースリッジ地震 ハリケーン・アイク 中国長江洪水 2010 チリ地震 中越地震 ハリケーン・アンドリュー 中国貴州省洪水 クライストチャーチ地震 *3 年事象名犠牲者数(人) 経済被害(A) 保険損害(B) (B)/(A)% 注: *1 東日本大震災は原資料にはなく、筆者の6 月時点での判断による暫定数値 *2 犠牲者数は死者・不明者数に実数に変更 *3 クライストチャーチ地震の経済被害、保険損害は累計時点の暫定数値 資料:Munich Re, Geo Risks Research, NatCatSERVICE - As at 11 March 2011 をもとに石井氏が加工 基準日:2011年3月11日(ただし、原資料は東日本大震災を含まず) 単位:百万ドル 東日本大震災の保険料支払い額 ●損害保険 家計地震保険 約1 兆円 企業地震保険 > 6,000 億円 (他の損害保険種目を含む) 共済 約7,500 億円 ●生命保険 合計 約3,000 億円 合計 約2.4 兆円 総額 約2.7兆円
2011/07 リスク対策.com 17 た災害リスクの大きい国であることが分かる(19 ページ図表)。 そもそも、企業も個人も、これまでは地震保険を 積極的に買おうとせず、地震がきたら仕方がないと いう考えがどこかにあったことは否定できない。 そんな中、地震保険のニーズが急増している。個 人向けについては2011 年3-5月の大手損害保険 5社の販売実績は前年同期に比べ14.5%も増加した。 企業の地震保険も大手各社を中心に問い合わせは 増えているようだ。「正式な数字まで把握していな いが確実に問い合わせは増えている」(大手損害保 険会社広報部)。 ただ一方で、個人向けの地震保険は今でも入れる が、企業の地震保険は、現状、積極的に引き受けて いる保険会社は少ない。大手損保各社に取材したと ころ、多くが地震保険の新規取り扱いを見合わせて いる状況。現時点では再開のめども立っていないと の回答もある(6月末時点)。既存の契約先の補償 生命保険は世界9位、損害保険は34 位 GDP に対する保険料の割合 << 特集 関してはそもそも関心が高い状況と言えるようなも のではなかった」(石井氏)。 それを実証するのが、GDP に対する元受保険料 のボリュームの世界各国との比較だ(下図表)。生 命保険は7.3%で上位に位置するが、損害保険につ いては2.0%で欧米先進諸国の半分程度、かつ世界 平均を下回る。 ちなみに、個人向け地震保険の世帯加入率は被災 地にあたる宮城県で32.5%、岩手県12.3%、福島県 14.1%(09 年度末)で、全国平均が23%。これも 決して高い割合とは言えない。 企業については加入率を示す資料は存在しないが、 石井氏は火災保険に加入している企業のせいぜい20 %程度しか地震保険をかけていないと推測する。 日本の地震や台風リスクを考えれば、もっと高く ていいというのが石井氏の持論だ。ミュンヘン再保 険が2002 年に示した世界の大都市の自然災害リス ク・インデックスでは、経済価値の大きさと巨大地 震リスクに曝されている東京が断トツに高く、4位 に大阪がランクされるなど、日本は世界でも突出し 世 界 米 国 ドイツ 英 国 日 本 フランス 中 国 ロシア 韓 国 オーストラリア ニュージーランド 62,909 14,658 3,316 2,247 5,459 2,583 5,878 1,465 1,007 1,236 140 4,066,095 1,139,746 238,366 309,241 505,956 283,070 163,047 39,576 91,963 60,317 6,685 2,331,566 492,345 111,775 217,681 399,100 194,077 109,175 636 57,436 32,468 1,064 1,734,529 647,401 126,591 91,560 106,856 88,993 53,872 38,940 34,527 27,849 5,622 6.5% 7.8% 7.2% 13.8% 9.3% 11.0% 2.8% 2.7% 9.1% 4.9% 4.8% 3.7% 3.4% 3.4% 9.7% 7.3% 7.5% 1.9% 0.0% 5.7% 2.6% 0.8% 2.8% 4.4% 3.8% 4.1% 2.0% 3.4% 0.9% 2.7% 3.4% 2.3% 4.0% ? 1 5 3 2 4 7 19 10 14 42 ? 19 20 6 13 7 47 48 15 29 32 ? 1 6 3 2 4 7 53 8 15 45 ? 24 23 4 9 8 38 84 12 29 51 ? 1 2 4 3 5 9 11 12 13 31 ? 7 12 10 34 15 70 20 16 29 11 国 名 総保険料生命保険料損害保険料 順位 順位 順位 GDP 10 億ドル100 万 ドル 対GDP (%) 順位 100 万 ドル 対GDP (%) 順位 順位 100 万 ドル 対GDP (%) GDP : 2010 IMF List 保険料: Swiss Re , Sigma 2010 No.2 をもとに石井氏が加工 急激に高まる需要
18 リスク対策.com 2011/07 保険市場に今、何が起きているのか。 「地震リスクの大きい日本では、もともと損害保 険各社が地震保険を積極的に販売してこなかった」 との見方もあるが、石井氏は、「どうにかしてあげ たくても、今すぐにはしてあげられない状況という のが実態」と説明する。 元受保険会社が、保険金の支払い能力を確保する ためには2つの方法がある。1つは、自分の資本金 を増やすか、責任準備金と呼ばれる資金プールを蓄 えておくこと。もう1つは、資本金でまかないきれ 拡充の要望に対しても、「原則として個別対応では あるが、一旦お断りしている状態」(大手損害保険 会社広報部)など対応は消極的だ。 さらに、保険料率の大幅な値上げを懸念する声も 高まっている。保険会社が調達する再保険の料率は すでに上がり始めている。世界的な再保険会社であ るスイス再保険は、「2011 年4 月時点で、日本の地 震保険に対する再保険料は20%~最大60%上昇し た」と発表した。結果として事業会社が元受保険会 社に支払う保険料も引き上げられる見通しだ。 災害の多発で再保険市場がひっ迫 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 出典: Guy Carpenter & Company, LLC Inde x Rate on Lin e 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 ? 再保険料の推移 クライストチャーチ地震(写真提供:日本赤十字社) ミシシッピー川大洪水(写真提供:FEMA) 東日本大震災 世界で多発する自然災害により 再保険料率は高騰
2011/07 リスク対策.com 19 ない部分を世界の再保険市場から調達する方法だ。 新規加入件数が10 件や20 件という数なら自己資 本、責任準備金でどうにかなるが、数百件、数千件 というレベルになれば、仮に一斉に保険金を支払う ような大災害が起きればたちまち資金が枯渇してし まうため、かなりの追加資本を用意しなくてならな い。「地震保険の引受けを増やすためだけに一度に 大量な資本金を集めることは、配当や経営のバラン スを考えても現実的ではない」と石井氏は指摘する。 結論としては「数年をかけて、少しずつ資本と責任 準備金を増強していくしかない」(石井氏)とする。 一方、再保険市場から調達する方法については、 毎年、元受保険会社が再保険会社に保険料を支払っ て、高額な資金を確実に調達できる仕組みになって いるが、もともと再保険者の目から見ると日本の地 震保険に対する再保険料率が低すぎることが問題に なっていたという。 原因の1つは、地震リスクを引き受ける保険料率 や再保険料率を算出するために使われているキャッ ト・モデル(工学的エクスポージャー算出モデル) の精度が不十分であることだ。例えば、今回の地震 << 特集 で甚大な被害を及ぼす原因となった津波リスクはキ ャット・モデルにおいて十分反映されておらず、近 年多発している大災害でも「モデルで算出した支払 い額と実際の支払い額に大きな差が生じている」(石 井氏)とする。 そもそも、保険会社が再保険会社へ支払う保険料 率は、大規模な自然災害が発生して再保険市場に対 する資金需要が急激に高まると上がり、逆に巨大災 害が無く再保険市場からの資金流出が少ない年が続 くと減少する傾向にある。過去には、1992 年にア メリカに大きな被害をもたらしたハリケーン・アン ドリューや、2001 年の9.11 同時多発テロ、2005 年 のハリケーン・カトリーナで再保険料率は大きく跳 ね上がった。 ここ数年は、保険料率は下がっていたが、昨年か ら今年にかけては、チリ地震やオーストラリアの大 洪水、ニュージーランド地震、今回の東日本大震災、 米ミシシッピー川の洪水など大災害が相次ぎ、再保 険市場からの資金回収は急激に高まっていた。 世界的な保険ブローカーであるエーオンベンフィ ールドの調査によれば、今年1月~3月末までに再 大都市の自然災害 リスク・インデックス 人口および世界的重要性をベースに選んだ世界 50 都市についての自然災害リスクと損害リスク を明確にし、大都市間で比較した おもな算出対象リスクは、地震、暴風雨、洪水。 火山噴火や森林火災、凍結被害なども含まれる 出典:ミュンヘン再保険
20 リスク対策.com 2011/07 保険市場が再保険料を支払うために確保した資本 は、2010 年の1年間分と大差がない。最近の自然 災害の再保険市場からの回収はこれから本格化する が、すでに再保険市場はひっ迫してきていることを 意味する。 石井氏によれば、「それでも世界の再保険市場の 資本規模は大きく、日本の地震リスクについて追加 引き受けが可能ではあるが、現在のような再保険料 率水準で引受けを増やせば、再保険会社の経営が成 り立たなくなる。キャット・モデルの抜本的な見直 しを早急に行うとともに、再保険会社の安定的な経 営が確保できる再保険料率にしていかなくては最終 的なリスクの引受手はいなくなる」と懸念する。 もう1点、保険会社の経営の安全性を図る指標と してソルベンシー・マージン基準というものが用い られている。これは通常では予測できない事態が発 生した場合にも保険会社にどれだけ支払能力(ソル ベンシー・マージン)があるかを示す数値。一定の 数字を下回ると金融庁からの指導が入る。2012 年 3月末期からはその計算基準が強化される。石井氏 は、「現在、大手元受各社が新規地震保険の引き受 けや既存顧客の補償拡大に応じられない背景にはこ うした事情もある」とする。すなわち、地震保険の 引受けを増やすためだけの資本増強は容易ではな く、再保険手当の拡充もできないままに引受けを増 やせば、たちまち保険会社の支払能力に問題が生じ、 ソルベンシー・マージン水準を一気に低下させる、 ということである。 石井氏は、「今回の震災は、企業が保険の役割に ついて考え直すきっかけになった。事業会社として は、まず自社の保険加入状況を正しく把握し、数年 をかけて地震保険に入れるような関係を元受保険会 社と構築していくことを勧める」と語る。 その上で、財物補償だけでなく、事業中断による 売上の低下などを補償する利益保険や、取引先の被 災により自社製品の製造ができなくなったことに備 える構外利益保険についても検討をすべきだとする。 「東日本大震災起こったからといって、首都直下 型地震のリスクが消えたわけでも、東南海、南海地 震のリスクが薄まったとか遠くなったわけでもな く、むしろ強まったと指摘する専門家もいる。保険 会社は、地震保険の引受けを増やせるよう早急に体 制を整備する必要がある。他方、企業側においては、 今、地震保険に入れないといってあきらめるのでは なく、各社の事業継続体制の見直しとともに、火災 や風水災に対する備えと同様に地震についても保険 をリスクマネジメントの柱として計画的に備えを拡 充していくべき」と石井氏は話している。 ソルベンシー・マージン基準の強化 被災時に役立つ 財務戦略が分かるリスク対策.com 2008年3月号 ? CAT ボンド/ JR 東日本 ?コンティンジェント・デット/巴川製紙所 ?ファイナイト/シナネン ?キャプティブ/三菱商事 ?コミットメントライン/オリエンタルランド 再保険市場の総資本量 出典: Individual Company Reports, Aon Benfi eld Analytics -17% B:Billion $411B $342B $402B $470B $440B 2007 2008 2009 2010 Q1 2011 -6% 18% 17% 今年の1月~3月末で、2010 年の1年間分とほぼ同じに
保険会社 保険料保険金 再保険会社 再保険会社再保険会社再保険会社再保険会社再保険会社再保険会社 再保険会社再保険会社 << 特集 再保険のサービスイメージ 地震保険の仕組み 個人向けは50%が限度 0 1,150 億円1 兆9,250 億円5.5 兆円 5% 50% 政府責任負担額4 兆3,012.5 億円 民間責任負担額 1 兆1,987.5 億円 1,150 億円までは 民間で保険金を 100%支払う 1,150 億円を超えて 1 兆9,250 億円までは 民間と政府が保険金を 50%ずつ支払う 1 兆9,250 億円を超える 部分は、民間が保険金の 5%を、政府が保険金の 95%を支払う 【家計地震保険】 家計地震保険は、法律に基づく 公的な保証で、単独では契約ができ ず火災保険とセットで入る。どの損 保会社で契約しても原則として保険 料や補償内容は同じ。ただし、居住 する都道府県、住宅の構造などで保 【企業の地震保険】 一方、企業が購入する地震保険 はすべて民間の保険会社のビジネス によって保険金が支払われるため、 保険各社では巨大災害に備えて、国 際的な再保険市場から巨額な再保険 を購入している。いわば保険が払え ない時のための保険という位置づけ だ。 毎日のように発生する小さな火 災や交通事故などに対する保険金の 支払いは多少の増減があっても、毎 年、一定の範囲内で収まるため、保 険会社は自己資本の中で支払える体 そもそも地震保険とはどのような仕組みよって成り立っているのか。 地震保険は、一般住宅にかけられる個人向けの家計地震保険と、企業などが購 入する企業地震保険とに分けられる。通常の火災保険では地震や津波、噴火に よる損害は補償されない。これをカバーするのが地震保険だ。 険料が異なる。地域によって想定さ れる地震の規模や発生確率が異な り、住宅の構造で被害の度合いも違 ってくるからだ。 被災時に受け取る地震保険の金 額は火災保険契約金額の30 - 50 %の範囲で決まる。家を再建するの ではなく、あくまで震災後の当面の 生活を立て直すための位置づけにな っている。 建物は5000 万円が限度額で、 建物の倒壊や傾斜、損傷の度合いの 査定により、「全損」と認定されれ ば契約金額の100%(時価が限度)、 半損が約50%、一部損が5%支払 われる。 家計地震保険は、政府と保険会 社が共同で責任を負担しており、 1150 億円までは民間が負担。そ れを超えた場合は民間と政府が 50% ずつ保険金を支払う。1 兆 9250 億円を超える部分は95%を 政府が負担する。1回の地震につい て支払われる限度額は5兆5000 億円だ。 制を整えている。しかし今回の東日 本大震災のような数十年、数百年に 一度の大規模な災害や事故について は、あらかじめ、すべての保険金が 支払えるように資本金を積んでおく ことは困難なため、再保険会社に毎 年一定の契約金を支払って、いざと いう時に一定枠の資金が調達できる 仕組みを整えている。 2011/07 リスク対策.com 21
22 リスク対策.com 2011/07 「東日本大震災以降、地震保険に入れないかとい う問い合わせを多くいただくようになりました。す でに地震保険に加入している企業さんでも、保険料 率が30 ~ 50%も増加するため、何とかコストダウ ンできないか、事業中断による売上損失などを補償 する利益保険に入ることはできないかなどの相談を いただいています」 マーシュブローカージャパン バイスプレジデン トの中澤哲郎氏は、東日本大震災後の企業の地震保 険に対するニーズは急速に高まったとする。 同社は、保険契約者(事業会社)と保険会社の間 に立って保険プログラムを構築する世界的な保険ブ ローカーとして知られる。事業会社からの依頼を受 けて、最適な保険会社を世界中から探し出す。国内 の大手損害保険会社が地震保険の新規引き受けや補 償拡充を見合わせていることで、同社に助けを求め る声が多くなっているのだ。 こうした要望を同社がすべて引き受けているわけ ではないが、中澤氏が解決策の1つとして提案する のが海外の再保険会社へのアプローチだ。 損害保険会社は、大規模な事故や地震災害等に備 え、毎年、再保険会社に対して一定の料金を支払い、 万が一の事態になっても十分な資金調達が可能なよ うにしていることは先に紹介したが、日本の損害保 険会社が企業の地震リスクを引き受けたがらない 今、マーシュのような保険ブローカーを通じて、海 外の再保険会社にリスクを直接引き受けてもらう交 渉をすることで地震保険に入れる可能性が出てくる という。 「今年に入りオーストラリアの洪水、ニュージー ランドの大地震や東日本大震災、アメリカのトルネ ードなど世界中で相次ぐ災害により再保険市場はひ っ迫してきてはいますが、引受キャパシティがない わけではありません。いまは海外の再保険会社が、 もう少し保険料率を高くしても地震保険を買う事業 会社が出てくると見ているため、売り控えをしてい るのです。再保険市場においても、日本の地震保険 の料率は高騰していますが、いかに適正な保険料率 で再保険会社からキャパシティを引き出すかが課題 です」(中澤氏)。 事業会社の地震に対するリスクが、再保険会社に とって魅力的、つまりビジネスとして成立すること を理解してもらえれば、今でも地震保険を引き受け てもらえる可能性は十分あるとする。そのためには、 建物・設備の耐震性や、BCP の策定、定期的な教育・ 訓練などの対策がしっかり行われているかどうかが 問われることになるという。 「これまで日本企業は、地震保険を保険会社から 言われた通りに買っていればよかった時代でした が、これからは、うちは防災対策が万全、あるい はBCP をしっかり作っているから地震に対しても 強いということを積極的にピーアールしていかなく ては保険に加入させてもらえません。欧米のグロー バル企業のように、自社のリスクは優良リスクであ 海外の再保険会社なら、日本の地震リスクを引き受けてくれる可能性はある。 しかし、前提として、防災やBCP(事業継続計画)への取り組みが不可欠になる。 リスクに強い会社だけが、地震保険に入れる時代が到来している。 防災・BCPを売り込め 保険商品を買う時代は終わった 規制製品からオーダーメイドへ
2011/07 リスク対策.com 23 << 特集 図1:地震保険調達の流れ ると保険会社に対してアピールする、つまり、リス クを売るという発想への転換が必要であると考えま す」(中澤氏)。 ただし、中澤氏は、仮に建物を耐震化していなか ったり、BCP を策定していない状況でも、それら の情報を隠して、何も言わないことは避けるべきだ と警告する。「保険会社が地震保険料を算出する際 に活用されるリスク分析モデルでは、何も情報が無 いことは最も悪い評価になります。今は耐震化して いないが、何年後に耐震化する予定など、プラスの メッセージとして伝えることが大切でしょう」(中 澤氏)。 日本で保険が自由化されたのは、わずか10 年ほ ど前のこと。それまでは保険料率は、保険業法下で 一定に定められており、企業は規制製品の地震保険 を買うしかなかった。同社代表取締役の平賀暁氏は 「地震保険が自由化された今、企業には、自社の置 かれている状況を見極め、どの部分に、どのような 保険を、どのくらいの限度額でかけるのか、自社の 経営状況と照らしあわせながら、自ら考えていくオ ーダーメイドの姿勢が求められている」とする。 同社が提供している地震保険調達の作業手順は図 1の示す通り。 まず、地震リスク分析と呼ばれる作業。これは、 地震によって引き起こされる最大の損失額を把握 し、適正なてん補限度額を把握するためのもの。 この際、基本となるのがCOPE 情報と呼ばれる ものだ。 COPE とは、C(Construction= 対象物の構造等)、 O(Occupancy =対象物の用途等)、P(Protection= 対象物の現状の耐震・防火策等)、E(Exposure = 対象物が置かれている立地環境、特性等)の略。 これらの情報を分析した上で、具体的に何を、ど こまでをカバーしたいのか範囲や限度額など付保方 針について打ち合わせを行い、保険設計の作業を行 う。 地震リスク分析 付保方針 保険設計 保険マーケティング 地震保険の調達 概算保険料(ターゲット)の提示 主要施設の実施調査 地震による予想最大損失額の把握 適正なてん補限度額の把握 適正限度額の把握のために、まずは地震リスク分析から 3 カ月付保方針の決定(対象施設・対象資産・利益等) 1 カ月 最適地震保険の設計(保険料予算・限度額・免責金額) 保険会社との折衝(条件・引受額・保険料) COPE 情報でリスクを分析
24 リスク対策.com 2011/07 その内容に応じて、国内外の保険会社、再保険会 社と折衝を行い、地震保険を調達する。場合によっ ては複数の保険・再保険会社を組み合わせることも あるとする。 中澤氏によると、海外の大企業では、自社のリス クマネージャーが自ら保険会社や再保険会社に出向 いて、自社の事故や災害に対する備えの高さをアピ ールすることが一般的に行われているという。それ によって、例えば「今年は耐震化をこのくらい進め たので、保険料率を少し下げてほしい」など、毎年、 契約の更新時に保険料率やカバーの範囲を交渉する のだという。 平賀代表は「地震保険が高いと思うなら、適正な 価格で買える努力をすべきで、それを証明できる情 報を出さなくてはいけない」と指摘する。しかし、 そもそも日本の事業会社には、地震保険が高いのか 低いのかも理解しづらいという根本的な問題が横た わっているようだ。 「勝手に、地震保険が高いというイメージだけが 定着していますが、何と比較して高いと言っている 海外企業はリスクマネージャーが直接交渉 のか本人も分かっていない」(平賀代表)。 保険は基本的に、事故や災害などの発生確率と、 支払われる金額とで決まる。例えば年間1億円の保 険料と言えば、高いと考える人は多いかもしれない が、仮に、1000 億円の被害をもたらす事故が1000 年に1度の確率で起きるとなれば1億円という数字 は適当と考えられる(もちろん実際には、保険会社 の利益や手数料も保険料に含まれるため一概には言 えないが)。 「たった1億円でカバーできると見るか、1億円 もと見るか、基準が非常にあいまいで、感覚的に安 い、高いということを自分で勝手に設定してしまう から、保険会社とも議論ができなくなってしまう」 (平賀代表)。 担当部門によって、保険が高いのか、安いのかの 感覚が異なるようなことも往々にしてあるようだ。 「総務部門が1億は高いと言っても、日常的に投 資リスクと向き合っているような財務部門は10 億 円でも安いと考えることもある」(同)。 平賀代表は、経営判断として、まずは自らが受け る被害がどのくらいあって、そのうち免責額がいく らで、どのくらいを保険によって賄うのかを企業自 らが考えていく必要があると説く。保険だけでは、 資金調達のスピードに心配があるなら、被災時に一 定額の資金を金融機関から調達できるようにコミッ トメント・ライン※を併せて締結しておくのも手だ とする。 「緊急融資の担保として、地震保険を位置づける 仕組みを考えていいかもしれない」(平賀代表)。 いずれにしても企業に求められるのは、主体的に 資金調達をする姿勢だとする。 ※コミットメント・ライン:あらかじめ定めたリスク(事故、 災害等)が顕在化した場合に、あらかじめ定めた融資限度枠や 金利条件に基づき、企業が必要とする資金の機動的な借り入れ マーシュブローカージャパン バイスプレジデントの中澤哲郎氏を可能とするスキーム
2011/07 リスク対策.com 25 << 特集 RiskLink は、世界各国で発生する自然災害リス クによって企業がどのくらいの被害を受けるかを分 析するモデル。日本なら地震と台風、アメリカなら 地震・ハリケーン、ヨーロッパなら洪水・風災…と いった具合に、それぞれの国や地域における自然災 害に関する被害データを反映しており、それによっ て企業が所有する建物や機械設備、在庫などが受け る予想損失額とその確率を算出する。 日本の地震モデルは、将来発生する可能性がある 約2 万7000 の想定地震について、それぞれのマグ ニチュードと年間の発生確率が設定されている。今 回の東日本大震災については完全には想定されてい なかったが、政府が想定している地震は、プレート 型だけでなく、活断層型や震源位置が特定できない ものも含め、すべてデータとして取り入れられてい るという。 これらの地震によって生じる被害は、対象施設の 震源からの距離と、地盤などによって異なる。震源 地からの距離が長いほど地震動は減衰するし、地 盤が軟弱であれば揺れが増幅するためだ。そこで RiskLink では、対象物の位置を入力することで各 地震の震源地からの距離と地盤の状態から、それぞ れの地震動が算出される仕組みになっている。この 地盤データは、首都圏、名古屋、大阪市は100 メー トルメッシュ、その他については1キロメートルメ ッシュ単位でモデルとして組み込まれている。 次に、その地震動によって対象施設が被る具体的 な被害額を算出する。RiskLink には様々な構造種 別や、階数、建築年ごとに、地震動の大きさによっ てもたらされる被害損失の大きさとの関係(損失率 曲線)が過去の被害データなどから計算されており、 企業が所有する施設の所在地、階数、構造、建築年 などを入力することで、想定地震による被害率が算 出される仕組みだ。これに、施設の再調達価額、つ まり現状で同じ施設を建てるために必要な金額を掛 け合わせることで損害額(復旧費用)が把握できる ようになる。建物内部の機械設備や在庫品などにつ いても、それぞれ損失率曲線が用意されており、こ れらも同様な方法で算出される。 一方、企業が被る被害は建物や施設だけでなく、 地震による休業損失なども考える必要がある。具体 100% 損失率曲線(平均値) 損失率 地震動の大きさ 10% 1% 0.1% 0.01% 地震が発生したら、一体どのくらいの損害を被るのか。これが、地震保険を検討する上で重要なポイントで ある。世界の保険会社や再保険会社が使っている自然災害評価システムRiskLink を使用して分析サービス を提供する応用アール・エム・エス株式会社に地震による被害額の算出方法を聞いた。 自社の地震リスクを知る 地震による損失額はこうして算出される! 損失率曲線のイメージ 同じ構造や階数の建物でも、実際には地震動による被害の 大きさにはばらつきが出る。その平均値をとったのが損失 率曲線だ。
26 リスク対策.com 2011/07 的には、建物、機械設備など物的な被害程度に応じ た休業日数に、1日あたりの失われる年間貢献利益 (営業利益と人件費など固定費)を掛け合わせた額 が休業損失となる。これについても業種や年間貢献 利益から損失額が算出される。 ところで、企業が考えなくてはいけない地震は1 つだけではない。RiskLink には日本で約2 万7000 もの想定地震が設定されているが、同じ対象施設の 所在地でも、周辺に活断層が複数存在していたり、 プレート型の巨大地震の影響を受けやすい可能性は あるため、複数の地震リスクを考える必要がある。 そこで、RiskLink では、損失をもたらす全ての 地震とその予想損失額から、どのくらいの損失がど のくらいの確率で発生するかをリスクカーブと呼ば れる曲線で表し、また1年間に発生する平均損失額 (期待損失額)も把握できるようになっている。 例えば100 億円の被害が予想されるA 地震が 500 年に1度の確率で発生するとすると、1年間の 発生確率は0.2%となり、1年間に発生すると考え られる期待損失額に換算すると0.2%× 100 億円で、 2000 万円となる。つまり年間2,000 万円ずつ、500 年間積み上げれば100 億円が支払えるという計算。 また、これとは別に50 億円の被害が予想されるB 地震が200 年に1度の確率で発生するとすると、1 年間の発生確率は0.5 %で、期待損失額は0.5%× 50 億円で2500 万円となる。さらに別の30 億円の 被害が予想されるC 地震が100 年に1度の確率で 発生するとすると、発生確率は1%で期待損失額は 1%× 30 億円で3000 万円。これらを合計すると、 この企業の地震リスクに対する年間期待損失額は 7500 万円となる。 A 地震 0.2% × 100 億円= 2000 万円 B 地震 0.5%× 50 億円= 2500 万円 C 地震 1%× 30 億円= 3000 万円 ==================== 7500 万円/年間 この金額が理論上の純保険料であり、極端な話で はあるが、これと同額を毎年積み上げていけば、上 記で想定した地震被害についてはすべての費用が賄 えることになる。ただし、すべての地震リスクにつ いて想定することは現実的ではないため、例えば、 150 億円の損害が1000 年に1度、つまり0.1%の発 生の確率で発生するとしたら、企業の選択肢として、 0.1%以下の確率で発生する地震リスクすなわち150 純保険料やリスクカーブを知る 年超過確率 企業が被る予想損失額 1.0% 0.5% 0.2% 0.1% 30 億50 億100 億150 億 年超過 確率 0.1% 0.2% 0.5% 1.0% 1,000 500 200 100 150 100 50 30 再現期間 (年) 損失額 (億円) 100 億円以上の 損失額が発生する 確率が、1 年間で0.2% 500 年間で1 回の 頻度で100 億円以上の 損失額が発生する リスクカーブの例
2011/07 リスク対策.com 27 億円以上の損害は保有する、つまり地震保険の対象 にしないという判断をすることもできる。また、30 億円以下の被害は自己資金で保有するという判断も できる。 一方、実際に事業会社が保険会社に支払う保険料 は、この純保険料に保険会社の利益や手数料、人件 費を含めた諸々の経費(付加保険料)が含まれるた め金額はさらに高くなる。 こうした数字を算出することで、事業会社は自社 のリスクを正しく把握でき、保険料の妥当性につい ても検討する材料にすることが期待できる。 しかし、応用アール・エム・エス代表取締役社長 の山田敏博氏は「単純に純保険料に比べて保険料が 高すぎるとか、火災保険に比べて高すぎるという発 想になってしまうことは適正な考え方ではない」と 指摘する。保険料は、その時々の財務状況によって 妥当とされる金額は異なるし、保険料が多少高くて も避けなくてはいけないリスクもあるため、「こう した基本的な数字を保険会社と事業会社がお互いに 共有した上で、どこまでを保険でカバーする必要が あるのか、あるいは自社でリスクを保有するのかを、 話し合っていくことが大切」(山田社長)とする。 RiskLink の活用は、BCP の策定や検証において も有効だ。同社の森祐二部長は、「自社が保有する 施設ごとにリスクの大きさが明確になるため、例え ば自社の中核となる事業所が、他の事業所に比べど のくらいリスクが高いか低いかが分かるし、耐震化 や施設の分散化などBCP の投資を考える際にも、 それによりリスクがどのくらい減るのかが具体的数 字となって示されるため、経営にとっても費用対効 果が見えやすい」と語る。リスクの高い事業所が明 確になれば、対策の優先順位も変わる。また、代替 拠点などを検討する際においても、リスク分析の視 点からその妥当性を検討する材料に使うこともでき るとする。 山田社長は「保険をかける、かけないの結論は別 に、まずは自社が抱えているリスクを正しく知るこ とが事業継続において必要」と話している。 保険料の検討材料に リスク評価をBCP に生かす 相模トラフ(1703 年元禄地震) M8.1 相模トラフ(関東大地震再来) M7.9 関東平野北西縁断層帯主部 M8.0 南関東直下① M7.2 南関東直下② M7.2 神縄・国府津- 松田断層帯 M7.5 立川断層帯 M7.5 南海トラフ(東海- 東南海- 南海)M8.5 南海トラフ(東海- 東南海) M8.4 南海トラフ(東海) M8.0 年超過確率0.2%(再現期間500 年) 年超過確率0.1%(再現期間1000 年) 平均値 企業が被る予想損失額(億円) 90 パーセンタイル値 0 50 100 150 200 250 300 350 懸念される地震 目標とする 確率 純保険料 代理店手数料 社 債 (営業)保険料 付加保険料 利 益 リスク移転限度額の検討の例 懸念される地震や目標とする確率に応じた合理的な限度額を設定 保険料の内訳(イメージ) << 特集
28 リスク対策.com 2011/07 2つ目の商品は、地震による損害・損失を単独で 補償する「企業地震保険」。一般的に日本で「企業 向け地震保険」と呼ばれているものは、火災保険の 拡張担保特約としての商品がほとんどだが、同社で は、火災保険と独立した契約としての引き受けを可 能とした新商品を開発した。 同社シニア・プロパティ・アンダーライターの岩 崎智哉博士(地震工学)は「地震保険に加入してい る企業でも、必ずしも十分な補償を付けていらっし ゃらないケースがあるようです。そのようなお客様 に対する上乗せの補償を考えた時に、火災保険とは 独立した形で提供できる地震保険があれば、お客様 の選択肢を広げる一助になると考えました」と開発 の経緯を説明する。 ただし、火災保険に入っていないような企業に対 して地震保険だけを売ることは、理論的には可能 でも現実的には考えにくいと指摘する。「あくまで、 しっかりとしたリスク対策ができているお客様に対 して、付加価値のあるサービスを提供することを目 的としています」(岩崎氏)。 3つ目は、「企業地震保険」の補償の一部として のサービスで、「事業継続費用保険金」(Business Continuity Expense) と呼ぶ。「まったく新しいコ ンセプトの商品で、世界的にも稀有(けう)な保険 商品」(同)。 事業継続費用保険金は、企業が被災した場合に、 0 同社は、世界的な再保険会社スイス・リーが率い るグループ会社の中の1社で、元受保険会社として 企業向けの損害保険を扱う。今年4月に日本支店の 営業を開始した。国内の上場企業を主なターゲット に、火災保険や地震保険の上乗せ補償、地震保険単 独のサービスなどを中心に、賠償責任などを含む企 業向け商品を提案していく。 同社が扱うプロパティ(火災系)商品は大きく3 つある。 1つ目は「企業財産包括保険」。いわゆる他の損 害保険会社の火災保険と同じで、火災や落雷、爆発、 電気的・機械的事故などによる財産上の損害などを 包括的に補償する。既に他の損害保険会社との契約 がある場合、上乗せ(追加分)の補償だけを提供す ることも可能だ。もちろん、地震リスクに対する補 償を拡張担保特約として追加することもできる。 スイス・リー・インターナショナル・エスイーのサービスイメージ 3タイプの保険を提供 早期資金調達で被害軽減 日本の大手損害保険会社が地震保険の新規引き受けに消極的な姿勢を見せる中、 外資系の損害保険会社「スイス・リー・インターナショナル・エスイー」(東京都千代田区)は 4月から日本企業を対象にした新たな地震保険の販売を開始した。 日本の保険市場に新風 事業継続に役立つ費用を保険で調達 地震拡張担保特約(上乗せ)① ①一般的な火災保険と同じ。ただし、既存契約は尊重し、 できるだけ上乗せ補償などのニーズに応えていく 事業継続費用保険金③ 一定条件で速やかに支払い 地震拡張担保特約(既存契約)① 火災保険(上乗せ) ① 地震保険 (単独)② 火災保険とは独立した 単独の地震保険 火災保険(既存契約)① 免責額
2011/07 リスク対策.com 29 事業継続上、必要となる各種の費用を補償するため に保険金を支払うというもの。例えば代替工場に生 産を切り替える場合の人員移送費用や、代替拠点と してのオフィスの借り上げ、さらには物資調達の輸 送経路・手段の変更に伴う費用などを補償すること が可能だ。「BCP に基づく、適切な時期の適切な費 用の投下は、結果として復旧時間の短縮に寄与し、 利益損失の抑止効果も期待できます」とシニア・プ ロパティ・アンダーライターの横田峰之氏はこの保 険による事業会社のメリットを説明する。 もう1つの特長が、事業会社に保険が支払われる までの時間の短さだ。これまでの財物損失を補償す る一般的な企業地震保険や、事業中断に伴う売り上 げの低下などをカバーする企業地震利益保険は、基 本的に実損査定が前提となっていたため、企業が資 金を手に入れるまでには、場合によっては1年~2 年という長い期間が必要だった。一方、このサービ スは、一定の条件さえ満たせば、最短で約3カ月と いう短期間で保険金を手に入れることができる。 その条件とは、保険の対象となる施設の所在地に、 契約時に個別に設定した規模(計測震度・マグニチ ュード)の地震が起きることと、対象施設・設備等 に損失が出ていることの2点だ。 地震規模については、パラメトリック・トリガー と呼ばれる方法により、計測震度や、特定領域内(任 意の場所に設定可能)におけるマグニチュードに応 じて、支払い割合を決める。例えば計測震度(S.I 値) が6.1 以上なら支払い額は100%、以下、S.I 値が小 さくなるほど支払い額を小さくし、5.6 以下なら0 %にするといった具合だ(図表参照)。業種・業態 により、影響の度合いなどは異なるため、それぞれ 個別のオーダーメイドによる設計になるという。 また、全国にフランチャイズ・チェーン展開をす るような企業やインフラ系を扱う企業では、個別の 設計が困難になるため、特定領域内におけるマグニ チュードを指標にすることも可能だという。この場 合も前提として物的損害が生じていることが条件に なる。 一見すると、一定条件の地震が発生した際、一定 << 特集 パラメトリック・トリガーによる支払いイメージ 金額を支払うことを取りきめておく「デリバティブ」 と呼ばれる金融商品と似ているが、「物的損害の発 生を支払条件としている点で、両者は大きく異なる」 と岩崎氏は説明する。会計上の取り扱いも保険とデ リバティブでは異なる。 実際に支払われることになる保険金は、BCP で 想定される必要費用の額を積み上げて申請してもら い、その内容を審査した上で設定する。対象として 想定しているのは、事業継続費用が数十億円規模に なることが見込まれる大企業だという。 なお、費用保険金として支払われた後の保険金の 用途は限定していない。「事業継続費用保険金は事 業継続のために使っていただく必要がありますが、 ご契約者が契約時に検討されていたものと結果的に 違う事業継続用の費用の支払いが事故発生時に必 要となったとしても対応いただけます。」(横田氏)。 そのため、申請時の段階で積み上げる費用の中身の 確認は慎重に行うが、費用保険金を支払った後の追 跡調査などは無いとする。 計測震度(“S.I.”) S.I. ≧ 6.1 S.I. ≧ 6.0 S.I. ≧ 5.9 S.I. ≧ 5.8 S.I. ≧ 5.7 S.I. ≧ 5.6 S.I. < 5.6 計測震度に応じた支払いの例 マグニチュードに応じた支払いの例 30.0 億円 24.0 億円 18.0 億円 13.5 億円 9.0 億円 4.5 億円 0 億円 30 億円 24 億円 18 億円 12 億円 6 億円 0 億円 M JMA ≧ 7.4 M JMA ≧ 7.3 M JMA ≧ 7.2 M JMA ≧ 7.1 M JMA ≧ 7.0 M JMA < 7.0 支払額 特定領域内における マグニチュード 支払額
30 リスク対策.com 2011/07 Q 世界的に大災害が相次ぎ、再保険市場からの資 金調達が難しくなったこともあり、日本の損害 保険会社は地震保険の新規引き受けを停止して いる。このような中で、新たに地震保険を提供 できる理由は? 世界の保険市場全体が、日本の地震リスクに敏感になる中、 反転攻勢に出たスイス・リー・インターナショナル・エスイー。 同社の日本における代表であるユルグ・シュトール氏に、今後のねらいと、戦略を聞いた。 日本から逃げはしない リスクと向き合うのが我々のビジネス Interview 我々は今年4月1日に東京で営業を開始したばか りで、過去の災害の支払いロスを一切抱えていない。 2 点目の理由は、お客様に対して補償を末永くご 提供することを考えているということだ。ステップ・ バイ・ステップで慎重に展開していけばビジネスと して十分に成り立つ。スイス・リー・グループとして、 必要な引き受け能力(キャパシティ)は持っている。 Q 販売の対象は、日本全国か? 基本的に日本すべてを対象にしている。地域的な 限定はしない。我々の会社にはプロフェッショナル なアンダーライター(保険引受審査の担当)がいる。 すべてのケースを個別に査定して、リスクを引き受 けるか否か、引き受ける場合はいくらで、といった 決定を行う。 ユルグ・シュトール氏 スイス・リー・インターナショナル・エスイー 日本における代表者
2011/07 リスク対策.com 31 << 特集 ただ、全企業を対象にしているわけではなく、一 定規模以上の法人をターゲットにしている。必要な カバー内容の検討を含め、個別に保険設計のお手伝 いをさせていただきたい。 Q 当面の目標は? ゴールは3つある。1つは、現状の日本の保険業 界に追加の引き受け能力と新しい付加価値を創出・ 提供すること。2つ目は、お客様にとっても、また 保険業界の中にあっても、長期的な友好関係を築い ていくということ。3つ目は規模的な面で、特に外 資と呼ばれている日本の損害保険会社の中におい て、法人向けの保険商品を販売することについて一 定の評価いただけるようなトップ集団としての地位 を築いていくことだ。 お客様の現状を尊重しながら、補償の足りない部 分に追加・補完するという付加価値を提供していき たい。 Q 東日本大震災の直接的被害が16.9 兆円と言わ れる。将来的には、さらに大きな被害が出ると 予想される首都直下地震や、東海・東南海地震 の発生も懸念される。これだけの自然災害リス クを抱えている日本をどう見ているのか。 もちろん、今回の大災害は保険業界、再保険業界 においても50 年から100 年に1回ぐらいの非常に 大きな災害だったと理解している。しかし、少なく ても、スイス・リーは、グループとしてこれまで日 本の損害保険市場に貢献してきた自負があるし、こ のような事故があった後も引き続き、日本のマーケ ットをサポートしていくことをトップはコミットし ている。 日本企業においてリスクマネジメントはさらに発 展するだろうし、企業の地震保険の必要性について も理解が進むはずだ。また、日本は建物の構造につ いては非常に高いスタンダードが維持できているな ど、期待の持てるマーケットだと考えている。 Q 大災害によって想定を上回る損失を被る心配は 無いのか? もちろん、その点は常に気をつけていく。ただ、 私どものビジネスは、リスクと向き合うということ であり、そこから逃げることはない。 日本だけではない。ヨーロッパでも、巨大なスト ームが何度も来ることは分かっているが、それによ ってリスクを引き受けないという判断はこれまでも してきていない。日本でも地域的な引き受けの限定 をしないのはそのためだ。いろいろな要素を勘案し ながら、プロフェッショナルなアンダーライティン グを行うことにより、慎重で確実なビジネスを行っ ていきたい。
32 リスク対策.com 2011/07 同社が提案するのは、被災時に「財物損害」と「休 業損失」を同時補償する地震保険。これまで国内で 提供されてきた地震保険は、火災保険の拡張担保特 約として財物だけを補償するものがほとんどで、事 業中断による利益損失について補償する商品は極め て少なかった。さらに、補償額についても全額をカ バーするのではなく、一定割合だけをてん補する「縮 小てん補方式」が一般的で、「保険料が高い割に補 償額が小さい」などの課題があった。 同社では、地震による損害は、物的損害より事業 中断による休業損害の方が大きくなることに着目。 「財物損害」と「休業損害」に、共通支払い限度額 (例えば1億円~ 100 億円)を設定し、その範囲内 で実損害額の100%まで保険金が支払われる方式を 構築した。さらに企業の内部留保、計上利益を勘案 し、一定の免責額(自己負担額)を設定することで ①「財物損害と休業損害」を 同時に補償 ●財物損害と休業損害の共通の 支払限度額設定 (1 億円~ 100 億円) ●設定支払限度額までの損害額 100%支払い(実損てん補) ●内部留保/経常利益を勘案した 自己負担額(免責額)の設定 ⇒ 経済合理性に適った 保険料設定 ② キャッシュフロー ( 継続資金調達) 対策に配慮 ●地震による喪失利益が1 カ月 以上停止した場合、 毎月末に概算保険金を支払い ●休業損害は最大12カ月間、 財物復旧後も収益が戻るまで補償 ●全休業損害が確定する前は、 1カ月後に毎月支払い ⇒ 資金ショートが 回避可能 ③ 地震リスクにフォーカス ●既存の火災保険はそのまま 継続可能 ●対象は、新耐震基準(1982 年 以降)の所有物件すべての包括契 約でも、地震リスクの高い地域の みに限定した物件だけでも可能 ●旧耐震の建物は、 耐震補強後に可能 新たな地震保険の主な特長 損害保険等の仲介を行う銀泉リスクソリューションズ(東京都千代田区)は、 比較的規模が小さな企業でも利用が可能な新たな地震保険のコンサルティングサービスを開始した。 これまであまり大手損害保険会社が手をつけてこなかった中小・中堅企業の市場獲得をねらう。 財物と休業を同時補償 中小・中堅企業に新たな地震保険
2011/07 リスク対策.com 33 保険料を安く抑えられるように工夫している。 これまで、日本の損害保険会社が企業の地震リス クを引き受けたがらなかった大きな理由の1つに、 リスクが把握しきれなかったことが挙げられる。地 震の発生確率や規模は、ある程度がモデルによって 予測できても、事業拠点や取引先が国内外にわた り、さらに事業の内容も幅広く、それらを査定する には多大な時間と手間がかかることが課題になって いた。 同社では、こうした課題に対して「1件1件の事 業会社のリスクをプロの視点から正しく査定し、国 内外の保険会社・再保険会社に提示し、中立・独立 的な立場で交渉することで最適な保険プログラムを 提供できるようにした」(銀泉リスクソリューショ ンズ取締役支配人 森島知文氏)。また、高額な案件 については、1社の保険会社にすべて引き受けても らうのではなく、複数に分散することでリスクを引 き受けてもらいやすくしている。中小・中堅企業は、 比較的にビジネススタイルがシンプルなため、大企 業に比べればリスクが把握しやすいことも、同社が 注目する点だ。 他方で、中小・中堅企業の場合、被災時のキャッ シュフローは事業継続そのものに大きな影響を及ぼ すことが懸念されるため、同社では、単に地震保険 を紹介するだけではなく、銀行からの緊急災害融資 や内部留保を組み合わせた効果的なリスクファイナ ンスについてもアドバイスしていくことにしてい る。 地震保険は一般的に、実損査定を経てから支払い が行われるため、企業が実際に資金を手に入れるま でには1~2年がかかるとされるが、同社のスキー ムでは、利益保険については「損失利益が1カ月以 上、停止した場合に、毎月末に概算保険金が支払わ れる」。財物損害との共通限度額方式とすることで 速やかな資金調達を可能とした。 新たな地震保険については日本全国、幅広い業種 の企業を対象にしており、新耐震基準(1982 年以降) の所有物件すべての包括契約でも、地震リスクの高 い地域のみに限定した物件でも引き受けが可能とし ている。また、旧耐震の施設については、耐震診断 や耐震補強などリスクコントロールを行った上で地 震保険に入れるスキームを構築している。このほか、 既存の火災保険については、そのまま継続し、地震 保険だけを新たに別契約として「上乗せ」すること もできる。 同社では、東日本大震災後に一時、同サービスの 販売を停止したが、4月から再開。「すでに数多く の問い合わせがきている」と森島氏は話している。 << 特集 企業リスクを可視化 対象は全国、リスク高い地域でも 銀泉リスクソリューションズ取締役支配人 森島知文氏
34 リスク対策.com 2011/07 被災時に企業の資金繰りに役立つのは地震保険だけではない。銀行からの融資や、あらかじめ手持ち資金を多く持ってお くことも大切な視点だ。こうした財務戦略をリスクファイナンスと呼ぶ。 経済産業省が2006 年3 月にまとめた「リスクファイナス研究会報告書」には、リスクファイナンスの種類や特性、企 業にとっての最適化を考える視点がまとめられている。それによると、リスクファイナンスの最適化を図るには、①各企 業が置かれた経営環境②財務状況③ステークホルダーからの要請④全社的なリスク評価結果??を把握し、その上で保有 可能なリスクと外部移転すべきリスクの峻別を行い、さらに、リスクファイナンスで手当てすることにより得られる効果 と、導入に要するコストを勘案した上で、自社にとって最適な手法を決定することを求めている。また、企業の内部状況(財 務状況など)や外部環境(顧客動向、経済動向、法制・税制など)の変化を踏まえることが重要な視点としている。 解説 被災時に役立つ財務戦略 主なリスクファイナンス手法 リスクファイナンスの検討プロセス [出所:経済産業省リスクファイナンス研究会報告書] 経営環境商品性活用する手法の決定 支払即時性 (流動性確保) 実損填補 (ベーシックリスク) 商品の個別性 導入コスト 契約期間 オフバランス 自己資金 (内部留保) 保険 (従来の保険) (ファイナント保険) (キャプティブ) 保険デリバティブ CATボンド コンティンジェントデット コンティンジェントエクイティ …保険市場 再保険市場 …金融市場 …資本市場 …金融市場 資本市場 保有 移転 保有&移転 財務基盤 企 業リスク ステークホルダー … … あらかじめ定めたリスク(事故、災害等)が顕在化した場合に、あらかじめ定めた融資限度枠や金利条件に基づき、 企業が必要とする資金の機動的な借入れを可能とするスキーム。似たものにコミットメントライン契約があるが、 コミットメントラインは災害・事故発生時に貸し手の貸付義務が免責となったり、借り手(企業)の信用力低下時 には資金の借入れが不能となる可能性があるが、コンティンジェント・デットでは、資金調達の確実性を担保して いる点が特徴的 コンティンジェント・デット (コンティンジェント・コミットメントライン) 保険デリバティブ コンティンジェント・エクイティ CAT ボンド ファイナイト保険 キャプティブ リスクが顕在化する確率は低いものの、発生した場合の損害規模が大きい異常災害(カタストロフィー)リスクを 証券化し、リスクを金融・資本市場に移転するスキーム。あらかじめ定めたトリガーイベント(事象)が発生した 場合に、イベントに応じた資金が企業に支払われる 発生する損害を契約者が分割して自己負担するという考え方に基づき、複数年契約とし、個別リスクに応じた保険 料を一定期間、一定金額ずつ積み立てる保険プログラム。複数年契約とすることで、大数の法則が効かない特殊な リスクも、時間軸上にリスクを分散することで保険化が可能となる。また、企業と保険会社のリスクシェアリング を行うことで、保険会社にリスク情報が乏しいリスクの保険化も可能とする 特定の親企業等(含グループ企業)のリスクを専門的に引き受けるために当該親企業等により所有され、管理され ている保険会社。一般保険会社では情報格差が大きく保険引き受けが困難なリスクでも、子会社であることで情報 格差が排除でき、付保できる可能性が広がる。また、再保険市場に直接アプローチすることで、より効率的な付保 が可能となる。さらに、リスクマネジメントセンターとして、グループ内企業のリスクを一元管理し、より戦略的 なリスクファイナンスを達成し、リスクマネジメントの機能度を高めることも可能 保険関連リスクに連動する指標の変動等を対象としたデリバティブ取引(オプション・スワップ取引等)。金融・資 本市場にリスクを移転する あらかじめ定めたリスクが顕在化した場合に、あらかじめ定めた価格による株式発行等を可能とするオプションを 企業が購入するスキーム。コンティンジェント・デット同様、資金調達の確実性を担保している点が特徴的
2011/07 リスク対策.com 35 << 特集 主なリスクファイナンス手法の特徴 * 事務コスト:リスク分析のためのコストや、手数料、弁護士費用、登記費用等のスキーム組成のためのコスト ** 会計(財務会計):リスクファイナンス商品の導入コスト(たとえば保険における「保険料」)ではなく、 リスクファイナンス商品の導入によって手当てされる額(たとえば保険における「補償額」)の会計上の取扱いを表示 有効な 活用例 リスクを限定 することなく、 資金需要が発 生した場合に 活用 会 計 オンバランス オフバランス オフバランス オフバランス (「相当の保険 リスクの移転」 が必要) オンバランス (連結子会社の 場合) オフバランス オフバランス オンバランス ( スキームに よってはオフ バランス) 契約期間** ? 短期~ 1 年が 多い 長期(複数年) が多い 1 年が多い 長期(複数年) 基本的には 「従来の保険」 と同じ 短期~ 1 年が 多い 長期(複数年) が多い 事務コスト* ? リスク移転商 品に比べ、相 対的に低い (返済義務は生 じる) 多数のものを 相手とし、比 較的標準化さ れており、他 のリスク移転 商品より比較 的低い 個別性が高く 従来の保険に 比してコスト が高くなる可 能性がある 保険子会社の 設立・運営費 用等を要する 個別性が高く 従来の保険に 比してコスト が高くなる 個別性が高く 相当に組成コ ストがかかる ため、大規模 案件向き 商品の 個別性 ? 契約内容が比 較的標準化さ れており、契 約までの時間 を要さない オーダーメイ ド商品である ため、スキー ムの組成に時 間を要する 契約内容が比 較的標準化さ れており、契 約までの時間 を要さない オーダーメイ ド商品である ため、スキー ムの組成に時 間を要する 基本的には 「従来の保険」 と同じ 契約内容が一 定程度標準化 されており、 契約までの時 間をさほど要 さない オーダーメイ ド商品である ため、スキー ムの組成に時 間を要する 支払即時性 ? リスクの顕在 化から資金が 手元に入るま での時間が短 い リスク顕在化 の後、損害調 査・査定を要 するため、通 常、支払まで に一定の時間 を要する( 内 払制度あり) リスクの顕在 化から資金が 手元に入るま での時間が短 い トリガーイベ ント( 支払事 由となる事象) によって異な るが、一般に、 リスクの顕在 化から手元に 資金が入るま での時間が短 い リスクファイナン ス手法 自己資本 (準備金等) コミット メント ライン コンティン ジェント ・デット 従来の 保険 ファイナイ ト保険 キャプ ティブを 活用した保 険 保険 デリバティブ コンティンジェント・ エクイティ CAT ボンド 保険 ベーシック リスク ? ? 実際の損害額 が支払われる (実損填補) 一般に、実際 の損害額と支 払われる金額 との間に ギャップが生 じる可能性が ある トリガーイベン ト( 支払事由と なる事象)によっ て異なるが、一 般に、実際の損 害額と支払われ る金額との間に ギャップが生じ る可能性がある 保有/移転保有移転保有&移転移転 災害・事故発 生後の流動性 の確保に活用 リスクに対し て、広く活用 されている 土壌汚染など、 リスク情報が 乏しいリスク の保険化に活 用 リスクマネジ メントセン ターとしての 活用等 天候に関する リスクをヘッ ジするものが 多い( 地震等 災害でも一部 活用) (日本での組成 例無し) 地震等異常災 害リスクに活 用 [出所:経済産業省リスクファイナンス研究会報告書]
36 リスク対策.com 2011/07 世界銀行のレポートは「保険と緊急時災害融資 と自己資金の最適な組合せが、企業のリスクファイ ナンス戦略である」と言っています。 1 自己資金 中小企業庁の「中小企業BCP( 事業継続計画) 策 定運用指針」の財務診断モデルでは、緊急時に備え、 平素から「月商の1カ月分くらいの資金(現金・預 金)」を用意しておくことを勧めています。これは 流動性リスクに対する経験則です。 災害発生直後は、工場や事務所の整備、事業再 開への対策等で資金の手当てを考える暇などありま せん。また事業はストップします。そのために、最 低1カ月くらいの出費を賄えるだけの資金を持って いなければ当面の対策を立てることもできないわけ です。企業は、まず、ある程度の自己資金を保有し ているべきです。 2004 年3 月期のソニー㈱のアニュアルレポート には、「流動性マネジメントおよびコミットメント ライン」という項目があります。その記述は下記で す。 つまり、ソニーも月商の1カ月分ぐらいの手元 資金を持つことをリスクファイナンスの方針に掲げ ていたのです。残念ながらその後のソニーの業況の 変化で、現在はこの記述は削除されています。 2 政府は自然災害による企業の損害は補償しない 東日本大震災による企業の損害を政府は補償す るのでしょうか。阪神淡路大震災の時、兵庫県議会 で「地震による中小企業の被害を国や県は救済でき ないのか」という質問がありましたが、「資本主義 社会だから特定の企業に国費や県費を出すことはで きない。長期低利融資で助ける。利息はできるだけ 補給するのが限度だ」という答えが述べられました。 今回の東日本大震災による企業の損害についても同 保険と融資、自己資金の組合せ ソニーは手元流動性の範囲を(a) 現金・預金および現金同 等物、定期預金と、(b)銀行との間で設定されるコミット メントラインのうちムーディーズによる財務格付けc’以上 の銀行と締結したものと定義しています。その上でソニー は流動性の確保のために、グループ全体で、年度における 平均月次売上高および予想される最大月次借入債務返済額 の合計の100%以上に相当する手元流動性を維持すること を基本方針としています ※本文中のWeb アドレスは電子ブック版でクリックすると対象サイトが開きます 特に中小企業においては、日常的な資金繰りに追われている中で、地震保険の購入はハードルが高すぎると考 えられている経営者も多いだろう。2006 年に中小企業庁が作成した「中小企業BCP 策定運用指針」有識者 会議メンバーの眞崎達二朗氏に中小企業に求められる財務戦略について寄稿いただいた。 ■特別寄稿 BCPと資金対策 災害時に備えた中小企業の財務戦略 世界銀行レポートより
2011/07 リスク対策.com 37 << 特別寄稿 平成23 年7月1日の朝日新聞は「民主党は、東 日本大震災の被災企業の債権(融資)を金融機関か ら買い取り返済免除などをする機構の創設を自民・ 公明両党に提案した」と報じています。手形債権か 融資かの違いはありますが、被災企業の債務を減少 させる方策です。 1923 年頃、BCP の思想など全くなかった時代に、 今回よりはるかに早いペースで、まずキャッシュフ ロー対策が取られたことにご注目下さい。 ②阪神淡路大震災 1995 年( 平成7 年) の阪神淡路大震災における直 接被害は約10 兆円と言われています。阪神淡路大 震災における中小企業への災害復旧貸付実績は、政 府系中小企業向け金融機関の貸付件数2 万7,559 件、 金額5,304 億円、保証協会の保証件数5万5,245 件、 金額6,503 億円、合計件数8万2,804 件で金額1兆 1,807 億円と大きな金額となっていて、政府の中小 企業災害対策の有効性が実証されています。ただし、 当時は貸付対象は被災地だけでした。 ③東日本大震災 今回の直接被害は16.9 兆円とされています。国 が行う災害時の企業支援策は政府系中小企業向け 金融機関(日本政策金融公庫)による長期低利の 災害復旧貸付と信用保証制度の活用です。このう ち、政府系中小企業向け金融機関の貸付件数は7万 9,732 件で1兆4,877 億円。保証協会の保証件数は 14 万8,432 件で2兆7,173 億円、合計22 万6,164 件、 4兆2,050 億円となっています(中小企業庁まとめ: 2011 年3月14 日~7月1日)。また、被災地だけ でなく全国が貸付対象となっています。 後述しますが、現在、企業向けの地震保険の新規 付保は困難な状況なので、地震災害発生時の中小企 業の災害復旧に対する政府系中小企業向け金融機関 の災害復旧貸付制度と信用保証協会のセーフティネ ット保証制度の効用は極めて大きいものがあります。 様で、金融支援が限度だと思います。 3 過去の大災害時の例 過去の大災害時の例を振り返って見ましょう。 ①関東大震災 1923 年(大正10 年)9月1 日11 時59 分、関東 大震災が起こりました。M7.9 の、歴史に残る大災 害です。 震災後6日目の9月7日に勅令「支払延期(猶予) 令」が公布されました。内容は「1923 年9月1日 以前に発生し、9月30 日までに支払いを行うべき 金銭債務で、債務者が東京、神奈川、静岡、埼玉、 千葉及び震災によって経済上の不安を生じる恐れが ある勅令で指定する地域に住所または営業所を有す る場合は、30 日間支払いを延期する」ことになり ました。モラトリアムと言います。*1 災害発生直後は、工場や事務所の整備、事業継続・ 再開への対策等で資金の手当てを考える暇はありま せん。当面事業がストップし、収入もストップする ことも覚悟しなければなりません。そのために、最 低1カ月くらいの出費を賄えるだけの手元資金を持 っていなければ当面の対策を考えることもできない というのが流動性リスクに対する経験則です。1923 年頃には、もちろんこうしたBCP(事業継続計画) の思想などはありませんでした。しかし、企業の当 面1 カ月の資金繰りが破綻しないよう、政府が震災 後わずか1 週間で「支払延期(猶予)令」を公布し たことは驚くべき英断だと思います。 さらに、9月27 日には、勅令「震災手形割引損 失補償令」が公布されました。これは、震災地(東 京、神奈川、静岡、埼玉、千葉)を支払地とする手 形、または震災地に震災当時、営業所を有した者が 振出した手形、またはこれを支払人とする手形で、 1923 年9月1 日以前に銀行が割引いたもののうち、 1925 年9月30 日以前に満期日が来るものを日銀が 再割引し、それによって損失を受けた場合は1億円 を限度に政府が損失を補償する制度です。その後、 特別融通期間を1926 年9月30 日まで延長。融通金 額は4 億3,028 万円となりました。*2 *1:*2 東京大学大学院 経済学研究科の岡崎哲二教授「関 東大震災と産業復興 自然災害と産業の空間分布変化」経済産業 省 BBL セミナー資料より引用。
38 リスク対策.com 2011/07 4 中小企業庁の支援 東日本大震災についての中小企業庁の支援内容 は、3 月13 日「2011 年東北地方太平洋沖地震等に よる災害の激甚災害の指定及び被災中小企業者対策 について」と5 月2 日「平成23 年度第1 次補正予 算を踏まえた東日本大震災の被災中小企業者向け資 金繰り支援策のご相談の開始について」に詳細が述 べられています。 今回は「措置の対象は〈全国〉」となっているため、 例えば船橋市の液状化損害も措置の対象となるなど 大きな支援効果を挙げています。 東日本大震災復興緊急保証は保証限度最大2 億 8000 万円で、従来の災害関係保証、セーフティネ ット保証を合わせると合算最大5億6000 万円とか つてない保証限度(別枠・100%保証)になってい ます。 5 株式会社日本政策金融公庫の支援 「東日本大震災により被災された皆様への支援 体制について」を公表しています。 ? http://www.jfc.go.jp/c news bn/news230318.html (1) 特別相談窓口の設置及び電話相談の実施 (詳細略) (2)各種融資制度 【国民生活事業】 6000 万円(各融資制度の限度額に上乗せ) 【中小企業事業】 3 億円(別枠) 6 民間金融機関の支援 仙台に本店を置く七十七銀行は「東日本大震災復 興支援ローン」を公表しています。 ① 対象者 平成23 年東日本大震災により被害を 受けた法人・個人事業者および個人の方 ②商品内容(別記) ③取扱期間 平成23 年4 月25 日(月)~平成24 年3 月30 日(金) 申し込み受付分まで 主な内容は次ページの図表。 ※他にも民間金融機関の支援は多く存在すると思います。 7 地方自治体の金融支援策 ○宮城県 東日本大震災で被災された中小企業者へ新しい融 資制度を創設。 「災害復旧対策資金(東日本大震災災害対策枠)」 ① 対象者 今回の地震により被害を受けた県内 の中小企業者 利用対象者融資限度額融資期間 (据置期間) 融資利率 ○直接被害を受 けた方 ○原発事故に係 る警戒区域等(注 1)内に事業所 を有する方 【国民生活事 業】 6000 万円 (各融資制度 の限度額に上 乗せ) 【中小企業事 業】 3 億円(別枠) 設備資金 20 年以内 (5 年以内)、 運転資金 15 年以内 (5 年以内) (1) 被害証明書等の発行を 受けた方 ○基準利率より最大 0.5%引下げ(注2) ○融資後3 年間について 3000 万円を上限に基準 利率より最大1.4%引下 げ (2) 上記以外の方 ○基準利率 (1) 特に業況が悪化してい る方、一定の要件に該当 する方など ○基準利率(注4)より 最大で0.5%引下げ (注2) (2) 上記以外の方 ○基準利率(注4) (1) 被害証明書等の発行を 受けた方 ○基準利率より0.5%引 下げ ○融資後3 年間について 中小企業事業の場合は1 億円、国民生活事業の場 合は3000 万円を上限に 基準利率より1.4%引下 げ< (2) 上記以外の方 ○基準利率 設備資金 1 5 年以内 (3 年以内)、 運転資金 15 年以内 (3 年以内) 設備資金 15 年以内 (3 年以内)、 運転資金 8 年以内(3 年以内) セーフティ ネット貸付 (経営環境変 化資金)と合 わせて 【国民生活事 業】 4800 万円 (注3) 【中小企業事 業】 7 億2 0 0 0 万円 ○間接被害を受 けた方 (上記対象者の方 と一定以上の取 引がある方) ○その他震災の 影響により、売 上が減少してい る方など (風評被害による 影響を含む) (注1)警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域。 (注2)売上高等の減 少で0.3%引下げ、雇用の維持・拡大を要件に0.2%引下げ。(注3)生活衛生セー フティネット貸付(運転資金のみ)の融資限度額は5 千7 百万円です。(注4)中 小企業事業の場合、信用リスク・融資期間等に応じて所定の利率が適用されます。 ●農林漁業者向け融資制度(農林水産事業) (詳細略) ●「国の教育ローン」(国 民生活事業) (詳細略) ●中小・小規模企業向け融資制度 (国民生活事業・中小企業事業)「東日本大震災復興特別貸付」 (平成23 年5 月23 日より取扱開始) ? http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/2011/1103 13TohokuGekijinShitei.htm ? http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/11050 2Eq-F-K.html ? http://www.77bank.co.jp/pdf/kinri/loan/77houjin shienloan.pdf ? http://www.pref.miyagi.jp/syokeisi/shokinhan/ syoukin1/saigaisikin.pdf
2011/07 リスク対策.com 39 << 特別寄稿 ②融資限度額 1000 万円以内 ③融資期間 10 年以内(据置2 年以内) ④融資利率 1% ⑤ 保証人・担保保証人:原則として法人代表者以 外不要 担保:取扱金融機関及び県信用保証協会所定 ⑥信用保証信用保証付き ⑦ 取扱期間 平成23 年4 月1 日から平成23 年9 月9日(融資実行分)まで ○岩手県 東日本大震災津波に係る岩手県中小企業東日本大 震災復興資金の実施について( 内容略) ? http://www.pref.iwate.jp/view.rbz?cd=32860 ○福島県 震災対策特別資金について( 内容略) ○福島県・経済産業省 原子力災害に伴う「特定地域中小企業特別資金」 の開始について。福島県及び経済産業省は、4月 22 日の基本合意を踏まえ、中小企業基盤整備機構 の高度化融資スキームを活用し、原子力発電所事故 の被災区域から移転を余儀なくされる中小企業等 が、福島県内の移転先において事業を継続・再開し、 雇用を維持するために必要な資金の融資申請を6月 1日より受付開始。 ① 対象者: 「警戒区域」、「計画的避難区域」又は 「緊急時避難準備区域」と指定された区域(4 月22 日まで「屋内退避区域」と指定された区 域を含む)に事業所を有し、その移転を余儀な くされる中小企業等 ② 資金使途: 県内の移転先において事業を継続・ 再開するために必要な事業資金(運転資金・設 備資金) ③融資限度:3000 万円以内 ④融資期間:20 年以内(うち据置5 年以内) 融資利率: 無利子 担保: 無担保 これは、今までに例のない制度です。あわせて、 特別資金を利用する中小企業を支援するため、中小 企業の経営支援分野で活躍する人材による特別支援 チームを編成し、中小企業の経営相談に随時対応す るとともに、中小企業基盤整備機構による仮設店舗・ 工場の整備や経営支援を行っています。 ※他にも地方自治体の支援策は多く存在すると思います。 8 損害保険 企業が現在付保している損害保険契約で、どのよ うな事故・災害についてどの範囲まで(災害の種類 や金額など)カバーされているかは、技術的なこと が多く、ご自分ではなかなか確認することが難しい 事業者向け 無担保口 取扱店宮城県内福島県内営業店及び盛岡支店宮城県内営業店 原則として市町村が発行する『罹災証明所』の提出が必要 被災関連資金(運転資金・設備資金) 利用 頂ける方 使いみち 融資金額 融資期間 融資利率 担保 保証人 オリックス口信保口 東日本大震災 により被害を 受けた法人お よび個人事業 者の方 で当行 所定のお取り 扱い基準を満 たされる方 東日本大震災により被 害を受けた法人および 個人事業者の方 で・ 業歴3 年以上・オリッ クスの保証が受けられ る方・当行所定のお取 り扱い基準を満たされ る方 東日本大震災により 被害を受けた法人お よび個人事業者の方 で・宮城県信用保証 協会の保証が受けら れる方・当行所定の お取り扱い基準を満 たされる方 2,000 万円以 内 ( 当行と融資取 引のない方は 1,000 万円以 内) 3,000 万円以内 (当行と融資取引のな い方は1,000 万円以 内) 8,000 万円以内 10 年以内 (据置期間2 年 以内) 10 年以内 (据置期間2 年以内) 10 年以内 年1.975 % (変動金利) 年1.975% (変動金利) ※注:融資期間1年以 内の場合は固定金利 年1.675% (固定金利) 原則不要オリックス㈱保証宮城県信用保証協会 保証 法人:代表者 個人事業者:1 名以上 原則 後継者 法人:代表者 個人事業者:不要 法人:代表者 個人事業者:不要 ●七十七銀行の「東日本大震災復興支援ローン」 ? http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/ PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_ DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=23750
40 リスク対策.com 2011/07 と思います。自社の保険を担当している損害保険代 理店か損害保険会社に確認されることをお勧め致し ます。損害保険でカバーできない部分は、まず自己 資金を充て、更に不足する場合は金融機関からの借 入が必要となります。 損害保険によるカバーができない、あるいは困難 な部分は、 1、 地震発生時の「資産の復旧費用+事業中断損 失」 2、 事業継続のために代替手段を行うための費用 (代替オフィスの確保、移動など) 3、 集団感染発生時の「事業中断(含む売上低下) 損失」 4、 大不況時の「事業中断(含む売上低下)損失」 などの部分です。 平成23 年5月20 日の朝日新聞は「損害保険の大 手3社(東京火災日動・三井住友・損保ジャパン) が企業向けの地震保険特約*3の新規募集を停止し、 すでに加入している顧客からの保険拡充の要望も断 っている」と報じています。 損害保険は世界的規模で、再保険の制度により損 害をワールドワイドでカバーする仕組みになってい ますが、今年2月22 日のニュージーランド南島ク ライストチャーチ近郊におけるマグニチュード6.3 の地震に引き続き、3月11 日に東日本大震災が発 生し、さらに5月には米ミシシッピー川の大洪水と 大きな自然災害が相次いでいるため、再保険市場が 厳しくなり、地震保険の特約が付け難くなっていま す。外資系に関係のあるところで、中小企業向けの 地震保険の引受けを行う動きもあるようですが、も ともと中小企業は地震保険が付け難かった上、現状 はさらに困難な状況にあります。 したがって世界銀行のレポートで言う「保険と緊 急時災害融資と自己資金の最適な組み合せ」のうち、 緊急時災害融資に力点を置いた対策を考えるべきだ と思います。 9.首都圏直下型地震・東海地震に対する備え 次に予想される自然災害は、首都圏直下型地震・ 東海地震、さらには、東南海地震・南海地震です。 首都圏直下型地震では、津波にかわり大規模な火 災による被害が懸念されます。工場や事務所の災害 防止対策も立てようがありません。逃げるしかあり ません。事業所・工場は借入金が残存したまま消失 します。東日本大震災で二重ローン対策が問題にな っています。首都圏直下型地震でもキャッシュフロ ー対策上の大問題です。 BCP の専門家の中には、中小企業のBCP、特に キャッシュフロー対策の効果について悲観的な見方 をする人がいます。事前に対策が立てられるはずが 無く、そのことによってBCP 策定の意欲が失われ るとの懸念があるようです。 リスク発生時に、BCP で事前に想定していた通 りに事態が推移することは通常考えられません。起 こってから対策を講ずる部分は当然あり得ます。そ のため、最低1カ月くらいの出費を賄えるだけの資 金を持っていなければその対策を立てることもでき ないと申し上げました。 倒産も選択肢の1つ リスク発生時にいくら努力しても事業継続は不可 能だと思われる場合には、「リスク発生時には事業 を止める」と計画するのも事業継続対策の1つです。 この場合、従業員の問題・銀行に対する借入金の返 済、連帯保証・お得意様への処置などを事前に考え ておくことが大事だと思います。 企業は一定レベルのリスクを想定して対策を立て ます。例えば、地震対策の際に、関東大震災クラス を1つのメルクマールにしたり、古文書を紐解いて、 過去の最大クラスの津波を想定します。本来は想定 以上のリスク発生については「リスクを自己保有す る」という考えであるべきですが、そういった先進 的な企業はごく一部で、一般的には、「想定外」の ことは「起こらない」と整理されていると思われま す。「起こらない」ことに対しては、もちろん対策 などは立てません。 *3:通常企業の地震保険は火災保険契約の特約の形で付保さ れます。
2011/07 リスク対策.com 41 << 特別寄稿 企業の体力に応じた想定リスクのレベルを定め、 企業の想定以上のリスク発生時にはどうするかをキ ャッシュフローの視点から予測し、場合によっては 企業倒産も視野に入れて考えておくことが現実的だ と私は思います。個別企業のリスク管理の場合は企 業の命運と従業員の命にはかかわりますが、世の中 への影響は少ないと思います。今回の東京電力のケ ースでは、超大企業でも想定外リスクの発生によっ て倒産の危機に陥ることがあることが明らかになり ました。国とか地方自治体、あるいは原子力発電な ど「想定外のことが起こってはいけない」場合、「想 定リスクのレベル」について、それで良かったのか が今シビアに問われていると考えます。 民間金融機関には限界がある わが国の企業数・雇用者数の多くを占める中小企 業が事故・災害等でバタバタと倒産することを放置 するわけにはいきません。そのために政府の対策が 存在します。中小企業は、リスク発生時のキャッシ ュフロー対策について、まず自助の精神で対策を考 え、その上で政府の施策を有効に活用すべきです。 リスク発生時に復旧資金が不足する場合、民間金 融機関では復旧融資を行うには限界があります。特 に一般に財務基盤が弱い中小企業向けの貸出しにつ いては、民間金融機関はさらにためらうこととなり ますが、中小企業の場合は、政府系中小企業向け金 融機関の融資制度と、信用保証協会の保証制度の活 用でカバーできます。担保・返済等について問題が あっても、大規模な災害発生時等に設置される相談 窓口に相談をされることをお勧めします。弾力的に 相談に応じてくれるはずです。 企業は平素から取引金融機関と、リスク発生時に キヤッシュフロー面からの事業継続ができるよう協 議しておく必要があります。民間金融機関も融資先 企業に事故・災害等のリスクが発生した場合に備え、 平素から与信リスク管理の視点と併せて、企業の事 業継続に関する状況を把握し、企業が倒産に至らぬ ようリスク発生時のキヤッシュフロー対策を融資先 と協議しておくべきです。現在は融資先でなくても、 世間や投資家・企業のステークホルダーがリスク発 生時にメインバンクとしての資金支援を期待してい るような企業についても同様です。こうした点につ いての民間金融機関の対応は、現状まだ不十分であ ると思います。 震災前に保証を確約 静岡県信用保証協会は、平成22 年1月に災害時 発動型保証予約システム『BCP 特別保証』を創設 しました。これは静岡県にだけある制度です。通常 は被災してから信用保証協会に保証を申し込むの を、BCP を策定した企業に対しては、事前に保証 予約ができるというものです。 日銀・金融庁は各金融機関に対してBCP の策定 を要請していますが、これはあくまで「金融機関自 身のBCP 策定であって、顧客に対するBCP の策 定支援は要求されていない」と理解されているよう に思われます。 民間金融機関の取引先(特に融資先)に対する 「BCP における資金繰り(キャッシュフロー)対策」 の推進は、金融機関の資産の太宗をなす貸付金債権 が地震等のリスクで毀損することを防止することに なりますから、それはあたかも製造業において工場 の耐震化工事を行うのと同じことであると思いま す。 民間企業の事業継続は、BCP とキャッシュフロ ー対策の両輪があってこそ実効性が確保されること を、金融機関も民間の事業会社の経営者も、改めて 認識すべきです。 眞崎達二朗 (まさき・たつじろう) プロフィール/眞崎リスクマネジメント 研究所代表、GRC ジャパン株式会社顧問。 コンサルビューション株式会社顧問。京 大法学部卒。1957 年住友銀行入行。本 店支配人などを経て、同行退職後、山之 内製薬株式会社役員、銀泉株式会社役員 など歴任。05 年6 月中小企業庁「中小 企業BCP 策定運用指針」作成プロジェ クトの有識者会議メンバー。
42 リスク対策.com 2011/07 青山学院大学 榊原英資教授(さかきばら・えいすけ) プロフィール/ 1941 年生まれ。青山学院大学教授。専門は 国際金融論。大蔵省財務官時代には、為替介入による円高阻 止などで手腕を振るい「ミスター円」と呼ばれた。 0 Q.東日本大震災に対する政府、企業の対応につい てどのように考えられますか。 政府も東京電力も初動が遅れたと思います。戦 争やテロが多い欧米に比べると日本の危機管理体制 は不十分だと思いますが、今回それが露呈してしま いました。 Q.金融面での大きな問題としては福島第一原発の 損害賠償が挙げられます。これについての政府の対 応についてどうお考えですか。 原発は、政府の方針として決め、国民も賛成した ことです。東電が管轄したために、こうした事態に なってしまったわけですが、事故の全ての責任が東 電にあるわけではないことは明確にしなければいけ ないと思います。したがって、損害賠償については、 やはり国が支払うべきだと思います。 Q.大手銀行は政府の要請により2 兆円の緊急融資 を行いましたが、この影響についてはどう思います か。 緊急支援の額は巨額ですが、それが日本経済に 深刻な影響を与えるとは思いません。今回の震災は 一過性のことです。復興するために政府が支援する ということになれば、むしろGDP の押し上げ効果 が大きくなります。おそらく、一時的な影響として 三期連続でマイナス成長になると思いますが、その 後はかなりGDP が上昇していくと考えています。 榊原英資教授青山学院大学 インタビュー 今こそ国債による 大型支援を 震災後の日本経済に提言 3月11日に発生した東日本大震災。経済的損失は、直接的被害額だけで16.9 兆円にのぼる。 震災は、今後の日本経済にどのような影響を与えるのか。 大蔵官僚時代、為替・金融制度改革に手腕を発揮し「ミスター円」と呼ばれた榊原英資氏に 震災後の日本経済の動向について話を聞いた。 (5 月31 日、早稲田大学公共政策研究所にて)
2011/07 リスク対策.com 43 Q.東電に対する政府の賠償支援スキームについて は当初、金融機関に債権放棄を求めるような発言も ありました。 債権放棄は絶対にダメです。民間の取引について 簡単にモラトリアムを出すようなことがあってはい けません。それは、政府が扱うべき問題で民間企業 を巻き込む問題ではないと思います。 経済停滞は長期化する恐れ << 特別インタビュー Q.全体的な経済的損失が20 兆円近くになるとさ れる一方で、そのうち保険では10%くらいしかカ バーできないと見積もられてれています。今後いか に資金調達をしていけばいいのでしょうか 第一に政府の支援。あとは自治体がどのように支 援するかということだと思います。基本的には政府 の支援しかないと思いますが、民間企業に対して国 が資金面で全面的にサポートすることはできませ
44 リスク対策.com 2011/07 ん。結果的には国が地方自治体に流して、各地域が 東電に協力するという形になると思います。 Q. 今回の震災は金融市場にどのような影響を与 えるでしょうか。 為替で一時、リバトリエーション(海外投資資産 を自国に戻すこと)の憶測が高まったことから円高 になりましたが、実際にはそれは起きなかったため、 為替レートは元に戻ってきました。ただ、社会の関 心が徐々に震災から原発へと移っています。原発の 問題は長引くでしょうから、為替市場にとっては円 安要因になるでしょう。これから半年間くらいまで 85 円から90 円くらいで推移するのではないでしょ うか。そういう意味では金融市場にはマイナスのイ ンパクトがしばらく続くとは思います。 さらに、日本全国で原発計画の見直しをする話が 出てきています。全面的に停止した浜岡原発だけで なく他の原発のサイトでも定期点検が行われ、再稼 働には自治体の許可が必要になるなど、段々と原発 による発電が難しくなってきました。この問題につ いて政府が、どのような決断を出すかによって市場 に与える影響が変わるのではないでしょうか。 Q. 長期的な影響という意味では節電対策は、経 済対策の停滞につながりますか。また、企業の業績 にも影響は出てきますか。 つながる可能性はあります。現在でも、日本全体 で自粛ムードのようなものが見られます。これが長 引くと消費もあまり活性化しませんし、企業活動も 弱まります。ですから経済の停滞は、長引く可能性 があります。 ただ、企業の売上は日本国内だけの話ではありま せんので、業績そのものは戻ってくる可能性はあり ます。 Q. 企業の海外移転などへの影響についてはどう 考えられますか。 企業の海外移転は加速すると思います。日本は地 震と火山の国であり、そのリスクは情報として表に 出ています。実際に大規模な震災が起きてしまった ことで、工場の海外移転や分散化といったものが国 内外を問わず、広がっていくと思います。 Q. 今回の震災を教訓として企業は、特に資金繰 りの面で、どのようなリスク対策を構築していくべ きでしょうか。 資金繰りに関しては、日銀が全体としてどう対応 していくかが問題です。多くの企業がリスクを過剰 に意識し、手元にたくさんのキャッシュを持つこと で手元流動性を高めていますが、こうした状況が長 く続くのは経済的にはいい状態と言えません。毎年 のように巨大地震が起こるわけではありませんか ら、今回の震災後、リスクを過剰に意識することも 問題だと思います。 日本では20 年に1回くらいは大きな地震が必ず 起きています。普段から各企業が事業復旧の計画を ある程度整えておくことは重要ですが、慎重になり すぎるのは経済的にもいい効果を生み出しません。 経済の効率化とリスク対策のバランスが重要です。 Q. 今後政府の支援策がある程度決まり、それが 実際に実行されることによる経済への影響について はどう思いますか。市場経済の原理とは違うところ から支援することは問題ですか。 社会はいつも市場原理に沿っているわけではあり ません。そうした問題について対応するのが政府の 役割です。今回の対応策としては国債を発行すべき だと思います。20、30 兆円が必要であれば、全体 としては20 兆円から25 兆円位の補正を組んで、地 域の活性化を図るということです。この対策として、 増税が挙げられていますが、それはやってはいけな いと思います。社会全体としては、増税を受け入れ る心構えができているように思えますが、増税した らその分、経済を冷やしてしまうからです。ですか ら、今こそ国債を発行して大型の支援策を実行する ことが重要だと思います。 << 特別インタビュー 増税はNG、今こそ国債を発行せよ
2011/07 リスク対策.com 45 未曾有の被害をもたらした東日本大震災 都内でも交通機関の麻痺、設備の被害、 サプライチェーンの寸断などにより、多くの企業で事業が休止した 今、あらためてBCP(事業継続計画)への関心が高まっている 今回の震災で、BCP はどう役立ったのか 前号に続き、企業の震災時からの対応を紹介する 東日本大震災におけるBCP 事例 第2弾 特集2 教訓を語り継げ
46 リスク対策.com 2011/07 工場敷地内で発生した液状化 古河電工では、「光半導体デバイス事業」を対象 に、今年1 月、事業継続の事実上の国際的なマネ ジメントシステム(BCMS)の規格であるBS25999 を取得した。同規格は、被災時でも重要業務を継続 させるBCP 運用の取り組みを第三者機関が認証す る際の基準となるもので、国内でも既に30 社近く が取得している。東日本大震災ではその成果が試さ れることとなった。 同社は国内7カ所に事業所・研究所を持ち、そ のうち5 拠点が、3月11 日の東日本大震災で被災 古河電気工業株式会社(以下、古河電工)は、千葉、横浜、平塚、日光(銅箔事業所も含む2 拠点)の 5つの事業所で工場の操業が停止した。建物・施設の損傷に加え、一部の事業所では、 敷地内で液状化や路面の隆起などの被害が生じたが、 あらかじめ策定していた事業継続計画(BCP)により速やかに業務を復旧させた。 5拠点の被災を乗り越えた 古河電工 BCMSの成果が試された
<< 特集2 2011/07 リスク対策.com 47 話す。 当日は、既に日が暮れかかり余震も続くことか ら現地対策本部では停電した工場内で被害状況を把 握することは危険と判断。万が一のことを考えて製 造ラインに必要なガスや電気の主要電源を止め、指 示者層を除き事業所の社員全員に帰宅を指示した。 翌12 日には、設備関係者や工務関係者が朝から 出勤し、手分けをして工場のインフラを中心に点検 を始めた。設備点検の指揮を執ったのは生産技術部 の古屋憲章主査。古屋氏は、山本氏とともに本社 でBCP の策定を進めてきた1 人だ。地震発生時に は三重事業所にいたが、11 日中に本社に戻り、翌 日の12 日には千葉事業所で現地対策本部と共にリ ーダーとして被災状況の確認や復旧の措置にあたっ た。 「三重事業所から東京本社に帰ったのは、情報の 収集先が東京本社であることをBCP で決めていた からです。迷わずに、次の行動に移ることができま した」(古屋氏)。 千葉事業所で製造される光半導体デバイス事業 は、国内では他社も含め同事業所のみが扱うオンリ 崩壊した中央排水溝 し事業を停止した。ほとん どの事業所では一時的な中 断ですぐに操業を再開でき たが、同社の基幹製品であ る光ファイバーケーブルや 電力ケーブルを製造する千 葉事業所では、中央排水溝 が陥没し、食堂やトイレが 使えなくなったほか、一部 の工場施設が傾くなど設備 面で大きな損傷が生じた。 敷地内では液状化現象や路 面の隆起の被害も起き、こ れらの影響により光半導体 やガラス基板の製造が中断 する事態となった。光半導 体デバイスの製造は同社のBCMS の対象にしてい る最重要事業のため早期の復旧が求められた。 地震発生当時、BCM 策定の中心的メンバーであ ったCSR 推進本部管理部の山本一郎主査は千葉事 業所にいた。揺れがおさまるとすぐに大山事業所長 を本部長とする現地対策本部が立ち上がった。初動 対応として社員の安否確認を行ったが、山本氏は「携 帯電話の通信が想像以上に繋がりにくかった」と振 り返る。通信会社の通信制限により安否確認システ ムも十分に機能しなかった。夕方になってようやく、 ほとんどの安否が確認でき、関連会社を含め全従業 員が無事なことがわかった。社員の安全を守れた理 由の1つは危険個所に従業員が近づかないように日 常的に注意を促していたことだ。 同社では2009 年度までに、国内すべての事業所 のインフラを対象にBCP を策定した。その際に建 物や設備の耐震診断を行い、今年の4月から診断結 果に基づいた補修工事を開始する予定となっていた ため損壊の恐れがある場所については、事前に生産 技術部から危険性を指摘されていた。山本氏は、「建 物被害周辺に従業員は誰も近づきませんでした」と 震災5日目には事業復旧 危険な場所には近づかない
48 リスク対策.com 2011/07 替生産を頼むなどの対策を講じた。 逆に、同業他社の被災により、同社が代替生産先 として依頼される製品もあった。通常よりも業務が 多くなったものについては三重事業所で対応した。 多くの点でBCP が生きたとはいえ、想定外の事 態も起きた。 最も大きな問題となったのが福島第一原発事故 に伴う計画停電だ。東京電力からは計画停電の実施 の有無がはっきり知らされなかったため、各事業所 では計画停電に対応した操業体制を構築することが できず、一時的に休業せざるを得ない状況となった。 日光市にある銅箔事業所では、製造途中で電気が止 まった場合、溶かしていた銅が再び固まってしまい、 すべての工程をやり直さなければならないため、や むなく1 週間の休業指示を出したという。この問題 を踏まえ、同社では、今夏の電力制限に向けて各事 業所に自家発電装置の準備を整備するほか、銅箔工 場では、以前に同社の事業の一部であったコージェ ネレーションシステムを再稼働させる予定だ。 もう1つ山本氏が改めて重要と認識したのが、災 害時におけるCSR(企業の社会的責任)のあり方だ。 震災当日、東京丸の内にある本社には、採用試験を 受ける60 人もの学生が来社していた。同社では都 内の交通状況から帰宅困難になると判断し、急きょ 会議室を学生の宿泊場所として提供した。多くの学 生は電車が運行する翌日までそこで待機することと なった。遠方から来た学生については翌日、社員が 同行して見送った。山本氏は、今後はこうした来訪 者の対応についてもとりまとめておく必要があると 指摘している。 ーワンの事業。事故発生時には代替生産などバック アップ体制を築くことは難しく、BCP では建物を 耐震化することで事業継続性を維持するはずだった が、補強工事が始まる前に被災してしまった。現地 対策本部は被災の翌日に千葉事業所の復旧工事の段 取りをつけて建設会社に施設の修理を依頼した。災 害発生後、工事請負業者などは、他企業との取り合 いとなる可能性が高く、優先的に請け負ってもらう ためには、早い判断が不可欠だった。「BCP で優先 事業が明確化されていた結果です。みんなのベクト ルが決まっていたので、執行部はやりやすかった。 少なくとも焦りはなかった」と古屋氏は話す。 週明けの15 日には本社の緊急対策本部メンバー が全員招集され、千葉事業所のほかに、日光事業所 でも大きな被害が出ていたことから事業所間の支援 体制を整えた。千葉事業所には、三重事業所と平塚 事業所の生産技術本部が支援に駆けつけた。こうし た取り組みにより15 日には、陥没した中央排水溝 のバイパス配管工事が完了し、16 日には一部で操 業が再開するまで復旧した。全社ほぼすべての事業 操業体制が整ったのは25 日のことだ。BCP では4 週間でフル操業に戻すことを目標としていたが、結 果的に2 週間で達成した。 事業が再開するまでの間、取引先には自社の状 況を伝えるとともに、取引先の事業に影響を与えて しまう製品について、日頃付き合いのある企業に代 想定外の電力制限 写真左から、CSR 推進本部管理部主査の山本一郎氏、 同部管理部長の田中雅子氏、生産技術部主査の古屋憲章氏 古河電気工業株式会社 ■事業内容:光ファイバーケーブル、光半導体デバイスなどの情報通 信事業。銅線、電力ケーブルなどのエネルギー、産業機材事業など ■本社:東京都千代田区丸の内2-2-3 ■社員数:4,337 人 企業データ
2011/07 リスク対策.com 49 << 特集2 最も大きな被害となったのは、基地局の被災によ るネットワークの断絶だ。地震と津波の影響により、 基地局そのものが流失したり、伝送線の障害のため 基地局が機能しなくなることが東北地方を中心とし た各地で見られた。震災後の翌12 日には、3786 局 で携帯電話が通じなくなるなどの影響が出たことが 確認されている。 基地局の復旧作業は、同社のBCP に従い、被災 した当日から開始した。BCP の中で、停電対策と して基地局に予備電源や発電機を搭載していたこと や、複数の基地局を結ぶ伝送路にバックアップ用の 迂回路を設けるなど対策を整えていたことが復旧に 役立ったという。作業に当たったのは、800 名近い 技術者メンバー。甚大な被害を受けた地域の基地局 に移動基地局車10 台を出動させたほか、伝送路が 切断した基地局には衛星回線を活用した通信対策を 施した(左下写真1と51 ページ写真2)。さらに、 社内公募で集まった440 名のボランティアメンバー が、現地で被災された人を対象に、携帯電話の貸し 出しなどユーザーのサポート業務にあたった。 会社の業務以外でも、仕事で身に付けたスキル を生かして被災地の復旧にあたった社員もいる。宮 城県仙台市では、ボランティアとして参加した情報 システム本部の社員が「出発前にやること」「現地 でやること」「帰還後にやること」を簡単に確認で きるサイトを構築。「状況ごとにやるべきことを明 確にしたことでボランティアの効率が上がった」と いう意見も寄せられたという。 ソフトバンクモバイルが提供する携帯電話サー ビスのエリアカバーは4 月14 日までに、震災前と ほぼ同じ状態に回復(50 ページ図1)。4月28 日 には、一部電力の復旧待ちや原発圏内の基地局を除 3500 以上に及ぶ基地局の被害 伝送路が切断した基地局に 対する衛星回線を活用した 通信対策 写真1 ソフトバンクグループの1 社で携帯電話事業のソフトバンクモバイル株式会社 (本社:東京都港区、社長:孫正義)は、基地局が流失したり伝送路が切断するなど、広い範囲で被災した。 通信インフラの脆弱性が指摘されながらも、 同社ではBCP(事業継続計画)に基づいた対応により早期復旧に努めた。 基地局の流出などに対応 ソフトバンクの事業継続
50 リスク対策.com 2011/07 状況の情報の収集にあたった。「3社は各事業部で、 事故発生時に緊急対策本部と連絡を取り合う事故対 策メンバーを事前に決めており、メール等を利用し て被害状況の情報を収集しました」(小笠原氏)。当 日は携帯電話がつながりにくかったため、パソコン によるメールも利用した。 ソフトバンクグループ通信3 社の社員全員には iPhone とiPad が配布されている。そのため、外出 している社員も携帯端末からメールの確認ができ、 一部の東北地方で被災された社員を除けば、ほとん どが震災当日中に安否の確認ができたという。最終 的に3社の全社員の安否確認を終えたのは3月14 日。震災から1 週間後の18 日までには全社員の家 族および自宅の被害状況の確認も行った。 当日の帰宅困難者対応にも3 社全体であたっ た。「本社ビル内には、ソフトバンクグループの約 1万1000 人の社員が働いていました。交通網の状 況を鑑み、無理して帰宅しないよう指示をしたこと もありますが、被災当日は備蓄品の配布状況から確 認すると7000 人くらい残っていたのではないかと 思われます」(小笠原氏)。 震災当日から翌朝にかけ、総務本部から全社員 に向けて、公共機関の交通復旧状況などを計17 回 図1 宮城県携帯電話サービス復旧エリアマップ。約1カ月で震災前と同じ状態に回復 3 月13 日時点4 月14 日時点 き、ソフトバンクとしてできる基地局関連の復旧工 事を完了させた。 ソフトバンクグループでは、通信インフラを担 う立場として、早くから事業継続体制の構築に取 り組んできた。固定電話サービス事業のソフトバ ンクテレコム株式会社では、2010 年2月に事業継 続マネジメントシステムの国際的な認証規格である BS25999 を国内の通信事業者として初めて取得し ている。さらに、グループ内の連携体制の強化を目 的に、ソフトバンクモバイル、ソフトバンクテレコ ム、ソフトバンクBB の通信3社で毎年、地震や火 災を想定した総合防災訓練やネットワーク障害対応 訓練など災害時における横断的な訓練も実施してき た。実際に3月11 日の東日本大震災では、3社の 総務本部が中心となり、グループ全体の災害対策事 務局としての機能を担った。 3社の総務本部で震災対応のリーダーを務めた ソフトバンクモバイル総務本部の小笠原博明部長 は、地震発生後すぐに各社社員の安否確認と被災 通信グループとして対応 iPhone とiPad で安否確認 凡例 SoftBank 3G サービスエリア ご利用いただけない サービスエリア
2011/07 リスク対策.com 51 にわたりメール配信した。会社に待機している社員 には、総勢450 名にのぼる自衛消防隊の協力を得て、 備蓄品を配布した。 小笠原氏は、同グループの震災対応の特長の1 つに、トップのリーダーシップを挙げる。グループ 全体のトップである孫正義社長は、震災後Twitter を通じて、震災に対するグループ全体としての対応 について書き込みをし続けていた。「極限の状態の 時に、指揮官がいなくなってしまったら、大混乱に なってしまいます。事故・災害時も同様に、BCP をうまく活用するためにはリーダーシップが不可 欠。今回の震災では、社長自らの書き込みによりグ ループ全体に震災対応の方針が提示されたことで全 社員が一体になれました」(小笠原氏)。孫氏のリー ダーシップが、同グループの早期復旧を後押しした とする。 ただ、グループ全体としていくつかの課題もあっ た。1つは、現地との連絡体制。東北支社には、緊 急時の連絡手段として衛星電話を配備していたが、 震災で棚が倒れてしまったことで取り出せず使用で << 特集2 きなかった。結果的に固定電話で対応したが、今後 はいくつかの代替手段でスムーズに情報が伝達でき るように準備が必要とする。 もう1 つは、地方拠点の体制強化。今回、本社で 実現した連携体制を、地方拠点も一層強化していく ことが、早期の復旧を実現する上で重要となるとす る。「備蓄品の配備や情報の一元化、自衛消防隊の 活用などは多くの企業でも準備をしていると思いま すが、実際に起きた時に本当に機能するためには日 頃からコミュニケーションが非常に重要だと思って います」(小笠原氏)。また、こうした課題を克服す る前提として、小笠原氏は社員全員の理解が必要と し、そのためにも経営トップの関わりが今後の事業 継続性を高める上で大きなポイントになるとした。 ソフトバンクモバイル株式会社 ■事業内容:移動体通信業およびこれに付随する業務 ■本社:東京都港区 ■社員数:約6300 人 企業データ ソフトバンクテレコム株式会社 ■事業内容:電気通信事業等 ■本社:東京都港区 ■社員数:約4400 人 企業データ ソフトバンクBB 株式会社 ■事業内容:ADSL 事業、コンテンツサービス事業 ■本社:東京都港区 ■社員数:約3500 人 企業データ Twitter で社長自らがメッセージ 連携体制の拡大が課題 写真2 移動基地局車によるエリアカバー対策
52 リスク対策.com 2011/07 同社は、スイスに本部を置くフィリップモリスイ ンターナショナルのたばこ製品の販売促進およびマ ーケティング活動を行う。東京都千代田区の本社を 含め、全国に4 カ所の営業拠点を持ち、全社員約 1800 名のうち1200 名が営業職で構成されている。 主な事務的機能は東京本社が担い、BCP を含むリ スクマネジメント業務については本社のヒューマ ン・リソース(以下、人事部)が担当している。 BCP では緊急発生時には、社長をトップとした 各部署の幹部10 名を中心とするSSMT(Special Situation Management Team)が組織されること が決められている。SSMT はBCP を基に同社全体 の復旧方針を決定し、全社員に一元的なメッセージ を発信する指示系統の役目を果たす。メンバー全員 が常に連絡がとれるように、社内と自宅に業務用無 線機を所持させているなど緊急時の連携を徹底して いる。今回の震災でもSSMT のメンバーが地震発 生後すぐに本社にかけつけ、東日本地域の業務が通 常に戻る3 月24 日まで、全社のリーダーとして動 いた。 同社の本格的な事業継続体制の確立は、2005 年 にフィリップモリスインターナショナルが世界規模 でリスクマネジメントの構築を呼びかけたことで始 まった。同年に地震を想定したBCP を作成し、そ の後、徐々に想定範囲を広げ、パンデミック対策や 製品ラインの事故が原因による製品の欠陥対策な ど、毎年テーマを変えて訓練を実施してきた。 最優先業務となるのは「メールおよびネットワー クシステムの復旧」と「通常営業地域への製品提供 やサポート」。目標復旧時間は、前者が発生から1 日、 後者が3日以内としている。 幸いにも東日本大震災では、メールシステムへの ダメージはなかった。そのため、全社員の安全を確 保し、できるだけ早く通常営業地域へ製品提供する ことを急いだ。 地震発生当時、社長を含め、幹部クラスのほと んどが、外部で会議中だったため、本社にSSMT のメンバーは数人しかいなかった。それでも、発 生から2 時間後には、メンバー全員が本社に戻り、 SSMT を設置した。「日頃の訓練により、緊急時に は本社に戻って情報を収集することが浸透してい たため、自然に足が本社に向かっていました」と、 SSMT メンバーで同社人事部の加藤治樹ディレク ターは振り返る。 同社では、社員の安全確保をリスクマネジメント の柱としている。全社員1800 人を対象にした抜き 打ち訓練を含め、年に3回は安全確認の訓練を実施 する徹底ぶりだ。 しかし今回の震災では、本部を設置した後、社員 トップ10 人のリスク対策 最優先は「通信機能の復旧」 コールセンターを利用した安否確認 東日本大震災では日本たばこ産業株式会社の被災により、輸入たばこの需要が一気に高まった。 フィリップモリスジャパン株式会社(本社:東京千代田区)は、 東日本地域での営業が一時的に中断したが、BCP に基づいて早期に事業を再開させた。 同社の震災対応からは「外資系企業」特有の社員を守る姿勢が見てとれる。 「社員の安全」がBCPの鍵 フィリップモリスジャパン 営業を継続
2011/07 リスク対策.com 53 阪では、事業復旧に集中することができました。時 間が経つにつれ移転したことが正しかったと実感し ています」(加藤氏)。 事業復旧が順調に進む一方、課題も見られた。日 本たばこ産業株式会社の複数の生産拠点が被災し、 国内のたばこ市場の需要を満たす供給が難しくなっ たことを受け、一時的に輸入たばこの需要が高まっ た。フィリップモリスジャパンのたばこ製品は、通 常ヨーロッパで生産され約2 カ月を要して船便で配 送されるが、需要の急激な高まりに対応するため、 今回の震災では成人喫煙者へのたばこ製品の安定供 給の観点から、一時的に空輸で対応した。「想像以 上の需要であったが、できうる限り社として最大限 の対応を行った」(同社 コーポレート・アフェアー ズ 井上哲ディレクター)。同社では、今後は海外 本部との連携を含めサプライチェーンのBCP につ いても考えていきたいとしている。 << 特集2 の安否確認には予想以上に時間を要した。携帯電話 メールによる安否確認システムが、ほとんど作動し なかったためだ。震災当日の安否確認は、夜の12 時まで続けたが、被災地域に住む半分の社員の安否 がわからなかったという。そこで翌日からは、追加 策として都内にある同社のコールセンターから、連 絡のつかない社員に対して電話をし続ける方法を同 時に試みた。最終的には地震発生から3日目の午後 に全社員の安全を確認した。 東北地方では津波により自宅が被災した社員や福 島第一原発の周辺地域に住む社員がいて、彼らの安 全をどのように確保するかが問題となった。日本政 府が定めた避難要請エリアは30 キロだったが、ア メリカ政府からは原発から80 キロ以上離れるよう 公式文書で発表されていたため、同社は社員の安全 を考慮して、80 キロ圏内の地域に住む社員および 震災の影響で自宅が被災した社員に対しては、急き ょ、一時的な避難場所を探し、住宅を提供した。また、 当初は、停電や公共交通のマヒに加えて放射能の危 険性も否定できなかったため、東日本地域に住む社 員全員に対して、安全の確保を目的に、3月13 日 から10 日間、自宅待機の指示を出した。 14 日の朝には、SSMT を東京から大阪オフィス に移した。BCP の中では、メールシステムのバッ クアップセンターを大阪に置くなど、本社が緊急事 態に陥った際には大阪が本社機能として働くよう に決めていた。「今回の震災では、本社に甚大な被 害はありませんでしたが、交通機関の混乱や余震に 加え、福島第一原発の影響も懸念されていました。 指揮系統が冷静に判断できる環境を整える必要が あるとSSMT の会議で判断しました」と加藤氏は SSMT を移転した理由を話す。翌日の15 日には、 中部、関西および西日本地区で通常業務を再開した。 目標復旧時間は1 日過ぎてしまったが、スムーズに 対応できたという。「東京に残っていたら、公共交 通機関の影響に加え、ガソリンも手に入らなかった し、計画停電の問題にも直面していたでしょう。大 指揮系統を大阪に移転 たばこの輸入が過去最高 フィリップモリスジャパン株式会社 ■事業内容:日本で販売されるフィリップモリスインターナショナル の紙巻たばこ製品の輸入、販売およびマーケティングの販売促進活動 ■本社:東京都千代田区 ■社員数:約1800 人 企業データ SSMT メンバーの緊急連絡網(右)とメンバー全員が 社内と自宅に携帯する業務用無線機(左)
54 リスク対策.com 2011/07 宮城県石巻市にある医療法人社団健育会の石巻港湾病院は、津波により建物1階の天井までが浸水するなど、 甚大な被害を受けながらも、入院患者のケアなどの医療業務を途絶えることなく行った。 それを可能にしたのは、災害に対するスタッフの迅速な対応と、健育会グループ全体の経営をサポートする 株式会社ヘルスケアシステムズ(東京千代田区)との連携体制による支援だ。 津波直撃の中、救った患者の命 医療法人社団健育会 石巻港湾病院 被災病院の現場 震災から7 日目には雪が降るほどの寒さとなった 提供:㈱ヘルスケアシステムズ
2011/07 リスク対策.com 55 石巻港湾病院は、全国に複数の拠点を持つ医療法 人社団健育会(以下、健育会)が運営する病院の1つ。 内科・リハビリテーション科など、4つの診療科か らなる高齢者を対象にした中小規模の病院(5階建 て、延べ床面積3784㎡、計135 床)。地震発生時には、 入院133 名、外来8名の計141 人の患者が院内にい た。一方、今回の震災対応で大きな役割を果たした 株式会社ヘルスケアシステムズは、健育会グループ 全体の経営をサポートし、各病院の経理や人事、危 機管理についても、実質的に同社がすべての管理を 請け負っている。震災直後、同社は、東京千代田区 の本社内に災害対策本部を立ち上げた。被災したグ ループ病院における震災対応の情報を一元化し、物 資の確保や運搬、患者・職員の関係者からの問い合 わせに対応するための電話窓口を設置するなど継続 的な支援ができる体制を整えた。石巻港湾病院に加 え、福島県いわき市の病院も被災したが、特に石巻 は津波により壊滅的な被害を受け、通常の医療業務 が続けられるような状況ではなかった。 1 日目 3 月11 日14 時46 分、地震発生で石巻港湾病院 は全館が停電。院外の防災スピーカーからは大津波 警報が流れた。院長と看護部長は訪問診療で外出中 だったため、同病院マネージング・ディレクターの 間山文博氏が現地のリーダーとして動いた。 「大津波警報の直後に、東京の対策本部より、職 員と患者を2階より上に移動するように指示を受け ました。窓からは川の水がゆっくり引いていくのが 見えて、まだ津波が到達するまでに時間があるので はと思い、全員に、より安全な3階に上がるよう指 示しました」(間山氏)。 その最中、15 時10 分頃に、院長と看護部長が帰着。 そして、わずか10 分後に、大津波が病院を襲った。 一気に、1 階の天井付近までが浸水し、病院の周 りは瓦礫や漁船などで埋め尽くされ、外に退避する こともできない状態となった。万が一に備え、間山 氏は院長と相談の上、3 階にいた94 人の患者全員 を4 階と5 階に上げるよう指示した。 電気、水道、ガスなどのインフラはすべて止ま った。地震直後は利用できた通信網も、発生から1、 2時間後には、全く通じなくなり、東京の災害対策 本部との連絡も途絶えた。院内にある防災対策用の 備蓄品は、1 階にあった保管庫の鍵が流されたため に、何も取り出すことができなかった。また、職員 のロッカーも流されてしまったため、多くの職員は、 上着すら確保できず、最低気温がマイナスにまで低 下する中、寒さに耐えながら、その夜を病院で過ご すことになった。 2 日目 翌朝からは職員と患者のための食料品確保が優 先された。津波の水が引き瓦礫の山と化した1 階に 戻り、消防署から工具を借りて自動販売機と保管庫 の扉をこじ開け非常食や飲料水を確保した。入院患 者のために、使えそうな薬も1 階から集めた。さら に、被災しながらも営業を続けていた近くのスーパ ーに事務職員が向かい、夜まで並んで職員用の食料 を購入した。 インフラが遮断された中、間山氏は全患者をケ アするのは難しいと考え、重病患者を被災地外の病 院へ搬送させようと警察と消防署に出向いたが、一 切の対応を断られた。最後の頼みとして向かった市 << 特集3 自力対応の3 日間 病院の1階は天井まで浸水した 提供:㈱ヘルスケアシステムズ
56 リスク対策.com 2011/07 その直後から、救援物資が急速に増加したと間山氏 は振り返る。「街は壊滅状態だったので、病院周辺 には、もう人がいないと思われていたのかもしれま せん。なかなか病院の存在を認識してもらえず支援 が少なかったのですが、記事掲載後は石巻市からた くさん物資が届きました。マスコミの力を実感しま した」(間山氏)。 電気が使えるようになったのは、震災から1 週間 以上が過ぎた3 月19 日。それまで夜間は懐中電灯 で明かりを確保していた。上下水道の復旧は4 月6 日とさらに遅れたが、3 月末には給水車が来た。地 震発生からの2~3週間後は、それほど水で苦しむ 役所は、水没していた。「災害直後は、誰もが緊急 事態。自分たちでなんとかしなければいけないと実 感しました」と間山氏は、当時の状況を振り返る。 3 日目 医薬品を確保するため、間山氏は、瓦礫をかき わけながら、災害時における基幹病院である石巻日 赤病院を訪問し、医薬品の提供を依頼したが不可能 と断られた。窮地に追い込まれたが、偶然にも、仙 台方面に行けば一部電話が繋がるとの情報を入手 し、急いで仙台まで足を運び、携帯電話でヘルスケ アシステムズ内の災害対策本部に現場の被害状況を 報告し、支援を依頼することができた。 市内全体の食料が底をつき、職員は50 キロ先の 宮城県古川市まで車で買出しに向かったが、ガソリ ン不足が行く手を阻んだ。市内のガソリンスタンド は完全に封鎖されていたため、ガソリンは、病院近 くに止まっていた職員のボロボロになった車から抜 き取った。 一方、震災後、石巻との連絡が途絶えていた災害 対策本部は、見切り発車で情報収集と救援物資の運 搬を目的に先遣隊を石巻に向けて派遣。震災から3 日目に災害対策本部の職員が18 時間かけて、1回 目の支援物資を届けた。 現地に医療品や水、食料などが供給されたことで、 水不足は一時的に解消された。その本部職員は、約 2 週間にわたり被災した石巻港湾病院に常駐し、本 部との連絡窓口となった。被災5日後の3 月16 日 には、北海道にあるグループ病院からストーブが支 給され、その翌日には本部からヘリコプターによっ て再び物資が届き、その後も連日の輸送隊による継 続的な支援を受けることができた。 3 月14 日に大手建設会社が1階部分の瓦礫・ヘ ドロの除去作業を手伝ってくれたことも「大変助か った」という。 さらに、被災した石巻港湾病院の状況についての 記事が3 月18 日付けの読売新聞朝刊に掲載された。 震災直後から、入院患者のケアにあたる石田秀一院長 提供:㈱ヘルスケアシステムズ ようやく受けられた支援 インフラの復旧
2011/07 リスク対策.com 57 病院から現地サポートが可能な医師と看護師、計 13 人を召集し救援医療スタッフとして派遣した。 被災後1週間を目途に、院内の職員の疲労が目 立つようになったため、交代で休ませるようにした。 3月19 日には、病院から約50 キロ離れた古川駅の 近くにアパート5 部屋を確保し、病院での泊り込み が続いていた職員がローテーションで寝泊りができ るようになった。職員の不安を取り除くために、本 部職員が中心となり毎日ミーティングを行ったとい う。 ちょうど1カ月後の4 月11 日には、津波被害を 受けていない病院の2 階を使って外来診療を再開し た。「被災しても病院が診療を継続していることを アピールしたかった」と間山氏は話す。 現在、病院では物資の不足は一切なく、インフラ もインターネット以外はほぼ復旧している。被災前 まで1 階で行っていた外来、リハビリテーション、 CT、レントゲン、厨房、医療事務に関しては、今 << 特集3 ことは少なくなった。ガスは最も遅く、5 月12 日 に復旧した。 職員の安否確認は震災から1 カ月以上続いた。地 震発生時に病院にいた職員は全員助かったが、院外 にいて津波の被害にあった職員ら3人の尊い命が失 われた。 近隣の病院では、患者を自衛隊に託して閉鎖し てしまう病院もあったという。こうした状況の中で 石田秀一院長は、最後まで責任を持って患者を守る ことを決意し、職員全員にその意思を伝えた。「命 を救うことが職員の使命です。院長の言葉で目指す ベクトルが1つになりました」と間山氏は話す。放 射線技師など電気が使えない状況の中で職務ができ なくなった職員も、看護師やケアワーカーをサポー トした。 3 月18 日には、災害対策本部が全国のグループ 被害状況と対応 絶対に患者を残して逃げない 食料 水 医薬品 患者対応 3/15(5 日目) 3/16(6 日目) 3/17(7 日目:雪) 3/18(8 日目~) 職員 建物 インフラ グループ救援物資到着 ⇒以降グループからの支援物 資により、水の不足はなく なった 特養や病院へ数人転送 オムツ交換1 日2 回へ 最小限の内服薬のみ トイレはオムツ使用 職員の安否確認継続 グループ内病院から ストーブ到着 市役所へ転送依頼 ⇒難しいと回答 職員の安否確認継続 構造確認のため ゼネコン本社から来院 読売新聞に記事掲載 ⇒救援物資が急速に増加 3/22 食事3 回へ 3/26 患者を 3,4F 病棟に戻す ⇒看護部負担軽減 3/19 通電 4/6 上下水道復旧 5/12 ガス復旧 4/21 職員1 名死亡確認 4/24 職員1 名死亡確認 職員の安否確認継続 4/29 仮厨房完成 行政から初めて 食料配給 グループチャーターヘリ で物資到着 業務安定し始める 職員の安否確認継続 2F 以上全面土禁 - 1F部分の掃除開始 - - - - 3/14(5 日目)以降の状況
58 リスク対策.com 2011/07 << 特集3 年の8 月中旬に再開する予定だという。 間山氏は、今回の経験を通じて、今後の病院の 災害対策について、いくつか課題を指摘する。まず 設備面。診療をするためには、かなりの電気を使用 するため、非常用発電機など電気のバックアップ対 策が不可欠だとする。震災時には、灯りが確保でき ないことに加え、患者の痰(たん)を取り除くため に必要な吸引カテーテルが使えなくなったり、ナー スコールも使えない、電動ベットが傾いたまま元の 状態に戻せないことなどが問題になったという。 2点目として、感染症防止対策を挙げる。水道が 止まりトイレが使えない状態だったため、患者には 携帯型トイレを提供したり、オムツを利用してもら った。職員は便器に新聞紙やオムツを敷いて1回ず つビニール袋に入れて捨てた。ただ、季節によって は、感染症が拡大する恐れがあるため、十分な対策 が重要だとした。 さらに、今回の震災では、患者の医療カルテが流 れてしまったことで、外来患者の処方箋を出すこと が困難になったとする。患者の多くは自分に処方さ れている薬の名前が分からない。今後は、医療デー タのバックアップなどに加え、日常的な診察でも、 医師が患者に薬を分かりやすく説明することが課題 になってくると間山氏は話している。 震災を通して見えた課題 石巻港湾病院 マネージングディレクターの間山文博 1階の薬を集める職員 提供:㈱ヘルスケアシステムズ
60 リスク対策.com 2011/07 << P R 262 万ユーザーが認めた使いやすさ クラウドとスマートデバイスを活用したBCP提案 「新たな事業継続対策の構築」と して注目されるのが以下の3点。 ①計画停電などインフラ不安定 時の対応②災害など突然のアクシデ ントへの対応③想定外の問題を発生 させないための対応だ。 ネオジャパンでは、デスクネッ ツの大きな特長として、「安否確認 機能が標準で搭載され、セキュアで 誰でも簡単に操作できることが評価 されている」と話す。 事業継続対策では、まず計画停 電などインフラ不安定時で在宅勤務 を実現するシステムを提唱する。こ のワークスタイルに最適なのが「デ スクネッツ アプリタス」。SFA(営 業支援)、CRM(顧客管理)、経費 積算など19 種類のアプリケーショ ンがそろったsaas 型クラウドサー ビス。スマートフォンや携帯電話対 応型があり、それぞれに最適なイン ターフェースを装備。冗長化でアプ リを止めない、セキュアで情報漏え い対策も万全だという。 次に、災害時など突然のアクシ デントに対応するため、従業員の安 否確認が重要なポイントになる。東 日本大震災では、携帯電話は通話・ メールともほとんど使えなかった。 対照的に、携帯電話やスマートフォ ン端末を通じてのインターネットは 2010 年日経コンピュータ顧客満足度調査でグループウエア部門第1位を獲得した株式会社ネオジャパン(横浜市西区み なとみらい2-2-1 横浜ランドマークタワー10 F)。同社では、WEB グループウエア人気商品である「desknet's 以下 デスクネッツ」で、クラウドとスマートデバイスを活用した新たな事業継続対策(BCP)の構築方法を提案している。 安否確認が標準搭載 ネオジャパンのdeskNet's 東日本大震災でも機能が実証済み ある程度利用でき、ツイッターなど のサービスは活躍した。しかし、企 業が無料サービスを利用するには、 従業員全員のアカウントを登録した り、外部の情報が漏れてしまうなど 不向きな面が多い。このため、平常 時でも使っているグループウエアで 安否確認が望ましいといえる。 最後に、想定外の問題を発生さ せない対応として、同社ではBCP (事業継続計画)をPDCA(計画、 対策、検証、改善)サイクルで回す こと、そして定期的な訓練が重要 で、そのためには慣れ親しんだ業務 システム(グループウエア)を推奨 している。 現在、デスクネッツは企業、団体、 学校、自治体など262 万ユーザー (2011 年3 月)を超えている。ま た、60 日間無償試用できるキャン ペーンも実施中。デスクネッツの製 品問い合わせは、同社プロダクト事 業本部営業部まで(TEL045-640- 5910)。 地震発生 震度5 以上! 安否確認だ 無事です 安否確認メール コメント入力 1.76 4 3.5 3 2.5 2 1.5 0.5 0 0.33 0.37 0.42 0.87 0.63 0.65 1.02 1.04 kwh 人・日 ※ 「テレワーク(在宅勤務)による電力消費量・コスト削減効果の試算について」 (平成23 年5 月・総務省) 家庭照明 家庭空調設備 家庭ICT 機器 オフィス照明 オフィス空調設備 オフィスICT 機器 導入前 削減量:0.53kwh/ 人・日 (削減率14%) 導入後 テレワーク前後の一人当たりの電力消費量(オフィス・家庭合算) NET'S 利用例
62 リスク対策.com 2011/07 震災関連の倒産が急増5 月、6 月の倒産状況 【5 月度】 5 月度の倒産件数(負債総額1000 万円以上)は、前年同月比4.8%増の1071 件、負債総額は同23.7%減の2526 億7400 万円となった。倒産件 数は、2009 年7月以来、22 カ月ぶりに前年同月比を上回った。増加に転じた背景には、「東日本大震災」関連の倒産が、5 月に64 件発生する など、震災が大きく影響している。「震災関連」倒産は、5 月末までに97 件発生し「阪神・淡路大震災」の4 カ月目の倒産件数62 件と比較し て、急速なペースで推移している。 【6 月度】 6 月度の倒産件数は、前年同月比1.4%増の1165 件となり、2 カ月連続で前年同月を上回った。5 月度に引き続き、震災が大きく影響した。「震 災関連」倒産は、6 月末までに累計173 件に達し、発生から4 カ月で「阪神・淡路大震災」が発生した1995 年の1 年間の倒産件数144 件を上 回った。7 月(7 月7 日現在)も5件発生している。「震災関連」倒産を産業別にすると、最も多いのが、サービス業の48 件。次いで、製造 業が46 件となった。業種別では、最多は宿泊業で、予約キャンセルの続出に加え、建物の損壊など直接被害を受けたケースも見られた。また、 総合工事業では、資材停滞による工事の中止や停滞が響いた。 ▼ 5 月の主な大型倒産 商 号 所在地 業 種 資本金(千円) 負債額(百万円) 倒産原因 倒産形態 太陽殖産(株) 岡山県 不動産業他 他社倒産の余波 会社更生法 特定目的会社芦屋シニアレジデンス 愛知県 不動産運用 設備投資過大 破産 岩見沢都市開発(株) 北海道 不動産賃貸 既往のシワ寄せ 特別清算 長野工業(株) 長野県 建設機械製造 販売不振 民事再生法 御堂筋共同ビル開発特定目的会社 東京都 不動産開発 放漫経営 破産 フィールファイン(株) 東京都 フィットネスクラブ運営、医療サービス 放漫経営 破産 坂入商事(株) 茨城県 結城紬販売 販売不振 破産 グリーンパーク大山(株) 鳥取県 ゴルフ場経営 販売不振 民事再生法 (株)ゆうしき 茨城県 結城紬、呉服・和装小物卸、FC事業 他社倒産の余波 破産 (株)ワールドゲートカンパニー 福岡県 海外先物取引業 放漫経営 破産 (医)社団フィール・ファイン・クリニック 東京都 診療所経営 他社倒産の余波 破産 リッカーマン(日本)(株) 東京都 産業機械販売 販売不振 破産 (株)ユー・エム・ティー 長崎県 旅館経営 販売不振 特別清算 合同会社銀水閣 石川県 温泉旅館経営 既往のシワ寄せ 銀行取引停止 (有)岡山県ブロイラー 岡山県 養鶏業他 信用性低下 民事再生法 アイマック(株) 大阪府 食肉加工販売 既往のシワ寄せ 破産 (株)セイクレスト 大阪府 マンション販売代理ほか 放漫経営 破産 (株)美宝堂 愛知県 貴金属・宝石類・時計小売 販売不振 銀行取引停止 (株)NSRH 石川県 温泉旅館経営 販売不振 特別清算 日向総合建設(株) 宮崎県 建築工事、分譲地販売 放漫経営 銀行取引停止 大興金属(株) 愛媛県 建具製造 放漫経営 破産 エー・シー・イー・インターナショナル(株) 東京都 先物取引取次業 放漫経営 破産 (株)秀和エンジニアリング 埼玉県 電気工事、建築工事 販売不振 破産 清水部品(株) 静岡県 自動車部品製造 その他 特別清算 富士機材サービス(株) 東京都 印刷機器卸 販売不振 銀行取引停止 24,000 3,100,000 100,000 50,000 2,702,500 1,470,000 96,000 60,000 80,000 100,000 0 200,000 48,000 7,600 91,000 95,000 2,089,035 16,000 10,000 30,000 49,500 100,000 70,000 10,000 28,500 41,758 9,944 6,500 5,800 5,000 4,300 4,103 4,100 4,071 4,000 3,700 3,492 2,513 2,500 2,409 2,380 2,282 2,200 2,100 2,000 2,000 1,800 1,780 1,700 1,500 ▼ 6 月の主な大型倒産 商 号 所在地 業 種 資本金(千円) 負債額(百万円) 倒産原因 倒産形態 (株)福岡センチユリーゴルフクラブ 福岡県 ゴルフ場経営 販売不振 民事再生法 (株)齋藤商事 東京都 経営コンサルティングほか 既往のシワ寄せ 銀行取引停止 (株)創栄 福岡県 不動産管理、ゴルフ会員権売買 他社倒産の余波 民事再生法 新川管財(株) 北海道 臨床検査受託業務、診断薬製造・販売 放漫経営 特別清算 ターンアラウンド債権回収(株) 東京都 債権管理回収業 他社倒産の余波 破産 (株)日本建機リース 鹿児島県 建設機械リース、販売 放漫経営 民事再生法 サンレックス(株) 静岡県 鋼製建具製造 放漫経営 民事再生法 三谷温泉開発(株) 愛知県 旅館経営 販売不振 民事再生法 (株)三谷温泉ひがきホテル 愛知県 旅館経営 販売不振 民事再生法 (株)三建ハウス 山梨県 建築工事、不動産業 過小資本 破産 オゴー開発(株) 岡山県 法面工事ほか 販売不振 民事再生法 (株)オプティコム 東京都 経営コンサルタント、ソフトウェア開発 既往のシワ寄せ 破産 ハヤカワ建設(株) 北海道 土木工事 売掛金等回収難 民事再生法 (株)ニッセン 大阪府 静電気植毛加工ほか 売掛金等回収難 民事再生法 SUMIKURA機械(株) 静岡県 金属加工機械設計・製造 既往のシワ寄せ 破産 (株)青森県ほたて加工 青森県 ほたて加工品製造 販売不振 銀行取引停止 日本出版印刷(株) 愛知県 オフセット印刷 販売不振 破産 シーエイエス東日本(株) 福島県 鉄線製品製造 その他 破産 (株)サンパック 富山県 紙製品製造 他社倒産の余波 銀行取引停止 (株)F・I 東京都 ゴルフ場運営 既往のシワ寄せ 特別清算 (有)観光センターみさき亭 千葉県 ホテル経営 販売不振 銀行取引停止 (株)かんえい 大分県 不動産賃貸業、居酒屋経営 販売不振 破産 (株)北岡 大阪府 印刷業 設備投資過大 銀行取引停止 (有)熱川グリーンホテル 静岡県 旅館経営 販売不振 民事再生法 (株)プレイランド斑尾 長野県 ホテル、スキー場経営 既往のシワ寄せ 破産 70,000 50,000 10,000 93,000 508,000 50,000 40,000 218,785 45,000 20,000 30,000 20,000 10,000 13,000 281,000 50,000 90,000 50,000 41,000 10,000 3,000 35,000 10,000 3,000 30,000 34,300 15,000 8,500 7,560 3,000 2,877 2,247 2,180 2,061 1,900 1,872 1,800 1,787 1,786 1,576 1,400 1,383 1,360 1,300 1,300 1,217 1,214 1,200 1,200 1,180 東京商工リサーチ調べ
寄稿 深谷純子 地震前提から 脱却せよ IT サービスを継続させる仕組みとしてIT-BCP という言葉が使われるようになったが、 多くは災害対策(ディザスターリカバリー)と同じ意味で使われていることが多い。 しかし、過去に地震災害などで実際にIT サービスが止まったケースがどのくらいあるだろう。 今求められているのは、災害対策のためだけでなく、 ヒューマンエラーを含めたあらゆるリスクから、IT サービスを継続させる視点だ。 国際規格 ISO/IEC27031 から学ぶ IT サービス 継続対策の ポイント 2011/07 リスク対策.com 63
64 リスク対策.com 2011/07 2011 年3 月に、IT 業務継続計画の実質的な国際 規格となるISO/IEC27031(IT サービス業務継続ガ イドライン:IRBC)が公開された(ISO/IEC27031: Guidelines for Information and Communication Technology Readiness for Business Continuity)。 このガイドラインは、情報セキュリティに関する 国際標準の一部として策定されているが、IT 担当 者には分かりやすく、IT-BCP(※)の策定ポイント が述べられている。 IT-BCP を策定する上では、既に公開されている ITSMS(ISO20000 IT サービスマネジメント、い わゆるITIL:2005 年)とISMS(ISO27001 情報セ キュリティ:2006 年)、そして現在審議中のBCMS (ISO22301 事業・業務の継続性)が関係してくる。 これらの標準に一部重複する形で、しかもIT サー ビスの継続に関して詳細に解説されているのが、当 ガイドラインである。 業務継続を求められる重要なビジネス機能は、通 常IT に依存しているため、BCP はIT-BCP と連動 する。ガイドラインの1つ目の特徴は、ビジネスと の連携を強め、BCM のPDCA サイクルにIT-BCP のマネジメントシステムを組み込むことが強調され ている点である。ビジネス側に、IT 側の現状のリ ソース状況、対策に必要なコスト(初期費用と継続 費用)と効果、技術的制約等を説明し、IT の回復 能力について脆弱点を含めてビジネス側からの承認 を求める。IT とビジネスは各々のPDCA サイクル で連携する必要がある(図2⇔の部分を参照)。 2つ目の特徴は、IT 基盤やシステムに影響があ るすべての事象や事件(セキュリティ関係を含む) を想定しており、脅威を地震などの自然災害に特定 していない点だ。IT-BCP は全社BCP と同じでは ない。実際、地震によってシステムが停止し、それ 図 1 関係規格の位置づけ図 2 IRBC とBCMS の統合 IT サービス継続の国際規格BCP は、IT-BCP と連動する 脅威は自然災害だけではない BCMS(ISO 22301) 事業・業務の継続性 情報通信技術(ICT)の 継続性 情報セキュリティ IT サービスマネジメント ITSMS(ISO/IEC 20000) IRBC(ISO/IEC 27031) ISMS(ISO/IEC 27001) マネジメント システム 実行と運用 IT-BCP 戦略の 開発と実行 BCM の 対策の 開発・実行 IT-BCP 戦略 の決定 BCM 戦略の 決定 IT-BCP の 訓練 テスト 保守 見直し IT-BCP 要件 の理解 IT-BCP BCM Plan Do Act Check IT-BCP 対策 の検討 是正策・予防策 の実施 BCM 訓練 保守 見直し 評価・メジャー 見直し 組織の BC 要件の理解 ※:ガイドラインでは IRBC(ICT Readiness for Business Continuity)と記載されているが、本文ではIT-BCP と表示する。
2011/07 リスク対策.com 65 が重要だということだ。図3では、経済産業省の事 業継続計画策定ガイドライン(2005 年)で定義さ れているフェーズを左端に記載している。このガイ ドラインはISO27031 と同様、情報セキュリティを 発端にしているが、結果として回復フェーズが強調 された地震用のBCP が意識されている。 IT サービス業務継続ガイドラインでも触れられ ていることだが、業務中断を引き起こし、業務に混 乱をきたすシステム障害こそ、IT-BCP で取り組む リスクである。それらのリスクを引き起こす真の原 因を以下のようにまとめた。 1. 要員に関する問題:担当者のスキル不足、教育 や周知不足 、プログラム保守やシステム運用の 属人化 2. プログラムに関する問題:改修を重ねた複雑なア << IT サービス継続対策のポイント が直接原因で業務が中断したケースは、過去にはほ とんどない(ただし、将来的にもないというわけで はない)。 IT がビジネスの足を引っ張るという、IT 担当者 にとっては最悪のケースでの脅威は、①オペレーシ ョンミス、②プログラムエラー、③パフォーマンス 低下、④情報漏えい、⑤コンピュータウィルスなど である。従って、訓練に関しても代替システムへの 切替やシステム回復作業だけでなく、上記①~⑤が 発生した場合の回復訓練が含まれていなくてはいけ ない。 3つ目は、IT-BCP の対応フェーズを、予防、検知、 対応、回復、改善と定義している点である。BCP 関連の他ガイドラインと比較すると緊急時の初動対 応に重点が置かれている。十分な予防策を講じた上 で、障害の早期検知、被害を最小化する迅速な対応 図 3 BCP で検討するフェーズ 緊急時の初動対応こそ重要 ガイドラインに加えて考慮すべき点 経産省ガイドライン(注) ISO27031 でのフェーズ説 明 ICT サービスを、環境的な脅威、ハードウェアの故障、運用エラー、悪意のある攻撃、 自然災害などの脅威から守る。組織にとって期待されるレベルのシステム可用性を維 持するには欠かせない。 最も早い機会での障害検知は、サービスに対する影響を最小化し、回復エラーを削減し、 サービスの品質を持続する。 最も適した方法で障害に対応することは、回復が容易になり、ダウンタイムが最短化 する。不適切な対応は、ささいな障害をもっと重大なものへとエスカレートする結果 になる。 最適な回復戦略を策定し実行することは、タイムリーなサービスの再開やデータの信 頼性維持を確かにする。業務回復優先順位を理解し、最重要サービスを最初に使える ようにする。重要度が下がるサービスは後で回復されるか、状況によっては回復され ない場合もある。 小規模、大規模の障害から学んだことは、文書化して、分析し、見直すこと。障害の 経験から学ぶことで、システム障害に対する予防管理と障害回避の改善につながる。 障害予防 Prevention 障害検知 Detection BCP 発動フェーズ 業務再開フェーズ 業務回復フェーズ 全面復旧フェーズ 障害対応 Response 障害回復 Recovery 改善 Improvement (注)経済産業省「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会」報告書(参考資料)事業継続計画策定ガイドライン
66 リスク対策.com 2011/07 ビスが抱える問題が解決できないだろうか。クラウ ドには、①システム資源を保有せず、②ネットワー ク上のシステムを使用し、③従量制課金によりスケ ールアウト・スケールインが容易であり、④実績の あるアプリケーションを利用し、⑤標準的なシステ ム運用がなされている。また、⑥システムの仮想化、 ⑦分散処理ができることも特長である(クラウドの 提供形態によっては、一部の機能しか実現できない ものもある)。 通常、BCP の観点でクラウドを検討する場合、 災害対策を意識したバックアップ取得オプションを 含むシステム運用や、障害時の対応に効果がある仮 想化、分散処理によるビジネス拠点との同時被災の 回避などが注目されている。上記、クラウドの特長 の⑤⑥⑦。 表1は、前述した「ガイドラインに加えて考慮す べき点」を解決する視点でクラウドの他の特長も含 めて検証してみたものである。もちろん、現行のシ ステムをすべてクラウド化するのは難しく、業務の やり方を変更する必要もでてくる。しかし、国内や 海外でもクラウドを利用する企業が増えてきている プリケーションの使用による問題の分かりづらさ 3. システムリソースに関する問題:リソース不足、 想定外の大量アクセスの発生、サポート切れソ フトウェアやハードウェアの使用 4. 予算の問題:システム開発・運用の予算削減に よるリスク対応力の低下 5. システム要求への問題:無理なシステム機能要 求、短期間での対応、頻繁な例外処理の発生 個々の問題は互いに関連性があり、まとめて解決 することが望ましい。例えば、プログラムの問題は、 スキルや予算が問題になることが多く、リソースの 問題は、予算とシステム要求が問題になることも多 い。そして、これらのIT サービスが抱える問題の ほとんどは、「ビジネス側からの要求を発端として おりIT 部門では断りにくいこともある」。 現在注目されているクラウドによって、IT サー 業務中断を招くIT リスクIT リスク発生の原因クラウドによる解決の可能性 ・センター側で訓練された要員による十分な体制でのサービス提供 ・セキュリティなど専門性の高い要員によるサービス提供 ・利用実績のあるアプリケーションのため、自社開発に比べて潜在バグが少ない ・プログラム開発・保守が不要 ・システムリソースの拡張が容易 ・センター側でのバージョンアップ作業による保守性の確保 ・最新のハードウェアの利用が可能 ・リソース共有化によるコストメリット ・将来を見通したリソースの事前調達が不要 ・開発・運用・保守要員の自社確保が不要 ・標準化されたメニューによる例外処理の排除 ・標準機能を使用することで、システム要求への早期対応が可能 要員に関する問題 ・要員不足 ・スキル不足 プログラムに関する 問題 オペレーションミス プログラムエラー パフォーマンス低下 情報漏洩 コンピュータウィルス ハードウェア障害 システムリソースに 関する問題 予算の問題 システム要求に 対する問題 表 1 IT リスクとクラウドによる解決 IT サービス継続対策としてのクラウド
2011/07 リスク対策.com 67 << IT サービス継続対策のポイント 化や遠隔操作により移動を最小化する。バックアッ プセンターに限らず、移動できないことを前提にし た業務継続の手段としては、在宅勤務を検討するも 有効である。 ■複数のコミュニケーション手段を準備 今回、被災地は通信回線が途絶し、被災地以外は 輻輳や発信制限があり、安否確認システムは十分機 能しなかった。対策としては、複数のコミュニケー ション手段を準備しておくことと、連絡が取れない 場合の対応手順を決めておくことが有効だと思わ れる。前者に関しては、今回の震災で、チャット (Facebook、Twitter などを含む)やSkype での 通話は使えたことから、緊急連絡手段に取り込むこ とも必要ではないか。後者に関しては、連絡が取れ ない場合は最悪の事態を想定した手順を始める、指 示を待たずにできる範囲を決めておくこと、権限委 譲などがある。 IT をレジリエンスにすることで、ビジネス継続 を支えたいと思う。それには、今までとは異なる IT-BCP の発想が必要だと思う。P.F. ドラッカーの 名言「過去から脱却せよ」を「地震前提のBCP か ら脱却せよ」と置き換えて終わりにする。 中、クラウドを全く考えないのもリスクではないだ ろうか。 3 月11 日に発生した東日本大震災は、広範囲に わたり甚大な被害をもたらした。この貴重な経験を 振り返り、現対策の見直しポイントをいくつかまと めてみた。 ■重要IT 機器を離す データセンターが被災地から離れていたため、デ ータセンターの被害はほとんどなかったと思われ る。IT 回復作業は、現地のネットワークやPC 端 末関係が多かった。このことから、少なくとも重要 業務拠点とデータセンター(重要IT 機器)は、同 時被災を回避するためにも離れていた方が有効だと 言える。本番センターとバックアップセンターの距 離についても、一概に安全な距離は言えないが、例 えば電力会社の管轄が分かれるくらいの距離は必要 かもしれない。 ■データは遠隔地保管 データのバックアップは複数保持し、必ず遠隔地 保管すること。コストや情報セキュリティの観点で データの分散保管に課題はあるが、データの重要性 と復元の難易度を考えると、必要なデータが有ると 無いでは、被災後の復旧スピードが格段に違ってく る。住民基本台帳は県や国でバックアップがあるた め回復できたが、その他の重要データの被災は深刻 だ。 ■人の移動は前提としない バックアップセンターには、なるべく災害発生時 に移動することを前提としない方法を検討する。移 動する手段がない、キーマンの不在等で移動できる 要員がいない場合があるからだ。そのためには、バ ックアップセンターに常時要員を配置するか、自動 東日本大震災から学ぶIT 対策のポイント 過去から脱却せよ 深谷レジリエンス研究所代表 レジリエンスに関する研究活動、執筆、講演、 コンサルテーションを実施 HP:? www.fukayaresilience.com 日本アイ・ビーエム出身 深谷純子(ふかや・すみこ)
68 リスク対策.com 2011/07 月11 日、中国北京清華大学の顧林生(こ・りんせい)教授は、神戸大学都市安全研究センター の客員教授として神戸に滞在していた。顧教授は1997 年に名古屋大学大学院で博士号を取 得し、日本の防災事情をよく知る中国人学者として知られる。 災当日の夜7 時頃、顧教授は「日中の架け橋」というテーマで北京の中国国際放送(CRI: China Radio International)からインタビューを受け、日本政府の災害緊急救援の対応状 況と市民の様子を伝えるとともに、「四川大地震で日本から多大なる支援を受けた中国にとっ て、いま、日本を支援するときが来た」、「日本が必要ならば、中国は緊急援助隊を出すべきだ」 と中国政府に訴えた。震災の翌日12 日夕方には、北京市の最大の地方新聞『新京報』の特集 記事に協力し、日本政府の迅速な危機対応、災害情報伝達などを高く評価した。 008 年の四川大地震では、清華大学都市計画設計院の仲間と、中国政府の依頼を受けて 被災地に赴き被害調査を実施。その後の仮設住宅のゾーニング、復興計画の作成に協力した。 東日本大震災では「日本の対応を自らの目で見て、自らの体で実感したい」と、直後の3月末、 4 月、5月、6月と南は宮城県亘理町から、北は岩手県宮古市まで、何度も被災地を訪れている。 おそらく最も被災地を歩いた外国人学者の一人だ。 震災の日本政府、企業の対応をいかに見ているのか、顧教授に話をうかがった。 0 顧 林生氏北京清華大学都市計画設計研究院公共安全研究所所長 神戸大学都市安全研究センター 客員教授 “壊滅的な沿岸部に 学校が残っていた” 被災地を最も歩いた外国人学者が見た風景 3 震 2
2011/07 リスク対策.com 69 << 中国専門家が見る東日本大震災 東日本大震災は、死者1万5270 名、行方不明者 8499 名(5 月30 日時点)という明治以降では、関 東大震災に次ぐ極めて深刻な被害をもたらした災害 です。防災先進国と言われる日本でこのような状況 が発生したことに対して、私は、悲観的・消極的な 評価はしてはならいと考えています。日本の防災の 歴史を全体的に見て総合的に評価すべきです。 まず、東日本大震災への政府や自治体、企業の 対応を見ると、評価できる点はいくつもあります。 1つは、政府や自治体の対応が阪神淡路大震災と 比べて大幅に改善されたこと。被災直後4 分以内で、 首相官邸の危機管理センターには官邸対策室が設置 されるとともに、関係省庁の緊急参集チームが直ち に集まりました。発災から28 分以内(= 15 時14 分) で、管総理大臣は日本の災害史上初となる緊急災害 対策本部を立ち上げ、15 時37 分に第一回緊急災害 対策本部会議を開催し、災害応急対策に関する基本 方針を出しました。それと同時に、緊急消防援助隊、 警察広域緊急援助隊、自衛隊の災害派遣部隊、災害 派遣医療チーム(DMAT)が、全国から混乱なしに、 続々と派遣されました。阪神淡路大震災で指摘され た国の初動の遅れや自治体の支援要請の遅れ、自衛 隊出動の遅さも、今回の大震災では見られませんで した。阪神淡路大震災の後、日本の初動体制、危機 対応に関する制度改正などにより、実際の行動が改 善されたと評価することができます。 被災が深刻だった3県の知事は、すぐ対策本部 を立ち上げ、自衛隊の救援を要請しました。これに より、非常に早い段階からの緊急救援活動が開始さ れたのです。これらは世界の目から見ても高い評価 を得られていると思います。 ちょうど全国人民代表会を開催していた中国で は、法に沿ってきちんとした手順により対応を進め ていた日本政府の初動体制と危機対応を高く評価し ました。 もう1つは、防災や危機管理に関する日本の技 術の高さです。緊急地震速報は確率にまだ課題があ るにしろ、世界的には画期的な技術で、さらに地震 発生後3分足らずで大津波警報が発令され、NHK 政府・自治体の対応の早さ 民間技術の高さ 3 月27 日仙台市にて撮影した
70 リスク対策.com 2011/07 するわけにはいきません。しかし、あれほどの揺れ が数分間も続いたにも関わらず、ほとんど建物が壊 れていないし、仙台市など都市部の地下街も無事で した。世界4番目の規模を記録した地震で、これほ ど被害が少なかったことは高く評価されるはずで す。日本建築学会の先生からも、日本の建築技術が 今回の大震災で十分検証されたと教えられました。 丈夫な建物を造るのは、地震対策で最も重要な基本 です。帰国後、北京で東日本大震災について講演を するたび、政府関係者に「強い建物を造らないと、 地震対策には限界がある」と強調しています。 今回の震災では、津波避難施設に指定されてい た建物でも予想外の高さの津波に飲み込まれてしま ったものもありましたが、多くは機能したといえま す。日本では当然のことかもしれませんが、手抜き 工事などがなく、1つ1つの施設がしっかりと造ら れていることが安全を支えているのです。 特に感動したのは、壊滅的な被害を受けた沿岸 部でも小学校や中学校が残っていたこと(72 ペー や民報各局が津波の様子を生中継しました。映像は 国内にとどまらず世界各国でも流れました。 おそらく世界でも、これほどの大災害の様子を 生中継で見た例はないでしょう。防災の歴史にお ける大革命と言ってもいいくらいです。NHK で放 送された緊急地震速報と大津波警報が出た時の映像 は、四川大地震3 周年国家行事として、5 月10 日 に中国の国家減災委員会が主催した「総合防災減災 と持続可能な発展シンポジウム」で流され、中国の 防災関係者を感服させました。 新幹線の安全技術も高いです。JR 東日本管内で は88 本の新幹線が走行中だったとのことですが、 すべて安全にストップして人身災害はありませんで した。被災直後に現地を視察し、高架線上に止まっ ていた新幹線を見ましたが、高架線や橋脚が耐震補 強されているのが分かりました(69 ページ写真)。 建物全体の耐震レベルの高さも誇るべき技術で す。もちろん、今回の地震は、直下型地震とは揺れ の種類が異なり阪神淡路大震災などとそのまま比較 仙台市の住宅に地震動による倒壊のような 被害がほとんどみられない
2011/07 リスク対策.com 71 一方、今回の大震災では、成熟社会の防災に限界 が見られたことも否めません。本来、日本は、高い 堤防、迅速な警報、過去の津波の教訓、避難訓練な どを組み合わせ、十分な災害対応力を持っていると 思われます。しかし、予想以上の高い津波が来たと いう直接の原因の他に、成熟社会としての人々の考 え方に問題があったように思うのです。「堤防があ るから津波は来ない」というような気持ちがどこか にあったのではないでしょうか。 地域的にも、過去の津波の教訓を生かせた地域と、 生かせなかった地域の差が出たように思います。大 船渡市や宮古市の、「ここより下に家を建てるな」 という明治三陸津波の教訓を刻んだ石碑がある場所 を訪れましたが、日本には、他にもさまざまな教訓 が伝えられていたことを知りました。成熟社会の中 で、こうした教訓がどこか軽視されてしまっていた 感じがします。今後、新たな教訓をどのように生か していくのか、後世に伝えていくのかを改めて考え なくてはいけません。 原発問題では、海外の視点から見ると、情報統制 のあり方に問題があったように思います。日本のマ スコミ、政府、東電からの情報は、統一されていな いというのは問題です。原発の問題とその危険性に 関する情報は、科学的、厳粛的なもので、一般自然 災害や事故としての取り扱いとは違っています。危 機管理においては、情報の早さだけが求められるわ けではありません。特に外国への情報発信は国全体 の信頼に関わることなので慎重さが求められます。 そして、日本政府の公式情報より、ネットから非公 ジ写真)。 警察庁の発表では、亡くなられた方の65%が60 歳以上の高齢者で、20 歳未満の子どもが6.5%にと どまりました。犠牲になられた方には本当に気の毒 ですが、将来の日本を担う若い命が救えたことは重 要なことだと思います。これとは正反対に、四川大 地震では子どもの犠牲が20%を超えました。 首都圏での対応は、次に来るかもしれない大地 震の大きな試練になったと見ています。帰宅困難に 対しては、ここ約10 年間にわたり準備を進めてき たことを私は評価していますし、今回の震災では、 多少混乱も生じたようですが、それでも事前訓練や 準備の成果は出たと思います。特に民間企業の対応 では、自らが帰宅困難者支援のパンフレットを配っ たり、備蓄食品を配布するなどすばらしい対応をし たことは、都市部としての震災対応の自信になった のではないでしょうか。そして、政府や東京都は、 東京の対応 安全が当たり前に 原発対応 成熟社会としての防災のあり方 駅周辺の公共施設を最大限活用し、首都圏に所在す る公共の施設を一時、滞在施設として開放するよう な帰宅困難者対策を講じました。このような官民協 力、帰宅困難者の冷静な行動などにより、11 日の 帰宅困難者の問題はうまく解決されたと評価できま す。もし北京で地震が発生したら、帰宅困難者対策 が大きな問題になることは間違いありません。従っ て、今回の東京首都圏の帰宅困難者対策は、北京の 地震対策および地震防災条例の改正に参考になると 思います。 志津川の避難ビル << 中国専門家が見る東日本大震災
72 リスク対策.com 2011/07 式の情報や、米国などの外国情報を信じたという事 態が起きたのは、おそらく、日本では初めてのこと でしょう。 本来は、日本の原発に対する対外的な情報窓口を 一本化し、マスコミと外務省が合同チームを作るな どの対応が必要だったのではないでしょうか。米国 の2001 年の同時多発テロでも、政府主動で情報統 制はされています。 個人的な意見ではありますが、日本は国内だけで 問題を解決しようとしすぎているように思えてなり ません。国際原子力機関(IAEA)ともっと連携し て情報統制したり、あるいは福島第一原発の開発元 のGE にも解説を求めることをするべきです。もし、 GE に問題があったとなればアメリカ、ヨーロッパ、 そして世界中の原子力発電が大問題になります。で すから米国としてはGE を出したくない思惑はある のでしょう。逆に、日本としては根本原因の究明に << 中国専門家が見る東日本大震災 向け、GE も含めた議論をすべきです。多くの機関 と連携を強めた方がリスクは分散されます。戦略的 なクライシスコミュニケーションのあり方を、もっ と考えていくべきではないでしょうか。 日本は、阪神大震災で近代都市の震災問題、中越 地震では中山間地域の問題にそれぞれ直面しまし た。今回の東日本大震災では、大地震、大津波、原 発など被害を受けて大変な経験をしました。しかし、 全体的に災害史から見れば、日本は、多難を1つ1 つ乗り越えていて、世界の中で、依然として災害に 強い国であります。今回の大震災で亡くなられた方 にご冥福をお祈りし、震災における日本の教訓と経 験がさらに人類の防災・減災能力を向上させるよう 願います。日本には、引き続き世界の防災・減災の 先頭を走っていただきたい。 (6月2日、都内ホテルにて) 仙台市宮城野区中野地区の町が津波で全滅したが、 中野小学校の建物が残って、約400 人が避難した 避難場所の役割を果たしたことに感心した 日本の今後の防災と減災への期待
第3 回 上海国際減災及び安全博覧会 国際減災と公共安全フォーラム 上海万博会場テーマ館 上海市ビジネス委員会 四川省都江堰市人民政府
74 リスク対策.com 2011/07 2010 第2回上海国際防災及び安全博覧会 国際減災と公共安全フォーラムの概要 第2回上海国際減災及び安全博覧会・国際減災と公共安全フォーラム(以下、第2回上海国際防災展に略称)が2010 年 10 月10 日から同月15 日まで、四川省都江堰市と上海市を舞台に開催されました。上海市商務委員会と都江堰市政府 が主催したもので、上海商務部国際司と国連人道主義事務協調室、成都市政府らが協力し、上海国際広告展覧有限会社と 都江堰市商務局が運営を担当しました。 第2回上海国際防災展は、国民の 総合的な災害に対する安全意識と、 政府の応急管理能力を高めることで 中国国内の防災力と安全産業の発展 を図ることを目的としたものです。 国内外の先進的な安全設備・技術を 展示したほか、四川大地震で大きな 被害を受けた都江堰市の、自然災害 後の再建の様子も写真で展示しまし た。会場では、避難訓練などの実演 も行い、フォーラムと産業サミット も併せて開催しました。 展示会場の広さは3000 平方メ ートルで、前回(第1回)に比べ、 より大規模な展覧会となりました。 会場内には、アメリカ展覧区、日 本展覧区、そのほかの国外の展覧 区、国内展覧区、屋外展覧区も設 置されました。出展企業は52 社で す。そのうち、アメリカ、日本、イ ギリス、イタリア、デンマーク、イ ンドネシア、台湾、香港など、海外 出展企業が約3割を占め、国内の四 川、北京、湖北、浙江等の省と市か らの出展企業が約4割を占めていま す。来場者は4000 人以上で、国 内はもとより、日本、アメリカ、ヨ ーロッパ、韓国などからの参加者も 上海国際広告展覧有限会社 ありました。この展示会をきっかけ とした各企業の取引額を調査したと ころ、3700 万元(約4 億6000 万円)で前回より2割以上、増加し ています。 出展各社の評価では、7割の会社 が「効果あり」と回答しています。 「取引分野を拡大させることができ た」、「潜在的なユーザーと接触でき た」「減災と安全産業の市場を理解 できた」などの意見がありました。 4割近くの会社は、引き続き今後も 同展覧会に参加すると回答していま す。 主な特色 第1回(2009 年)の展覧会と 比べると、今回は下記の特色があり ます。 (1)主催、協力、後援機関・団体が 拡大 ◇主催機関:民政部緊急救援促進 センターが加わりました。 ◇協力:国家防災緊急装備工程技 術研究センター、中国地震学会、 上海市工程防振事務所、上海洪水 防止指揮部事務所、上海市安全生 産科学研究所が加わりました。 ◇後援:商務部国際経済貿易関係司、 昨年は、川勝平太・静岡県知事も視察に訪れた
2011/07 リスク対策.com 75 国連OCHA が加わりました。 (2)世界的な防災先進国が参加 ◇アメリカ展覧区:上海に駐在する アメリカ領事館が6 社の米国企 業を集め出展 ◇日本展覧区:日本企業5社が出展。 FORUM8、大学産業、日立ソリ ューションズなどが出展。 (3)国内企業が最新設備技術を展示 国内企業は緊急救援、通信、無 人機、仮想3 次元システム、防雷、 洪水防止、捜索、知能システム、観 測設備、測定機械などの設備と技術 を展示しました。北京自動車会社は 災害現場で活躍する大型通信車や気 象観測車を展示しました。 (4)来場者が増加 展示企業の統計によると来客者 の数は約4000 人。日本からは静 岡県知事ら31 人が特別参加しまし た。また中国の危機管理の専門誌「生 命与災害」を発行する出版社が全国 記者会議を開催しました。 (5)論壇・サミット 10 月10 日に都江堰青城豪生国 際ホテルで行った「2010 上海・ 都江堰 国際防災と公衆安全論壇」 は、“防災減災、科学発展”をテー マに、開催式、主題演説に加え、災 害後の復興現場の写真展示や防災緊 急救援基地の見学などを実施しまし た。 演説テーマは12 の議題にのぼり ます。国連Asia Pacifi c 責任者の Terje Skavdal 氏は突発自然災害の 緊急管理研究について、中国地震緊 急捜索・救助センターの担当者は地 震災害への対応と復興について講演 しました。 産業サミットの理念は“科技防 災、安全社会”です。演説テーマは 全部で14 議題あり、4つに分けて 実施しました(中国防災・減災と国 内の現状、災害後の緊急救援の現 << PR 状、水防止と医療緊急救援情況、地 震防災など)。 反響 7割の出展会社が今回の展示会に ついて「効果があった」としていま す。また、9割近くの出展会社は展 示前のサービスを評価し、多くの出 展会社が現場のサービスを評価して います。 商務部国際司の朱洪副司長は「上 海商務委は防災国際協力の進めにつ いて遠見卓識があり、上海国際防災 展示会を成功裏に開催した。これ は、中国と国際防災企業の交流と発 展を促進するものである」と演説し ました。このほか、各代表から、今 回の博覧会について、国内外の企業 が我が国の耐震、減災事業に深く参 与できる良いチャンスを創造したな どの高い評価をいただいています。 【展示】 10 月13 日から15 日まで上海市の上海展覧センターで 「2010 年第2回上海国際防災展」が行われました。開幕式には、 上海市政府副秘書長、市商務委主任、商務部国際司副司長、ア ジア太平洋地域国連人道主義事務所代表、中国地震局災害防御 司副司長、民政部国家減災センター副主任らに参加していただ きました。 【フォーラム】 10 月10 日から11 日まで、都江堰市の青城豪生国際ホテ ルで「2010 年上海・都江堰国際減災と公共安全論壇」が開催 されました。開幕式には、上海市政府副秘書長、市商務委主任、 成都市副市長、成都市市長代理、都江堰市委書記、アジア太平 洋地域の国連人道主義事務所代表らに参加していただきました。 【サミット】 10 月13 日に、上海市の上海展覧センターで「2010 中国(上 海)国際災害減少・安全産業サミット」が開催されました。
76 リスク対策.com 2011/07 【回答】 (1)従業員について 会社は労働者の安全・健康に配慮する義務を負い (労働契約法5条)、また、快適な職場環境を形成す るように努める義務を負っています(労働安全衛生 法71 条の2)。したがって、会社が職場環境の安全 性等の確保を怠ったために、従業員が健康を害した 場合等には、損害賠償責任を負う可能性があります。 職場環境については、労働安全衛生法の規定に 基づき、また同法を実施するため、厚労省により 「事務所衛生基準規則」が定められています(昭和 四十七年九月三十日労働省令第四十三号)。 同規則によれば、会社が空気調和設備(空気を浄 化し、その温度、湿度及び流量を調節して供給する ことができる設備)を設けている場合には、部屋の 気温が17 度以上28 度以下、及び相対湿度が40% 以上70%以下になるように努めなければならない とされ(同規則5 条3 項)、また、例えば精密な作 業を行う場合の作業面の照度については、300 ルク ス以上の基準に適合させなければならないとしてい ます(同規則10 条)。 なお、今夏の節電に関しても、厚労省労働基準局 長より、都道府県労働局長宛、「夏期の電力需給対 策を受けた事務所の室内温度等の取扱いについて」 (平成23 年5月20 日付け基発0520 第6号)が出 されています。これによれば、今夏の節電下におい ても、部屋の気温については、まずは28 度とする よう努めること、照度についても、作業の区分にか かわらず作業面の照度を300 ルクス以上とすること ※ご相談に対する正しい回答をお答えするものではありません。 【相談の宛先】新建新聞社リスク対策.com 編集部 risk-t@shinkenpress.co.jp メールタイトルを「リスク法律相談」とし、所属する企業の業種、担当部署、相談内 容を明記の上、リスク対策.com 編集部まで送ってください。個人情報は新建新聞社 が適切に管理します。 鳥飼総合法律事務所内田久美子弁護士の 社内リスク法律相談 現場担当者の法的なお悩みについて、弁護士の視点からアドバイスします。 相談1 節電により、エアコンの設定温度を高くしたり、照明を暗くしたことで、従 業員や顧客が体調を壊したり、作業ミスによる事故を起こしたりした場合、 会社は責任を問われますか。 節電 節電
2011/07 リスク対策.com 77 << 法律 【回答】 労働者災害補償保険法の保険給付は、労働者の業 務上の負傷、疾病、障害又は死亡(「業務災害」)(7 条1 項1 号)、あるいは労働者の通勤による負傷、 疾病、障害又は死亡(「通勤災害」)(7 条1 項2 号) に限られています。 この点、「業務上の」災害というためには、業務 と災害との間に相当因果関係(「業務起因性」)が必 要であるとするのが判例です(最高裁昭和51 年11 月12 日判決)。これは、業務に内在する危険が原因 となって発生した災害であれば、営利責任や危険責 任の見地から、事業者が労働基準法上の補償責任を 負うのが妥当であり、それゆえに保険給付の対象と なる、との考え方に基づいています。 そして、交通事故などの突発的事態による死亡・ 負傷が生じた場合には、業務遂行中であったかどう 【回答】 「労働者の個人情報保護に関する行動指針」(平成 12 年12 月20 日労働省告示)によれば、個人情報 は原則として本人から直接収集するものとされ、本 人以外から収集する場合は、原則として本人の同意 を要し、同意なく行うには、法令の定めや、労働者 の生命、身体又は財産の保護のための緊急の必要性 などが求められています(同指針第2、2(1))。 か(「業務遂行性」)も考慮されます。 例えば、事業所外での事故については、外回りの 営業や出張など、労働者が使用者の支配下にあって、 業務に従事していると評価できる場合には、原則と して業務起因性が推定される傾向にあります。 反対に、本来の業務やこれに付随する行為から離 脱しているような場合には、この推定は覆ることに なります。 本件について言えば、被災地にボランティアに行 くことは、通常、会社の業務ではないことから、そ れが会社にとって必要で、かつ会社の命令である場 合などの事情がない限り、会社の許可をとって社用 車を使用していただけでは、業務起因性があるとは 言い難く、労働災害として保険給付を受けることは 難しいものと思われます。 そして、労働者が同指針に反する質問(例えば、思 想・信条及び信仰など)を受け、これに回答しなか った場合、そのことを理由に、労働者に対し、解雇 その他の不利益な扱いを行ってはならないとしてい ます(同指針第2(6))。 この点、携帯電話の番号などはみだりに他人に公 開されるべきものではありませんが、思想・信条な どと異なり、必ずしもセンシティブな情報とは言い 相談2 会社の許可をもらって社用車で被災地にボランティアに行ったところ、 途中で交通事故に遭いました。労働災害は適用されるのでしょうか? 相談3 非常時の安否確認体制を強化するため、全社員の個人の携帯電話、自宅の電 話を登録させようとしたところ、プライバシーの侵害だと拒否されました。 強制的に登録させることはできますか? が望ましいとの指導がなされていますので、これら に配慮する必要があるでしょう。 (2)顧客について 顧客についても、建物や部屋を会社が支配管理し ている以上、室内にいる顧客の安全に対して、一定 の配慮をすべき責任を負うものと考えられ、これを 欠く場合には、損害賠償責任を負う可能性があると 思われます。
78 リスク対策.com 2011/07 【回答】 個人情報保護法上、個人情報を含むデータベース 等を事業の用に供している、個人情報取扱事業者(同 法2 条3 項)は、その個人情報の取り扱いについて 責任を負います。 もっとも、この責任は原則として行政上のものに とどまり、直ちに民事上の責任に結びつくわけでは ありません。 民事上は、第一にその情報を流出させた個人が被 害者に対し不法行為責任(民法709 条)を負い、生 じた損害を賠償することになりますが、その使用者 である会社も、使用者責任(民法715 条)等を負う 可能性があり、これが認められれば損害賠償責任を 負います。 賠償金額の相場は一概にはいえません。賠償金額 は、流失した情報の内容(プライバシー性の高い情 報か)、流出の範囲(例えばインターネット上に拡 散してしまったなど)、流出の原因(故意や過失の 有無や程度)、流出した個人情報による二次被害(迷 惑メールやいたずら電話の有無など)、流出後の対 応(謝罪や流出被害対策の有無・内容など)などの 諸要素が考慮されるため、事案により異なるからで す。 例えば、後述する宇治市住民票データ流出事件(大 阪高裁平成13 年12 月25 日判決)では、1 人当た り約1 万円+弁護士費用5000 円の損害賠償が認め られました。 一般的には、数千円から数万円程度が相場といえ そうですが、例えば少年事件の調書など極めて秘匿 性が高い情報の場合、40 万円の損害賠償が認めら れた例もありますので(後述の北海道警察漏洩事件: 札幌地裁平成17 年4 月28 日判決)、注意が必要です。 以下、上記2 つの裁判例をご紹介します。 ①宇治市住民票データ流出事件(大阪高裁平成13 年12 月25 日判決) 【事案の概要】 本件は、宇治市が、その管理に係る住民基本台帳 のデータを使用して乳幼児健診システムを開発する ことを企図し、その開発業務を民間業者に委託した ところ、再々委託先のアルバイトの従業員が上記デ ータを不正にコピーしてこれを名簿販売業者に販売 し、同業者が更に上記データを他に販売するなどし たことに関して、宇治市の住民らが、上記データの 流出により精神的苦痛を被ったと主張して、宇治市 に対し、国家賠償法1 条又は民法715 条(使用者責 任)に基づき、損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用) の支払いを求めた事案です。 住民の個人情報としては、個人連番の住民番号、 住所、氏名、性別、生年月日、転入日、転出先、世 帯主名、世帯主との続柄等が含まれており、インタ ーネット上で、これらのデータの購入を勧誘する広 告が掲載されていました。 【裁判所の判断】 裁判所は、まず、本件住民票データは、宇治市民 らのプライバシーに属するものとして法的に保護さ れるべきものである以上、法律上、宇治市によって 管理され、その適切な支配下に置かれているべきも 相談4 個人情報が漏えいした場合、誰がどのように賠償することになるのでしょう。 また、一般的に賠償金はどのくらいになりますか? 難い側面を持ち、同指針でも収集を禁じられていま せん。 以上からすると、本人の同意なく本人以外から個 人情報を収集するのは問題がありますが、非常時の 安否確認体制の強化という事業上の必要性がある本 件においては、本人に対して十分に意義を説明して 質問しても、正当な理由なく回答を得られなかった 場合には、相応の不利益処分を課すことにより一定 程度の「強制」を行うことも、不可能ではないよう に思われます。
2011/07 リスク対策.com 79 ろ、同所に交通取締りのためのミニパトカーで待機 していたB 警察署勤務のA 巡査に、指定場所一時 停止違反を現認されました。原告は、A 巡査の停 止指示に従うことなく逃走を続けましたが、やがて 道路交通法違反(指定場所一時不停止)の被疑者と して現行犯逮捕されました。 A 巡査は、その職務に関する捜査関係文書を作 成するにつき、私有パソコンをB 署内で使用して おり、原告の上記事件に関する書類を作成する際に も、同パソコンを使用していました。そして、同巡 査が同パソコンを自宅に持ち帰り、以前から同パソ コンにインストールしていたウィニーを起動させイ ンターネットに接続したところ、同パソコンがアン ティニーに汚染されていたことから、同パソコンの デスクトップ画面上に存在していた本件捜査関係文 書のファイルが公開用フォルダに複写され、他のウ ィニー利用者に閲覧されるに至ったものです。 【裁判所の判断】 裁判所は、本件捜査関係文書には、原告の住所、 職業、氏名、生年月日といった個人識別情報ととも に、原告を被疑者とする道路交通法違反事件の詳細 な内容が記載されていたところ、同事実は少年の非 行事実として少年の健全育成のため秘匿されるべき 情報であること等、本件に顕れた一切の事情を総合 考慮すると、慰謝料としては40 万円をもってする のが相当であると判断しました。 以上 のであるにもかかわらず、その支配下から流出し、 名簿販売業者へ販売され、更には不特定の者への販 売の広告がインターネット上に掲載されたこと、ま た、宇治市がそれを名簿販売業者から回収したとは いっても、完全に回収されたものかどうかは不明で あるといわざるを得ないことからすると、本件デー タを流出させてこのような状態に置いたこと自体が プライバシー侵害であると判断しました。 次に、宇治市民らが被った損害としては、上記広 告が掲載されたこと、及び同データの回収が完全で あるか否かについての不安・精神的苦痛を受けたこ と以上の主張立証はされていないが、本件データが 不特定の者にいつ購入されていかなる目的でそれが 利用されるかわからないという不安感を生じさせた ことは疑いがなく、プライバシーの権利が法的に強 く保護されなければならないものであることにもか んがみると、宇治市民らは慰謝料をもって慰謝すべ き精神的苦痛を受けたといえると述べました。そし て、その額については、本件において宇治市民らの プライバシーの権利が侵害された程度・結果は、そ れほど大きいものとは認められないこと、宇治市が、 本件データの回収等に努め、また市民に対する説明 を行い、今後の防止策を講じたことを含め、本件に 顕れた一切の事情を考慮すると、慰謝料としては1 人当たり1 万円、弁護士費用としては1 人当たり 5000 円と認めるのが相当であると判断しました。 ②北海道警察漏洩事件(札幌地裁平成17 年4 月28 日判決) 【事案の概要】 本件は、原告を被疑者とする捜査情報が、警察官 A 巡査の私有パソコンからインターネットを通じ て外部に流出したことについて、当該警察官の不法 行為に原因がある等として、原告が、国家賠償法1 条1 項に基づき、精神的損害の賠償を求めた事案で す。 ある日の深夜、原動機付自転車を運転していた原 告は、道路標識により一時停止すべき場所と指定さ れている交差点に一時停止をせずに進入したとこ << 法律
80 リスク対策.com 2011/07 第1 初めに 企業における労働者とは、リスクである以前に資 源です。企業は労働者がいなければその事業を行う ことができず、また、優秀な労働者を確保すること ができれば、その企業の事業活動は、飛躍的に発展 します。 今回は、労働者との関係において問題となる事項 のうち、伝統的に問題が生じやすい事項について検 討いたします。しかし、そもそも、労働者との間の 法律関係について生じるリスクは、突き詰めてしま うと、労働者と企業との間における信頼関係の破綻 を原因として生じるものです。 従いまして、企業として、労働者との間の法的リ スクを避ける最良の方法は、処分の根拠となる条項 等を就業規則などを用いてあらかじめ明示すること によって、労働者に予測可能性を与え、かつ、実際 に処分をする際には、処分の根拠となる理由を明示 し、かかる上で適正な手続に基づいて処分をすると いう適正手続の遵守(デュープロセス)につきます。 そこで、今回、検討する各事項についても、処分 等を行うに当たっては、適正手続を遵守することが その前提にあることを認識しつつお読み下さい。 第2 解雇に関する法的問題点 労働者との関係において、もっとも法的トラブル が起きやすい事案としては、解雇の場面が挙げられ ます。 この点、解雇には、普通解雇と懲戒解雇があり、 普通解雇の中の一態様として、整理解雇があります。 懲戒解雇 懲戒解雇とは「企業秩序の違反に対し、使用者に よって課せられる一種の制裁罰として、使用者が有 する懲戒権の発動によって行われるもの」とされて います。 まず、この懲戒解雇は、就業規則に懲戒事由及び 懲戒手段が明示されており、かつ、その内容を労働 者(労働者)に対し周知させる手続きが取られてい ないと、行うことができません。 さらに、就業規則記載の懲戒事由に該当するから と言って、常に、懲戒解雇が有効となるわけではな く、「使用者の懲戒権の行使が客観的に合理的な理 由を欠き、又は社会通念上相当として是認し得ない 場合には」懲戒権の濫用として無効となると判示さ れています(最高裁判所第2小法廷昭和58 年9月 16 日)。これを受け、労働契約法15 条も、懲戒権 の行使に一定の制限をかけています。 弁護士 北 周士 労働者(従業員)との 雇用関係におけるリスク 企業における危機管理と法律 第4回 労働契約法15 条 「使用者が労働者を懲戒することができる場合におい て、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性
2011/07 リスク対策.com 81 かが問題となります。 この点、普通解雇でよく問題となるのは、勤務成 績や勤務態度が不良で職務を行う能力や適格性を欠 いているとして解雇を求める場面があります。この ような解雇について、客観的に合理的な理由がある かについては、「企業の種類、規模、職務内容、労 働者の採用理由、勤務成績、不良の程度、その回数、 改善の余地の有無、会社の指導の有無、他の労働者 との取り扱いの不均衡の有無等」を総合考慮して決 定されるとされています。 整理解雇 整理解雇とは、普通解雇のうち、「経営不振等経 済的な理由を根拠として行われる人員削減」のこと を言います。この整理解雇は、解雇の理由として極 めてよく行われるものであったことから、裁判所の 判断の集積から、以下の4つの要素を満たした場合 には認められるとされています。 ① 解雇の必要性(企業が経営不振の状態にあるこ と) ② 整理解雇の回避努力義務(解雇回避のために、 経営上の努力をしたこと) ③ 解雇者の基準・選定の合理性(全労働者を対象 とする客観的な基準があること) ④ 労使交渉等の手続の合理性(労働者や労働組合 と十分に協議をしたこと) もっとも、上記4要素を全て満たさなければ絶対 に整理解雇が認められないものではなく、上記4要 素を総合的に考慮し、「客観的に合理的な理由があ る」場合には、整理解雇も有効となります。 上記解雇に共通する適正手続きの重要性 懲戒解雇にしろ、普通解雇にしろ、問題となるの << 法律 そして、懲戒権の行使が客観的に合理的な理由が あるか否かについては、労働者の懲戒事由の程度・ 内容に照らして、その懲戒内容が相当なものである かを検討して判断されることになります。また、懲 戒解雇は、もっとも重い懲戒処分であることから、 懲戒解雇が認められるためには、「制裁」として、 労働者を企業外に排除しなければならないほどの重 大な義務違反、業務阻害や職場規律上の実害がある 場合にのみ行えるとされています。 普通解雇 対して、普通解雇については、民法627 条1項に 基づく雇用契約の解約であり、民法上は、いつでも 解雇を申し出ることができることになっています。 また、労働基準法上も普通解雇に関する明文の制限 規定は、一部の例外を除き存在していません。 しかし、労働者と使用者の力関係の差を鑑み、解 雇をするにあたっては、「客観的に合理的な理由を 欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、 その権利を濫用したものとして」当該解雇は無効と なると判示されています(最高裁判所第2小法廷昭 和50 年4月24 日判決)。そして、これを受け、労 働契約法16 条も、普通解雇に制限を加えています。 そのため、労働者を普通解雇する場合であっても、 その普通解雇に、客観的に合理的な理由があるか否 民法627 条1 項 「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事 者は、いつでも解約の申入れをすることができる。 この場合において、雇用は、解約の申入れの日から 二週間を経過することによって終了する。」 質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理 的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められ ない場合は、その権利を濫用したものとして、当該 懲戒は、無効とする。」 労働契約法16 条 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上 相当であると認められない場合は、その権利を濫用 したものとして、無効とする。」
82 リスク対策.com 2011/07 は、①解雇の根拠となる事実が存在しているのか、 及び②いかなる理由に基づいて解雇したのかという 点になります。 そして、労働者を解雇するに当たり、大切なこと は、上記①及び②を、適正な手続に基づいて明示し、 労働者の理解を得ることです。 即ち、労働者に対し、解雇を通知する際には、① 解雇の理由を書面にて作成し、かつ、②同書面を労 働者に明示して、解雇の理由があることを説明の上、 解雇するという手続をとる必要があります。なお、 かかる解雇理由を記載した書面は、その内容が詳細 であれば詳細であるほど、後の紛争が発生する確率 が低くなると考えられます。 仮に、労働者の能力不足を理由とする解雇をする のであれば、まず証拠として、人定考課として継続 的に評価が悪いことを記録に残す、指導の内容を書 面化する等々、能力不足の事実を継続的に記録化し ておかなければなりません。そのためには、法務部・ 人事部がバラバラに活動するのではなく、人事考課 と法的評価を一致させる必要があります。 そして、かかる証拠があれば、解雇を告げる際に も、労働者に対し、証拠に基づいて明確に解雇原因 及びその理由を告げることができ、結果としてその 後の紛争を避けることができます。 解雇に当たって、最も行ってはいけないことは、 突発的な解雇です。これでは、証拠上、能力不足な ど解雇の理由となる事実が出てこないことから、労 働者の理解も得られにくく、後に紛争が拡大するお それがあります。 第3 労働時間・休暇に関する法的問題点 また、解雇に次いで問題となることとしては、労 働時間及び休暇に関するものが挙げられます。 労働時間について 労働基準法において、労働者の労働時間について は、1日8時間、1週間40 時間以内と定められて います(労働基準法32 条)。 なお、この「労働時間」とは、始業時刻から終業 時刻までの拘束時間から休息時間を抜いた実労働時 間をいい、「労働者が使用者の指揮監督の下にある 時間」は、実労働時間に含まれると解されているこ とから、休憩中であっても電話対応等を義務づけら れている場合には、労働時間に含まれる可能性があ ります。 従業員に対し、かかる時間以上の労働を求める方 法としては、労働基準法33 条及び同法36 条項に基 づくものがあります。 労働基準法33 条1項は、災害等の避けることが できない事由によって、臨時の必要がある場合には、 事前又は事後に行政官庁に届け出ることによって、 労働基準法の定める労働時間を超える労働が認めら れると規定しています。 なお、行政官庁の許可が出るかの基準としては、 単なる業務の繁忙や通常予見される部分的な修理、 定期的な点検では許可をしないとされています。 労働基準法36 条は、労働組合等と書面による合 意がある場合には、労働時間を延長することができ 労働基準法32 条 1 項 「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間 について40 時間を超えて、労働させてはならない。」 2 項 「使用者は、1週間の各日については、労働者に、 休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働 させてはならない。」 労働基準法33 条1 項 「災害その他避けることのできない事由によつて、臨 時の必要がある場合においては、使用者は、行政官 庁の許可を受けて、その必要の限度において第32 条 から前条まで若しくは第40 条の労働時間を延長し、 又は第35 条の休日に労働させることができる。ただ し、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇が ない場合においては、事後に遅滞なく届け出なけれ ばならない。」
2011/07 リスク対策.com 83 << 法律 ると規定しています(いわゆる36 協定) しかしながら、この延長も無制限に認められるも のではなく、「労働基準法第36 条第1 項の協定で定 める労働時間の延長の限度等に関する基準を定める 告示」によって、期間の区分毎にその限度時間が定 められています。 休日・休暇について まず、労働基準法上、労働者には、毎週1日又は 4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなら ないと規定されています(労働基準法35 条1項、 2項)。 また、その他に、労働基準法上は、年次有給休暇 の制度が存在し、労働者の勤務期間に応じて、有給 休暇を取ることが認められています(労働基準法 39 条1項)。 そして、かかる有給休暇は、労働基準法39 条で 補償された労働者の権利であることから、会社は労 働者の要求する有給休暇の申請を拒むことはでき ず、時期を指定するようなこともできません。 もっとも、大部分の労働者が同時に有給休暇を申 請し、企業の業務が滞ってしまう事態を防ぐため、 労働基準法39 条4項において、一度に多くの労働 者が同時季に休暇を取り、代わりの人員の配置も困 難な場合などは、企業は、例外的に時季変更権を行 使し、一定の労働者に対し、有給休暇の取得を認め ないこともできると規定されています。 労働基準法36 条1 項 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織す る労働組合がある場合においてはその労働組合、労 働者の過半数で組織する労働組合がない場合におい ては労働者の過半数を代表する者との書面による協 定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、 第32 条から第32 条の5まで若しくは第40 条の労働 時間(以下この条において「労働時間」という。)又 は前条の休日(以下この項において「休日」という。) に関する規定にかかわらず、その協定で定めるとこ ろによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させ ることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働 省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延 長 は、1日について2時間を超えてはならない。」労働基準法39 条4 項 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織す る労働組合があるときはその労働組合、労働者の過 半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半 数を代表する者との書面による協定により、次に掲 げる事項を定めた場合において、第1号に掲げる労 働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位 として請求したときは、前3項の規定による有給休 暇の日数のうち第2号に掲げる日数については、こ れらの規定にかかわらず、当該協 定で定めるところ により時間を単位として有給休暇を与えることがで きる。 1.時間を単位として有給休暇を与えることができる こととされる労働者の範囲 2.時間を単位として与えることができることとされ る有給休暇の日数(5日以内に限る。) 3.その他厚生労働省令で定める事項 」 労働基準法35 条 1 項 「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1 回の休日を与えなければならない。」 2 項 「前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日 を与える使用者については適用しない。」 労働基準法39 条1 項 「使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継 続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対し て、継続し、又は分割した10 労働日の有給休暇を与 えなければならない。」 なお、時季変更権が認められるか否かは、「担当 する作業の内容性質、作業の繁閑、代行者の配置の 難易、有給休暇を申請するものの人数等諸般の事情
84 リスク対策.com 2011/07 を考慮して」決定されると判示されています。 第4 割増賃金に関する法的問題点 また、労働者との間において問題となることとし ては、いわゆる残業代等の割増賃金の支払いに関す るものがあります。 割増賃金について 上記労働時間・休暇に関する法的問題点に記載し たように、労働基準法上、労働時間は1日8時間、 1週間で40 時間と定められています。また、休日 についても、週1日は与えなければならないとされ ています。 労働者が、かかる法定労働時間を超え、又は、法 定休日にも労働をした場合においては、企業は労働 者に対し、いわゆる割増賃金を支払う必要がありま す。 その割増率としては、「通常の労働時間又は労働 日の賃金」に対し、深夜労働・時間外労働は1.25 倍、休日労働は1.35 倍、休日労働かつ時間外労働 は1.35 倍、深夜かつ時間外労働は1.5 倍、深夜かつ 休日労働は1.6 倍とされています(労働基準法施行 規則20 条)。 適用除外について 労働基準法に規定する労働時間、休憩及び休日に 関する規定は、①農業、畜産・水産業に従事する者、 ②「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地 位にある者又は機密の事務を取り扱う者」、③「監 視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官 庁の許可を受けた者」には適用されないと規定され ています(労働基準法41 条)。 労働基準法施行規則20 条 1 項 「法第33 条 又は法第36 条第1項 の規定によ つて延長した労働時間が午後10 時から午前5時(厚 生労働大臣が必要であると認める場合は、その定め る地域又は期間については午後11 時から午前6時) までの間に及ぶ場合においては、使用者はその時間 の労働については、第19 条第1項各号の金額にその 労働時間数を乗じた金額の5割以上(その時間の労 働のうち、1箇月について60 時間を超える労働時間 の延長に係るものについては、7割5分以上)の率 で計算した割増賃金を支払わなければならない。」 2 項 「法第33 条 又は法第36 条第1項 の規定によ る休日の労働時間が午後10 時から午前5時(厚生労 働大臣が必要であると認める場合は、その定める地 域又は期間については午後11 時から午前6 時)まで の間に及ぶ場合においては、使用者はその時間の労 労働基準法41 条 「この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、 休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当 する労働者については適用しない。 1.別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲 げる事業に従事する者 2.事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位 にある者又は機密の事務を取り扱う者 3.監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行 政官庁の許可を受けたもの」 働については、前条第1項各号の金額にその労働時 間数を乗じた金額の6割以上の率で計算した割増賃 金を支払わなければならない。」 従って、上記①から③の者については、時間外労 働・休日労働そのものが観念できない以上、割増賃 金は発生しないことになります。 この中でよく問題となるものとしては、いわゆる 「管理職」とされている労働者が、②「事業の種類 にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は 機密の事務を取り扱う者」(管理監督者)に該当す るか否かです。 この点、管理監督者において、労働時間等の制限 が適用されない理由としては、 ① 管理監督者は重要な職務と権限を付与されてお り、経営者と一体的な立場において、基準以上 の事業活動を要請されてもやむを得ないこと
2011/07 リスク対策.com 85 中央大学法学部法律学科卒、2011年4月より「きた 法律事務所」を開設。現在、社団法人日本工業技術振 興協会会員、成蹊大学法科大学院非常勤講師。主な業 務は、法的観点からの災害対策、中小企業の企業法務 (特に労使関係)、下請法・派遣法、一般民事、刑事。 主な出版物に、共著「証拠収集実務マニュアル 改訂版」 (東京弁護士会法友全期会 民事訴訟実務研究会編集)、 共著「民事弁護ガイドブック」(東京弁護士会法友全 期会 民事弁護研究会編集)がある。 弁護士 北 周士(きた・かねひと) ② 資金等の待遇において優遇措置がとられてお り、労働時間の制限がなくとも、当該労働者の 保護に欠けるものではないこと が理由とされています(東京地方裁判所平成20 年 1月28 日、日本マクドナルド事件)。なお、管理監 督者に該当するか否かは、名称にとらわれず、実態 に即して判断されるものとされています。 そして、管理監督者に当たるかの判断要素として は、 ① 職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理も 含めて、企業全体の事業経営に関する事項にど のように関与しているか、 ② 職務内容、権限及び責任に照らし、実際の勤務 態様が労働時間等に対する規制になじまない ものであるか否か。 ③ 給与及び一時金において、職務内容、権限及び 責任に見合った待遇がされているか ④ 事業運営に関する企画立案等の担当者の場合 は、職位が指揮監督系統に直属する者の管理監 督者より同格以上か、企画立案等の対象が経営 上の重要事項におよんでいるか といった事情を、を総合考慮して判断するとされ ています。なお、この判断はかなり厳格になされて おり、管理監督者性は容易には認められません。 第5 まとめ 上記のように、労働者との間においては、種々の 法律関係が問題となり得ますが、かかる法律問題が 発生する最大の原因としては、労働者と企業との信 頼関係の破壊にあります。 従って、仮に、労働者に対し、何らかの処分をす る必要がある場合であっても、あらかじめ処分の根 拠となる就業規則等を周知徹底させ、その上で、適 正な手続に基づいて処分を行うことが行うことが、 その後の紛争を避ける上では重要となります。 次回は、労働者との関係において、近年問題とな ることが多くなった派遣労働者の問題及びセクハ ラ・パワハラ等、労働者のメンタルに関する問題に ついて、検討したいと思います。 << 法律 解雇通知
86 リスク対策.com 2011/07 1. はじめに? 「証拠の王」を獲得するためのヒアリング 今回は社内調査の重要ツールであるヒアリングが テーマである。ヒアリングに関しては検討すべき事 項も多く、1回ではなく、2 回に分けて解説するこ ととし、今回は、ヒアリングをめぐる一般的・総論 的な事項を解説し、次回において、個別のヒアリン グ・テクニックに言及することとする。 言うまでもなく、社内調査が成功するか否かは、 どれだけ関連情報を入手できるかにかかっており、 「情報」こそが社内調査の生命線である。こうした 情報は、客観的な証拠資料、例えば、電子メール、 PC 分析、社内文書、ビジネス手帳などの証拠資料 によって大量に入手することができるが、最後はこ れらの証拠資料について関係者に「説明」してもら わなければ真相を解明することはできない。また、 企業不祥事は、社内で敢行されることが多いので、 上司、同僚、部下など社内の人間が関連情報を見聞 きしていることが多く、嫌疑者特定に結びつく重要 な情報を知っていることがある。こうした客観的資 料の説明や関係者が見聞きした情報を求める手続こ そがヒアリングなのである。 そして、ヒアリングを行うにあたって、法律家で あれば、ヒアリング対象者の人権を侵害するような 乱暴・不適切なヒアリングをしないということが一 番重要であるが、日常的に不祥事調査に従事してい る企業の法務担当者にとっては、最終的に、嫌疑を 受けている者の「自白」を獲得することが最大の関 心事であると思う。 企業の法務担当者を取り巻く現実的な関心として は、実際に内部通報などによって様々な不祥事情報 が会社にもたらされた場合に、多くの証拠資料から 嫌疑者を特定し、最後にはその者の自白を得て適正 な懲戒処分を科し、ガバナンスを回復するというこ とである。 もし自白が得られない場合には、嫌疑者の犯人性 を示している証拠資料(関係者供述を含む)の信用 性自体に疑いが生じ、嫌疑者に懲戒処分を科すこと もできず、ガバナンスを回復できずに社内調査が失 敗に帰してしまう。仮に、客観的な証拠資料によっ て、否認している嫌疑対象者の懲戒処分をなし得た としても、嫌疑対象者の自白がなければ、犯行手口 や犯行動機は未解明のままとなってしまい、再発防 止策を確立できない。 その意味で、刑事手続において、「自白は証拠の 王」と言われるが、社内調査においては、刑事手続 以上に、嫌疑対象者の自白は「証拠の王」なのであ る。そうした証拠の王たる自白を獲得するための各 種ヒアリングのノウハウについて紹介したい。 2. ヒアリングの目的と性格 ヒアリングの目的は、発生した企業不祥事の行為 シリーズ あなたの組織の内部通報制度は機能するか? 弁護士 中村 勉 社内調査における ヒアリング手法(1) 第3 回
2011/07 リスク対策.com 87 << 法律 3. ヒアリング調査に関する3つの原則 (1) 通報者保護の原則 ヒアリングに際しては、通報者保護が重要である。 内部通報を端緒に社内調査が始まる場合、社内で「告 発者探し」が始まることを回避しなければならない。 告発者探しによって、内部通報者がいわば「村八分」 になれば、内部通報をする者はいなくなる。内部通 報制度が企業不祥事を発見する非常に有効なシステ ムであるにも拘わらず、ヒアリングのやり方がまず ければ、通報者保護が図れなくなり、内部通報シス テム自体、機能しなくなってしまう。こうした事態 を避けなければならない。 そこで、ヒアリングを実施する際には、関係者に 対するヒアリングにあっても、嫌疑対象者に対する ヒアリングにあっても、通報者の氏名等を秘匿する ことが肝要である。 (2) 密行調査の原則 ヒアリング調査が、社内の誰もが気づくような形 で表立って実施された場合、噂はあっという間に社 内に広がり、調査対象者は誰か、共犯者がいるかな ど、疑心暗鬼や相互不信が生じ、関係者の協力を得 られなくなる。そればかりか、調査を察知した不祥 事行為者による証拠破壊も懸念される。強制手段が 可能な捜査機関による捜査とは異なり、あくまでも 関係者の積極的な協力の下に行われる社内調査にあ っては、社内調査の遂行を困難にするような事態は 避けなければならず、ヒアリングを密行的に進める ことが重要である。 そのために、例えば、「仮装調査」や「ダミー調査」 といったテクニックも有効である。「仮装調査」とは、 例えば、特定の業務上横領の社内調査であることを 秘匿して、定期的な監査のためのヒアリングを装う といった手法であり、「ダミー調査」とは、不祥事 が発生した部署のみを調査対象にすると当該部署に 注目が集まり、不祥事行為者が察知して証拠破壊行 為に出ることがあることから、ダミーとして、全く 無関係な部署も調査対象に加える手法をいう。この ような手法を通じて、ヒアリングの密行性を確保し ていくことが重要である。 者を特定し、全容を解明した上で、行為者に適正な 懲戒処分を科し、ガバナンスを回復するとともに、 再発防止に必要な情報を得ることにある。全容解明 のためにも、適正な懲戒処分権の行使のためにも、 そして、効果的な再発防止策の策定のためにも、行 為者の自白獲得は重要である。そのことから、ヒア リングにあっては、自白獲得に向けた精巧な調査手 順の組立てが求められ、綿密な準備が必要となる。 人から話を聴くという活動には様々なものがあ る。その中で、ヒアリングは、例えば、アンケート 調査における質問とは全く異なった性格を有する。 アンケート調査にあっては、あらかじめ用意した 一定の質問について多数の対象者から回答を得るこ とができ、回答を定量化できることから意見集約に 有用であるが、真相解明には無力である。アンケー ト調査では、質問を自由に変えることができず、質 問対象者の回答に柔軟に対応できないからである。 ヒアリングはこれを可能とする。 しかし、ヒアリングは、同じく回答に柔軟に対応 できるインタビューとも性格を異にする。インタビ ューにあっては、元々話し手が色々なことを話した いという前提があり、対象者がインタビュー事項に 興味・関心を抱いている場合にのみ成り立つが、あ まり話したくはない対象者に対し、話したくない事 項を確認するのがヒアリングである。話したくない ことをいかに話させるかがヒアリングを実施する際 に最も苦労する点である。 さらに、捜査機関による「取調べ」は、社内調査 おけるヒアリングと真相究明という点で目的は同じ であるが、国家機関が一般市民に対して実施する取 調べと、社員が同じ社員に対して実施するヒアリン グとは実施環境に自ずと違いがある。捜査機関によ る取調べは、「逮捕・勾留」という身柄拘束下で実 施できるが、社内調査にあって、例えば会社やホテ ルに缶詰め状態で対象者をヒアリングすることは許 されない。ある意味では、社内調査におけるヒアリ ングは、逮捕・勾留といった強制手段を用い得ない 点で、捜査機関の取調べよりも高度のテクニックを 要するとも言える。
88 リスク対策.com 2011/07 る中で、さらに不祥事に関連した証拠資料の存在が 明らかになることがあるので、そのような証拠資料 の収集も並行的に進めていき、最後に、それまでの 社内調査の集大成としての成果の全てを不正嫌疑者 ヒアリングにぶつけることになる。 ここで、ヒアリングにはいくつかの種類があるこ とに気づく。内部通報者に対するヒアリング、関係 者に対するヒアリング、そして、嫌疑対象者に対す るヒアリングの3 つのヒアリングである。 それぞれのヒアリングにあっては、その目的も手 法も異なることに注意が必要である。即ち、内部通 報者に対するヒアリングで重要なことは、通報事実 の信憑性であり、不正が疑われる具体的事実が果た して本当に存在するのか、それとも通報者の職務に 対する単なる抽象的な不満に過ぎないのではない か、あるいは、人間関係に関する誹謗中傷に過ぎな いのではないかを見極めることである。それゆえ、 内部通報者に対するヒアリングでは、申告動機の聴 取が重要である。次に、関係者に対するヒアリング にあっては、不祥事に関連した情報をできるだけ多 く収集することが必要であり、後に実施される嫌疑 対象者に対するヒアリングに際して対象者を追及す るために有益な情報の収集が要となる。そして、最 後に、嫌疑対象者に対するヒアリングにあっては、 嫌疑対象者が自白する場合にはその裏付けとなる事 実の聴取や関係者供述との整合性に関する事実確認 が重要となり、嫌疑対象者が否認する場合には、そ うした否認が客観的証拠や関係者供述といかに乖離 し、矛盾するかを際立たせるようなヒアリングを実 施する必要がある。それによって、嫌疑対象者が最 後に自白に転じることがあるからである。 次回には、この3 つのヒアリングの具体的な手法 やテクニックなどについて詳述したい。 (3) 集中調査の原則 社内調査の手法には、電子メール調査、PC 解析、 業務文書の提出と検討など様々な手法があるが、こ うした手法にあっては、関係者に気づかれることな く、秘密秘密裡に実施することが可能である。それ ゆえ、こうした調査にあっては短期間に集中的に実 施するという必要性は相対的に低い。しかし、関係 者に対するヒアリングを実施すれば、「悪事千里を 走る」が如くあっという間に不祥事情報は社内に広 まるので、口裏合わせや証拠破壊のリスクが高まり、 同時に、関係者の調査協力が得難くなる。 そこで、社内調査が客観的証拠の収集からヒアリ ング段階に移行したときには、集中的に実施するこ とが肝要である。今日は1人、明日は2 人というよ うに五月雨式に実施するのではなく、例えば10 人 の関係者を1 日で一斉に聴取するのである。1日 で実施するのがスケジュールの上で困難であっても 2、3日間という短期間のうちに集中的に実施する 必要がある。 4.ヒアリング実施のタイミングとヒアリングの種 類 社内調査は、一定のプロセスに従って計画的に進 めて行くものである。内部通報が端緒となる場合に は、まず、通報者の訴えにかかる具体的事実が、果 たして不祥事と言えるか否かを検討しなければなら ない。不正の懸念が存在するか、事件性があるかと いう確認である。そこで、社内調査で最初に行うべ き活動は、内部通報者に対するヒアリングになる。 次に、内部通報者に対するヒアリングにおいて、 不正の懸念が現実のものであり、事件性があると判 断された場合、そうした不正を社内の懲戒処分規定 に当てはめて、いかなる懲戒事由に該当するかを検 討し、調査対象事項を特定して列挙していく。その 上で、業務文書の収集、電子メールのモニタリング 等の客観的証拠の収集へと社内調査は進んでいく。 こうして広汎に不祥事関連情報を収集した後で、よ うやく関係者に対するヒアリングを集中的に実施す ることになる。関係者に対するヒアリングを実施す << 法律 1994年から8年間、検事として勤務。東京地検特捜部にも所属し、数々の事件を手 掛けた。その後、あさひ・狛法律事務所(現、西村あさひ法律事務所)国際部門に入所、 フルブライト留学生としてコロンビア大学ロースクールへの留学などを経て、2009 年9月に中村国際刑事法律事務所を設立。東京地検特捜部検事時代は,多くの企業不 祥事事件の捜査に携わり、弁護士登録をしてからも、社内調査委員会の委員を務める などして、不祥事に関わる企業法務の経験を積む。テレビ「目ざましテレビ」、「ミヤ ネ屋」などでコメンテーターとしても活躍中。 弁護士 中村 勉 (なかむら・つとむ)
2011/07 リスク対策.com 89 << BCP・BCM 今回は、東日本大震災で自動車の生産ラインの停 止を招き、注目されたサプライチェーン(SC)に ついて説明します。 図表1は、サプライチェーン(SC)の基本図です。 モノとカネの流れは既にご承知と思いますが、情報 の流れが大変重要です。この情報の流れが中断する と、需給バランスを把握できなくなり、供給不足や 供給過剰が発生します。消費者が原料メーカーや材 料・部品メーカーの動向に着目することは一般的に ありませんが、原料メーカーや材料・部材メーカー は消費者の動向に着目しています。 サプライチェーン関係で災害時に一番早く影響 が現れるのが情報の乱れです。これは、国内の場合 でも、海外を含めても同じです。東日本大震災では、 食糧・生活必需品などの支援物資の不足が指摘され ましたが、この背景には物流システムの中断とSC 情報の中断がありました。 これを改善するには図表2のようにSC 情報をス マートグリッド方式に変える必要があります。これ ですと1 カ所の情報中断を他の情報である程度、補 完することが可能になります。競争が激しい商品で は販売情報、生産情報は秘密扱いですから実現は難 しいと思いますが、公共性の高い道路情報、鉄道運 行情報などはある程度スマートグリッド化が導入さ れています。この考え方は、政府、都道府県、市町 村の被災情報の運営と管理にも適用可能です。 それから、図表1と2では、原料メーカー、材料 メーカー、部品メーカー、完成品メーカー、販売店 が1つで表されていますが、実際はそれぞれ複数あ りSC は複雑ですので、SC 情報のスマートグリッ ド化の効果は大きいと思います。 1. サプライチェーンの構造 サプライチェーンのレジリエンス評価 レジリエンス協議会 副会長 黄野吉博 連載 BCP 見直しの必須項目と解決策 第4 回 図表1 サプライチェーンの構造 図表2 SC 情報のスマートグリッド化 原料メーカー 材料メーカー 部品メーカー 自社 完成品メーカー 販売店 消費者 上段の曲線:情報の流れ :モノの流れ :カネの流れ 原料メーカー 材料メーカー 部品メーカー 自社 完成品メーカー 販売店 消費者
90 リスク対策.com 2011/07 2. サプライチェーンの途絶事例 東日本大震災では半導体チップの生産中断とそれ による自動車生産の縮小が注目を浴びていますが、 実は図表3にある通り、半導体産業も自動車産業も 1995 年の阪神・淡路大震災以降、何度かSC 中断に 見まわれています。被災する度に関係者は問題点を 洗い出し、その対策を講じていましたが、今回の大 震災はこれまでの被災経験を大幅に超える多数企業 が同時に操業中断に見舞われており、道路網、電力 網の中断がさらに拍車をかけることになりました。 SC のレジリエンス評価は、2つの要素がありま す。1つは自社から一次サプライヤおよび二次サプ ライヤのレジリエンスをチェックすることですが、 現実的には二次サプライヤのチェックは直接せず に、一次サプライヤに二次サプライヤのチェックを 委託することになります。 もう1つは、自社から顧客のレジリエンスを評価 することです。素材メーカーのようにサプライヤ側 が巨大な場合は、顧客企業の協力を得られ易いです が、一般的には「顧客に失礼になる」との配慮から チェックは簡単ではありません。ただし、このチェ ックをしないことは、顧客の災害・事故・事件のリ スクを自社が抱えることになりますから、顧客が被 災した場合は自社の業務も中断し最悪の場合は倒産 にいたる可能性があることを認識する必要がありま す。 図表4はSC のレジリエンス評価項目です。図表 中C1(顧客・サプライヤの地域のレジリエンス) とC2(顧客・サプライヤのインフラのレジリエンス) の評価は、前々号(3 月号)に掲載した地域のレジ リエンス評価と、前号(5 月号)で解説したインフ ラのレジリエンス評価を流用します。 BCM(事業継続マネジメント)を日本で広めた 契機の1 つに、2001 年9 月11 日の米国同時多発テ ロの翌年(2002 年)春から海外の企業が日本のサ プライヤにBCM の導入を求めたことを掲げること ができます。 図表5は、2004 年当時の米国企業が日本のサプ ライヤに求めたBCM 項目を基本に2010 年におけ る国内外の企業がサプライヤに求めている項目を含 め調整したものです。これ以外にサプライヤに確認 したい項目がある場合は、その項目を追加して下さ い。 3. サプライチェーンのレジリエンス評価 3.1 サプライヤのレジリエンス 1995 年 1 月17 日阪神・淡路大震災による自動車部品工場および 半導体用材料工場の被災 1997 年 2 月 1 日自動車部品工場(愛知県)の火災による 自動車製造の中断 1999 年 9 月21 日台湾集集地震による 半導体工場(台湾・新竹市)の被災 2000 年 3 月17 日米国アルバカーキーの半導体工場の火災による 携帯電話製造の中断 2000 年 6 月10 日半導体用材料工場(群馬県)の爆発火災 2002 年 9 月27 日 -10 月8 日 米国西海岸の港湾労働紛争による 米国自動車工場での部品不足 2003 年 9 月 8 日タイヤ工場(栃木県)の火災 2004 年10 月23 日新潟県中越地震による 半導体工場の被災 2007 年 7 月16 日新潟県中越沖地震による 自動車部品工場の被災 2011 年 3 月11 日東日本大震災による 自動車部品工場および半導体工場の被災 図表3 自動車・半導体関係のサプライチェーン途絶例 図表4 SC のレジリエンス評価 評価項目A 工場地域 C1. 顧客・サプライヤの地域のレジリエンス C2. 顧客・サプライヤのインフラのレジリエンス C3. サプライヤのレジリエンス C4. 顧客のレジリエンス C5. 自社のSC 対策 SC のレジリエンスポイント
2011/07 リスク対策.com 91 * 単一源部材については「4.3 自社のSC 対策」の解説を参照して下さい。 【評価ポイント、参考例】 ポイント 8: 十分条件を満たしている ポイント 4: 概ね条件を満たしている ポイント 2: ある程度条件を満たしている ポイント 0: 全く条件を満たしていない 項 目 1. 妥当な経営資源の一覧表が装備されている 2. 経営資源の一覧表には敷地と建物の評価項目が含まれている 3. 経営資源の一覧表には、知財、ノウハウ、ブランドイメージ、経営意欲、勤労意欲の評価項目が含まれている 4. 経営資源の一覧表には、人材の評価項目(知識、経験、資格など)が含まれている 5. 経営資源の一覧表には、有形財(設備、材料、部品、仕掛品)の在庫一覧表が含まれている 6. 経営資源の一覧表には全ての有形財の認定基準が明記されている 7. 経営資源の一覧表には全ての有形財の発注から納品までの期間(リードタイム)が明記されている 8. 経営資源の一覧表には、単一源材料一覧表が含まれている 9. 単一源材料一覧表には代替材料と代替材料の認定基準が明記されている 10. 単一源材料一覧表には代替材料と代替材料のリードタイムが明記されている 11. 毎年一回以上代替材料を実際に活用し、評価している 12. 経営資源の一覧表には、代替装置値がない特殊な装置の一覧表が明記されている 13. 各特殊な装置の運転マニュアルが整備され、毎年更新されている 14. 各特殊な装置の保守マニュアルが整備され、毎年更新されている 15. 各特殊な装置の部品マニュアルが整備され、毎年更新されている 16. 各特殊な装置の運転と保守の担当者、次席担当者、三席担当者が明確になっており、毎年教育と訓練を受けている 17. 経営資源一覧表にはデータの保管順位、保管期間、保管場所、保管責任者、代替保管責任者が明記されている 18. 経営資源一覧表にはバックアップデータの保管順位、保管期間、保管責任者、代替保管責任者が明記されている 19. データの保管場所とバックアップデータの保管場所は同じ災害で被災しない程度に離れている 20. 経営資源の一覧表には、情報処理量が1/2、1/4 になった場合の対策と対策責任者、次席責任者が明記され、毎年教育と訓練を受けている 21. 経営資源の一覧表には、情報処理量が2 倍、4 倍、10 倍になった場合の対策と対策責任者、次席責任者が明記され、毎年教育と訓練を受けている 22. 妥当なリスクアセスメント一覧表がある 23. リスクアセスメント一覧表には、地震対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 24. リスクアセスメント一覧表には、新型感染症対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 25. リスクアセスメント一覧表には、IT 事故・事件の対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 26. リスクアセスメント一覧表には、防犯対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 27. リスクアセスメント一覧表には、防火対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 28. リスクアセスメント一覧表には、水害対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 29. リスクアセスメント一覧表には、インフラの中断対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 30. リスクアセスメント一覧表には、サプライチェーンの中断対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 31. リスクアセスメント一覧表には、ブランド損傷対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 32. A 工場地域 リスクアセスメント一覧表には、複合リスクの顕在化(地震と水害、火災とインフラ中断、IT 事故・事件と水害など)の対策と 中断対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 33. リスクアセスメント一覧表には、サプライチェーンの中断対策と対策の責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 34. 妥当な緊急時のファイナンスがある 35. 緊急時ファイナンスの想定期間は2 週間以上である 36. 緊急時ファイナンスには処理金額の範囲と処理責任者、次席責任者、三席責任者が明記され、毎年教育・訓練を受けている 37. 緊急時ファイナンスには従業員・関係者への支援金がある 38. 緊急時ファイナンスには従業員・関係者への交通費、宿泊費がある 39. 緊急時ファイナンスには部材の購入資金がある 40. 緊急時ファイナンスには重機の賃料がある 41. 緊急時ファイナンスにはIT 部材の購入資金がある 42. BCP にはインフラ対策は含まれている 合計ポイント (プラス評価) 図表5 サプライヤのレジリエンス << BCP・BCM
92 リスク対策.com 2011/07 日本では各種の配慮が働き、顧客をチェックする ことは難しいと思いますが、自社の連鎖倒産を防ぐ ためにもチェックは必要です。図表6はそのサンプ ルです。サプライヤのレジリンス評価に比べ項目を 少なくしてありますが、活用の際は与信情報など必 要な項目を追加して下さい。 項目への追加案としては「顧客のビジネスが特定 の商品や取引先に過度に依存していない」、「顧客が 特定のサプライヤに依存していない」、「顧客の財務 基盤が安定している」などがあります。 自社のSC 対策とは、自社が使っている単一源部 品・材料・装置・サービスへの対策のことです。 単一源部品材料には2 種類あります。1つは東日 本大震災で注目された車載用半導体チップのように 国際市場を見ても代替品がないものです。この場合 は、サプライヤを選べません。この種の事例は、半 導体や航空機産業などのハイテク関係の部品・材料・ 装置・サービスに数多くあります。この場合一番良 いのは、そのサプライヤが距離の離れた別拠点で同 一のものを生産する、または緊急時には別拠点で生 産可能なことです。また、開発・設計段階で、でき るだけ特注部品を使わずに汎用品を採用する工夫も 有効です。 次が、当該部品材料の在庫の積み増しです。そし て将来的には代替品または代替サプライヤにある部 品材料を使う製品(商品)への設計変更を考えます。 「在庫量の増加」は、「保管場所の増加」、「保管費用 の増加」など、コスト増に繋がりますが、国際市場 3.3 自社のSC 対策 3.2 顧客のレジリエンス 評価項目A 工場地域 1. 2. 顧客が特定のサプライヤに依存していない 3. 顧客は妥当な経営資源の一覧表を作成している 4. 顧客は妥当なリスクアセスメントを作成している 5. 顧客は妥当な緊急時ファイナンス計画書を作成している 6. 顧客は妥当なIT 対策書を作成している 7. 顧客は妥当なリスクコミュケーション計画書を作成している 8. 顧客は妥当な継続計画書(代替計画書)を作成している 9. 10. 顧客の財務基盤が安定している 11. 1 ヶ月間程度の事業継続(代替)対策を持っている 12. 1 ヶ月間程度の事業中断対策を持っている 13. 3 ヶ月間程度の事業継続(代替)対策を持っている 14. 3 ヶ月間程度の事業中断対策を持っている 従業員・関係者への災害・事故・事件に対する 教育、研修プログラムは充実している 顧客のビジネスが特定の商品や取引先に過度に 依存していない 合計ポイント (プラス評価) 【評価ポイント、参考例】 ポイント 8 : 十分条件を満たしている ポイント 4 : 概ね条件を満たしている ポイント 2 : ある程度条件を満たしている ポイント 0 : 全く条件を満たしていない 評価項目 合計ポイント (プラス評価) A 工場地域 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 【評価ポイント、参考例】 ポイント 8 : 十分条件を満たしている ポイント 4 : 概ね条件を満たしている ポイント 2 : ある程度条件を満たしている ポイント 0 : 全く条件を満たしていない 外部から調達する全ての経営資源について要件、仕様、 認定手順が整備され、定期的に更新されている 外部から調達する全ての経営資源について、代替品が明 記されている サプライヤごとの全ての部品材料表(BOM: Bill of Materials)を明確にしてある 単一源部品材料を明記している 納品までのリードタイムが長い部品材料を明記している 単一源部品材料の必要性を認定する手順が整備され、検 証されている 単一源部品材料とそのサプライヤのリストが整備され、 検証されている 単一源部品材料の供給履歴や需要予測が利用可能 単一源部品材料のサプライヤの供給能力が調査され、検 証されている 単一源部品材料のサプライヤの長期および短期的な供給 能力について増減の柔軟性が調査され、検証されている 単一源部品材料のサプライヤは在庫保管場所を複数維持 している 代替サプライヤについての認定方法、認定時間が明確になっ ており、代替サプライヤの認定が継続的に行なわれている 新製品開発時に、必要とする材料・部品・装置・工具・サー ビスなどの安定供給についてサプライヤ及びサプライヤ候 補の能力評価をするための手順と文書が整備されている サプライヤの安定供給能力を評価するよう、全社的に技 術者や製品開発者に指示が出されている 購買や設計の発注以前に、事業継続性に関する要求事項が、材料・部品・ 装置・工具・サービスなどのサプライヤに通知され、確認されている 代替品及び代替サプライヤについての認定方法、認定時間が明確になっ ており、代替品及び代替サプライヤの認定が継続的に行なわれている サプライヤに災害・事故や禁輸・労働争議等が発生した場合も、 必要な資源の納品に滞りが出ないような計画を策定している 潜在的な材料の安定供給の問題点と解決策または代替案 を明確にするための体系的な手法が整っている 図表6 顧客のレジリエンス 図表7 自社のSC 対策
2011/07 リスク対策.com 93 業務を再開する事例もあります。例えば、業務を中 断している問屋をパスして生産者が直接店舗に納品 する事例や生産者が今まで実施していなかったイン ターネット販売を実施する事例です。 前号(5月号)で説明しました「企業から見たレ ジリエンスの構造図」を図表1に変更することにな りましたので、そのお知らせを致します。 図表1 と変更前の図表との違いは、横軸がなくな ったことと、構造が変型積み重ねから、単純な積み 重ねになったことです。なお、図表2「企業の総合 的レジリエンス」には変更はありません。 5.その他 執筆協力者 (敬称略、五十音順) 新藤 淳/ NKSJ リスクマネジメント株式会社 関山雄介/大成建設株式会社 田代邦幸/株式会社インターリスク総研 田中和明/有限会社藍流経営研究所 永橋洋典/ AIU 保険会社 深谷純子/深谷レジリエンス研究所 槇本純夫/ NKSJ リスクマネジメント株式会社 増田幸宏/国立大学法人豊橋技術科学大学大学院 三島和子/セコム株式会社IS 研究所 山中一克/株式会社竹中工務店 評価項目ポイント A. 地域のレジリエンス B. インフラのレジリエンス C. SC のレジリエンス D. 自社のレジリエンス 総合ポイント 自 社 高 さ サプライチェーン(SC) インフラストラクチャー 地域の自然環境・用途・防災力など 図表1 企業から見たレジリエンス 図表2 企業の総合的レジリエンス を見ても代替品がない場合に、企業のレジリエンシ ーを上げるためにはこれ以外の方法が見つかってい ません。 今1つは、国際市場・国内市場に代替品や競争品 があるが、自社の都合で単一のサプライヤから部品・ 材料・装置・サービスを調達している場合です。こ こでの説明は、後者の場合です。対策の基本は複数 のサプライヤの確保ですが、既に単一源部品材料を 活用している場合は、図表7(前ページ)の項目を 評価することになります。 サプライチェーンのレジリエンス評価には含め ていませんが、被災した顧客・サプライヤに対する 支援のレベルを決める必要があります。これは冷静 に判断できる平時に決めた方が良いですが、多くは 被災後に決めているようです。以下は支援の内容と レベルの参考例で、この組合せから選びます。 【支援の内容】 * 資金 * 物資 * 労働力 * 情報 * 自社の設備・施設 【支援のレベル】 * 自社の業務を全て停止して支援する * 自社の業務を半分程度停止して支援する * 自社の業務に支障がない範囲で支援する * 支援内容のごく一部を実施する * 何もしない また、被災時に顧客企業やサプライヤで代替生産 や代替販売をする場合があります。この代替契約は 平時に締結しておく方が良いですが、東日本大震災 での事例は被災後に締結しています。 同震災では、サプライチェーンの一部をパスして 4.災害時のサプライチェーン << BCP・BCM
94 リスク対策.com 2011/07 ニュートン・コンサルティング株式会社勝俣良介 副社長 BCMS の中身に迫る(その2) 事業継続マネジメントの国際規格案を読み解く第3 回 ■ BCMS を理解する鍵に迫る(続) 3 月から始まりました「ISO22301 の国際規格案 を読み解く」シリーズ3回目となる今回は、前回に 続きBCMS(事業継続マネジメントシステム)の 中身に迫っていきます。 1回目の記事では、規格全体の構成や他の規格・ ガイドラインとのおおまかな違いを、2回目の前回 は、規格要求事項8 章「運用」の前半部分(8.1 ~ 8.4:下図参照)について解説を行いました。そし て3回目となる本稿では、この続き(8.5 以降)に スポットライトを当てていきますが、読者のみなさ んは前回からなぜ、いきなり8 章「運用」の規格要 求事項の解説が始まったのか、いや、そもそも8 章 「運用」がどんな章であったかを覚えていらっしゃ いますか? 改めて復習をしておきますと8 章は、BCMS の 特徴を最も表している章です。企業が事業を中断さ せるような事態に遭遇しても、経営陣が望むレベ ルで事業を継続できるようにすることを狙いとし て「事業継続方針を策定し、これを満たすための行 動計画、すなわちBCP(事業継続計画)を策定し、 これを検証し、見直しを行う」…こうした一連の活 動の在り方について規定した章です。なお、現行の BCMS 適合性評価制度(BCMS の第三者認証制度) の認証基準として使用されているBS25999-2 では、 この一連の活動のことをBCM プログラムマネジメ ントと呼んでいます。 規格全体の構成を大きな1 つのPDCA サイクル に見立てたとすれば、これら8 章で規定される活動 は、継続的な改善サイクル…いわばミニPDCA と 言い表すことができ、前回の記事では、このうちの P(PLAN’)にあたる8.1「一般」から8.4「事業 継続の選択肢」までを解説しました(8.1 ~ 8.4 は、 方針の決定、分析の実施、対策の決定について規定 1. 適用 2. 引用規格 3. 用語及び定義 4. 一般要求事項 5. リーダーシップ 6. 計画 7. サポート 8. 運用 9. パフォーマンス評価 10. 改善 8. 運用 8.1 一般 8.5 遂行 8.2 運用計画とコントロール 8.5.1 事業継続対応の開発と導入 8.3 準備 8.5.2 対応体制 8.4 計画 8.5.3 警告とコミュニケーション 8.4.1 経営陣のコミットメント 8.5.4 対応 8.4.2 方針の策定 8.5.5 事業継続計画 8.4.3 事業インパクト分析とリスクアセスメント 8.5.6 対応手順に関する要求 8.4.3.1 一般 8.5.7 対応手順の中身 8.4.3.2 法的およびその他の要件 8.5.8 復旧 8.4.3.3 事業インパクト分析 8.5.9 コミュニケーションと相談 8.4.3.4 リスクアセスメント 8.6 チェック 8.4.4 事業継続の選択肢 8.6.1 エクササイズとテスト 8.4.4.1 決定と選択 8.6.2 パフォーマンスモニタリング 8.4.4.2 必要となる経営資源の確立 8.7 レビュー 8.4.4.3 保護と低減 8.7.1 マネジメントレビュー 8.7.2 継続手順の評価 ISO/DIS22301 の目次構成ISO/DIS22301 - 8 章「運用」の目次構成と今回開設する範囲
2011/07 リスク対策.com 95 被災直後にまず求められる活動が「インシデン ト対応」と呼ばれるものです。ここには、主として インシデントの発見や通報をはじめ、人命保護、二 次災害防止、コミュニケーション、事業継続計画の 発動や解除といった活動が含まれます。これに同時 並行または続く活動として「事業継続計画」があり ます。文字通り、中断した重要業務を暫定的な代替 手段を使って継続させるための活動がここに含まれ ます。最後が「復旧計画」と呼ばれるものです。こ の段階では、暫定的にとった業務継続措置を通常の 状態に戻すための活動が主になります。 ちなみに、「対応の段階」を表す言葉は、規 格・ガイドラインによって異なり、たとえば、 BS25999 では、順に「インシデント対応(Incident Response)」「事業継続計画(BCP)」「復旧 (Recovery)」と呼んでいます。また、米国規格 であるNFPA1600 では、「緊急時オペレーション /対応計画(Emergency Operations / Response Plan)」「継続計画(Continuity Plan)」「復旧 (Recovery)」と呼んでいます。 本稿では、この3 つの「対応の段階」に習って、 以下の順に話を進めていきたいと思います。 1. 行動計画全般に関わる要求事項(8.5.1, 8.5.3, 8.5.9) 2. 「インシデント対応」に関わる要求事項(8.5.2, 8.5.4, 8.5.6, 8.5.7) 3.「 事業継続計画」に関わる要求事項(8.5.5) 4.「 復旧計画」に関わる要求事項(8.5.8) ※括弧内は、関連するISO/DIS22301 の規格項番です < 1. 行動計画全般に関わる要求事項> 「対応の段階」全てに求められる共通の要求事項 が、8.5.1 に規定されています。具体的には、策定 する文書(行動計画書)は、以下の項目を満たすも のでなければならないと述べています。 ・ 社内外における適切なコミュニケーションを確 立するものであること ・ インシデント発生直後に即座にとる必要のあるア << BCP・BCM しています)。そして今回は、D(DO’)にあたる 8.5「遂行」について解説をしたいと思います。 ■ 8 章DO’(8.5)を読み解く さて本題ですが、この項番はどのように読み解け ばいいのでしょうか? ISO/DIS22301 はドラフト であるためか、特に今回の8.5「遂行」に関しては 冗長的な表現が多く見受けられます、これが理解を 困難にしています。 8.5「遂行」は、一言で言えば「対策の文書化 と必要な取り組みの実施」を規定した項番です。 BS25999-2 では4.3「BCM 対応の開発及び導入」が、 これにほぼ該当します。すなわち、前節(8.4)ま での活動で得られた分析結果(優先復旧すべき業務、 優先復旧すべき経営資源、これら業務や経営資源の 目標復旧時間、目標を満たすためにとるべき対策な ど)に基づき、その対策を遂行する要員が読める形 (文書)に落とし込み、(必要に応じて)資機材の調 達やプロセスの見直しを行うことを求めているのが 8.5 になります。 そしてこの8.5 を読み解くヒントは、企業が被災 し重要な業務が中断してしまった際に復旧に向けて とらなければならない「対応の段階」をしっかりと 理解しておくことにあります。「対応の段階」とは、 被災時に求められる活動を目的別に分類したもの で、大きくは以下の3 つに分けることができます(下 図参照)。 インシデント発生直後から復旧に向けての対応の段階 インシデント対応 事業継続計画 復旧計画 時間軸 インシデント
96 リスク対策.com 2011/07 防止、コミュニケーション、BCP の発動や解除と いった活動が含まれます。ISO/DIS22301 では、こ うしたインシデント対応の基本的な在り方(ルール) について、8.5.2「対応体制」で規定するとともに、 8.5.4「(緊急時)対応」で、それら対応のルールを 遂行できる適切な責任、権限、力量を持った要員を 任命するように求めています。ちなみに、こうした 際に組まれる対応チームを、インシデント対応チー ム(Incident Response Team: IRT)やクライシス マネジメントチーム(Crisis Management Team: CMT)と呼ぶことがあります。 さらに8.5.6「対応手順の要求事項」および8.5.7「対 応手順の中身」で、行動計画書に含めるべき具体的 な項目について定めており、次に挙げる項目を含め るように求めています。 ・ しかるべき権限を持つ人やチームのインシデント 発生中または発生後の役割や責任 ・対応体制の発動プロセス ・ただちに影響をもたらす事業中断への対応方法 ・ 従業員や身内、主要なステークホルダーおよび緊 急連絡先へ、いつどのようにしてコミュニケーシ ョンを取るのか ・メディア対応 なお、BS25999-2 では、4.3.2「インシデント対応 体制」、4.3.3.3 g), i), k), l) がこれに該当します。 クションについて具体的に示したものであること ・ 予期してない脅威の発生や社内外の前提条件の変 化にもフレキシブルに対応できるものであること ・ 業務を中断させる可能性のある影響(結果)に 焦点をおいたものであること ・ 設定した想定や分析によって得られた依存関係 に基づいたものであること ・ 適切な軽減策を通じて影響を効果的に抑えられ るものであること 「具体的」や「フレキシブルに対応」と言った言 葉から見て取れるように、規格は行動計画書の策定 にあたり、形式性よりも実効性を重視していること が分かります。 また「コミュニケーションの確立」は、この規格 が行動計画策定にあたり最も重要視しているものの 1つです。具体的な要求事項を8.5.3, 8.5.9 で定めて いますが、ここでは、企業を取り巻く社内外のステ ークホルダーに対して「いつ誰にどうやって何を伝 えるのか」を明確化することなど、比較的詳細なル ール作りが求められています。 なお、BS25999-2 では、4.3.1「一般」と4.3.3.3a), m) がこれに該当します。 < 2. インシデント対応に関わる要求事項> 「インシデント対応」には、先述の通り、インシ デントの発見や通報をはじめ、人命保護、二次災害 災害支援システム メディア コミュニティ インシデント 取引先 企業顧客 報告、連絡、 相談、記録・・・ 発見、通報、 モニタリング 取引先 1. 目的と範囲 2. 目標と成功基準 3. 発動基準と手順 4. 実行手順 5. 役割、責任と権限 6. コミュニケーション上の要求事項および手順 7. 社内外の関係 8. 経営資源の要求事項 9. 情報のフローおよび文書化プロセス 手順化が要求される社内外の ステークホルダーとのコミュニケーション 事業継続計画に含めるべき項目
2011/07 リスク対策.com 97 << BCP・BCM している点で、異なります。 ■今回のまとめ さて、以上8.5「遂行」の規格要求事項解釈のポ イントについて解説してきましたが、お分かりいた だけましたか? 重要なことは、8.5 では全体的に 策定する行動計画書に含めるべき要素(例:BCP には活動に必要な経営資源を記載しなければならな い、など)について規定していますが、形式的な側 面(規程体系や文書の体裁、構成など)については 何ら要求していないということです。本稿でも便 宜上、「インシデント対応」「事業継続計画」「復旧」 と3 つの段階に分けて解説を行ってきましたが、イ コール、物理的に3 冊の文書を作らなければいけな い、という意味ではありません。どのような文書の 形にまとめるかは企業の裁量に委ねられています。 先述した通り、規格は、形式性よりもむしろ実効性 に重きを置いていることを理解しておくことが肝要 です。 最後に、本日、触れた解説した内容を図の形に してまとめてみましたので掲載しておきます(※ BS25999-2 との比較については、必ずしも完全に一 致しない項番もあるため、図は、理解を深めるため のあくまでも参考資料としてご利用ください)。 では、また次回まで。 < 3. 事業継続計画に関わる要求事項> 事業継続計画の目的は、重要な業務中断が起きた 際に、経営陣が許容できるレベルで代替手段を持っ て暫定的に対応できるようにするための手段を設け ることにあります。ISO/DIS22301 では8.5.5「事業 継続計画」の項番において、事業継続計画に含める べき項目を求めています(96 ページ図表)。 なお、BS25999-2 では、4.3.3.2 と4.3.3.3 がこれに 該当します。 < 4. 復旧に関わる要求事項> 復旧の目的は、暫定的な態勢での業務継続活動か ら通常の状態に戻すための手段を設けることにあり ます。ISO/DIS22301 の8.5.8「復旧」では、この目 的を満たすために必要な文書化された手順を残すよ うに求めています。ただし、「復旧」段階は、その 時点で企業がどのような被災をしたか、また、どの ような継続活動を行っているかによって求められる 活動が大きく異なるものです。こうした理由から、 規格では「復旧」手順に含めるべき項目については、 裁量を企業に委ねています。 「復旧」段階の文書化について裁量を委ねる点は BS25999-2 でも同じですが、BS 規格ではあくまで も「完全復旧」に向けた手順ではなく「あらかじめ 決定した水準に戻すための手順」というように規定 ISO/DIS22301 の8.5「遂行」の中身とBS25999-2 との関係 8.5.1「 事業継続対応の開発と導入」 インシデント対応 インシデント対応 インシデント 事業継続計画 事業継続計画 復旧計画 復旧 時間軸 4.3.1「一般」、 4.3.3.3 a), m) 4.3.3.2, 4.3.3.3 4.3.3.1 BS25999-2 で 該当する要求項番 4.3.2 「インシデント対応体制」 4.3.3.3 g), i), k), l) 8.5.3「 警告とコミュニケーション」 8.5.9「 コミュニケーションと相談」 8.5.2「 対応体制」8.5.5「 事業継続計画」8.5.8「 復旧」 8.5.4「 対応」 8.5.6 「対応手順の要求事項」 8.5.7 「 対応手順の中身」
98 リスク対策.com 2011/07 << BOOKS リスクマネジメントの実務 - ISO31000 への実践的対応- 本書は、リスクマネジメントの国際的なガイドラインである ISO31000 を踏まえ、いかに既存のリスクマネジメントシス テムを効率的に改善し、運営するかをテーマとしている。訓 練や教育、文書作成方法のほか、リスクの定量化分析、リス クファイナンスなどリスクマネジメントへの取り組みを進め る際に参考となる実務に沿った手法やアイデアを紹介する。 組織の危機管理担当者の教科書となる一冊。 著者:内田知男 発行所:㈱中央経済社 単行本 266 ページ ISBN-13: 978-4502686801 価格:2800 円+税 保険・医療従事者が被災者と 自分を守るためのポイント集 編集者:和田耕治・岩室紳也 発行者:株式会社 中外医学社 単行本 149 ページ ISBN978-4-498-07112-4 価格:1800 円+税 中国進出企業の 労務リスクマネジメント 編著者:高原彦次郎・ 陳 軼凡 発行:日本経済新聞出版社 単行本 347 ページ ISBN978-4532316921 価格:2000 円+税 崖っぷち投資家 ボコられ経営塾 著者:奥山泰全 発行:ダイヤモンド・ビジネス企画 単行本:268 ページ ISBN-13: 978-4478083031 価格:1500 円+税 実務総合解説 BOOKS
出版事業部 出版サービス第一課 TEL 03(3583)8002 FAX 03(3583)04 62 JSA Web Store(http://www.webstore.jsa.or.jp)では24 時間ご注文を受け付けております。 事業継続マネジメント
100 リスク対策.com 2011/07 1.災害拠点病院の創設 阪神淡路大震災の翌年、平成8年の厚生労働省令 により、原則24 時間対応できる設備、ヘリコプタ ーの離発着、医薬品の備蓄、ライフラインの確保、 耐震化構造などの必要条件を満たす病院を都道府県 知事が災害拠点病院に指定している。主に都道府県 の「基幹災害医療センター」と2次医療圏の「地域 災害医療センター」の2 つに分別し、平成22 年7 月現在で603 施設が指定されている。 2.DMAT(災害派遣医療チーム) 上記と同じく阪神淡路大震災を受け、「災害急性 期に活動できる機能性を持った専門的なトレーニン グを受けた医療チーム」と定義した、日本における 急性期(48 時間を目安)に活動できる医療のスペ シャリスト部隊を平成17 年から災害拠点病院に配 置した。 3.病院機能評価の認定病院 良質な医療の効率的な提供を目的に、客観的な第 三者評価を受ける本格的な病院機能評価事業が平成 9 年よりスタートし、平成23 年6 月3 日現在では、 全国の病院(この時点では8708 施設)の28%の 2500 施設が認定病院となっている。認定項目352 項目のうち、病院の危機管理の対応については「院 内における災害発生時の対応体制」と「大規模災害 発生時の対応体制」の2つの項目がある。2つの要 点は以下の通り。 ①防災マニュアルの整備・備え付け ② 消防法に基づく年2回の訓練の義務付け。休日 夜間を想定し、地域住民を参加させた総合避難 訓練を1回、部分的訓練として机上訓練を1回 行うこと ③ 病院組織での伝達を含めた責任体制と職員への 周知徹底の確立 ④ 患者の生命維持装置の万全など非常用コンセン ト(電源)と自家発電装置の確保と定期点検 ⑤ 大規模災害時の地域性と想定マニュアルの整 備、社会的資源となる病院の役割の明確化 ⑥ 医薬品、飲料品、食料品など物資の3日分以上 の備蓄 ⑦ ライフラインの二重ルートの確保、優先的復旧 協約と調達手段の明確化 ⑧自治体や他の医療機関との広域地域医療連携 ⑨ 大量患者の受け入れ体制の確保とトリアージ訓 練の実施 4. 4疾病5事業(医療法30 条)と社会医療法人 の許可条件項目 昭和60 年に第一次医療法改正により「医療提供 体制の確保に関する基本方針」を目的に“地域医療 計画の策定”が成され、時代の流れと共に、その見 東日本大震災では、岩手・宮城・福島3県を合わせた病院の7 ~ 8 割が、建物の損傷や停電などにより一時、 休診に追い込まれた。5月末時点では、そのうち1割程度がまだ通常診療に戻れず、中には復旧が困難となっ ている病院もあるという。病院では大規模災害や多傷病者発生事故に対してどのような対応策を整えてい るのか。災害時および緊急時に規定している主な病院の医療提供についてまとめてみた。 佐藤勝浩株式会社パースジャパン 経営コンサルティング部部長 震災の中から見えた病院経営 ■寄稿
2011/07 リスク対策.com 101 実際の宮城県に存在する民間病院や福島県に存在す る病院から緊急物資の要請や緊急車両の貸し出しな どの要望をいただき、その対応をすることとなった。 そこでわかったことは、実際に現地で医療提供を 実施している病院は、医師をはじめとした職員や入 院患者、来院していた患者が助かったとしても、飲 食類の確保と暖を取る手段の確保が精いっぱいで、 その次の段階として、ようやく患者への治療実施に なるということ。さらに、自院の患者への治療だけ でなく、周辺で被災した患者や、他医療機関から転 送されて来た患者にも治療を施さなくてはならず、 現場では患者を重軽傷度別に優先順位付けするトリ アージが必要な状況も見られた。 より早い段階で患者の治療に専念するためには、 上記に加えて職員側のケアも非常に重要であること も痛感した。実際に宮城県の病院では、震災直後か ら頑張っていた看護師の一人が、5日間程が過ぎた 時「何で自分たちは、家族を助けに行けないの」と 泣き叫び出し、それが他の職員にも連鎖し収拾でき ない状況に陥ったと聞いた。地震などの自然災害で は、家族や親類縁者、知人などの死亡や生存不明な どの事実を知らされることもある。無暗に「職員全 員で患者を救助する」と呼び掛けるのでなく、職員 一人一人の心理状況にも配慮し、どこまで患者を受 け入れる体制にするのかを判断しなければいけな い。 現状の病院経営を取り巻く厳しい環境を踏まえる と、民間病院はどこまで災害時および緊急時の対応 体制を考えておくべきか思案し、“災害または緊急 時における病院の役割”について地域連携も含め、 各都道府県または地域で仕組みを作ることが必要 だ。 << 震災の中から見えた病院経営 直しが定期的に都道府県で行われた。平成18 年の 第5次医療法改正を受けて翌19 年4 月に「疾病構 造の変化や地域医療の確保」の観点から病院におけ る医療機能を明らかにすることが決まり、新たな医 療計画を策定するものとなっている。その中の1つ に「災害時における医療」が含まれる。それが社会 医療法人申請時の1つの条件にも挙げられている。 5.BCP(事業継続計画) 2009 年7 月に内閣府が公表した医療機関のBCP 策定状況を見てみると、「策定済み」は4.8%であり、 73.4%が「知らない」と回答している。 調べてみると、医療分野でありながら災害等への 意識が希薄で対応手段や体制整備を確認する施設は あまり多くない。 実際に、病院経営のコンサルテーションを実践す る上で、災害時への対応は十分に検討されていると は言い難い。リスクマネジメントについて病院側に 質問すると、病院側の多くの回答は、「医薬品の処 方ミス防止」「診療ミス防止」「過剰在庫防止」な ど、どちらかと言うと診療機能面のリスクヘッジで あり、医療訴訟の防止対策やクレーム防止対策、も しくは経営効率化策の一環としてとらえている。 また、震災の直接経験が少ない地域と多い地域 で、災害発生時の医療活動について温度差が見られ る。今回、震災を経験した病院の中にも、災害拠点 病院であったにもかかわらず、その役割をまっとう できなかった病院が存在した。普段から日常業務に 追われている病院の多くは、非常時における事業継 続体制を整えることに対して後回しにしがちだ。今 回の震災でも「病院機能評価の項目にある総合避難 訓練を毎年実施していたがうまく機能しなかった」、 「地域連携ができなかった」、「医薬品や飲料品など 物資の備蓄が活用されにくかった」など災害時にお ける体制が十分にできていなかったという話をよく 聞く。 東日本大震災では、病院経営に関わるものとして、 東日本大震災で見えた課題 株式会社パースジャパン 経営コンサルティング部部 長/福井大学非常勤講師 病医院・調剤薬局の経営に関する調査、分析、企画な どヘルスケア関連企業に関するコンサル?テーション を行う。 佐藤勝浩(さとう・かつひろ)
102 リスク対策.com 2011/07 東日本大震災への政府や企業の対応を見て感じ るのが現場の担当者の責任と権限の重要性です。 かなりのお立場にあるような方々が、あたかも 全ての責任はトップにあり、自分には責任がないと いうような発言をしている姿が目立ちました。一方 で、被災された自治体や風評被害を受けた自治体の 現場では、末端の職員までがリーダーシップをふる って一生懸命になって、復興に取り組んでいます。 リスクマネジメントを機能させるには、トップ から現場までが、それぞれの「責任と権限」をしっ かり自覚することが前提となります。責任と権限は、 社会の中における組織の役割、その組織の中におけ る自分の役割というものを、しっかりと認識しない 限り明確にはならないはずです。それができていな い組織は、形式だけの表面的なリスクマネジメント を行い、いざリスクが顕在化しても何も機能しない。 逆に責任と権限がしっかりしている組織は、一人一 人がリーダーの自覚を持つことで、この会社がどう いうとき困るのか、事件や事故が起きたとき自分は 何をすべきかが想定できるため、結果として、危機 を事前に防ぐ力も、いざ発生して対応する力にも実 リスクマネジメントの普及に努めるNPO 法人日本リスクマネージャー&コンサルタント協会の 横井千香子理事長に、これからの企業のリスクマネジメントについて聞いた。 インタビュー 横井千香子理事長NPO 法人日本リスクマネージャー&コンサルタント協会 横井千香子(よこい・ちかこ) プロフィール/昭和46 年、昭和女子大学卒。昭和61 年 ㈱クレディ セゾン(旧西武クレジット)にパートタイマーとして入社。平成16 年3月、立教大学大学院21 世紀社会デザイン研究科比較組織学修士 課程修了。平成18 年にクレディセゾン取締役就任。平成21 年4月 にグループ企業のキュービタス取締役に就任。22 年から同社顧問。 今年1月にNPO 法人日本リスクマネージャー&コンサルタント協会 理事長に就任。 “一人一人がリーダーに” 東日本大震災後の企業のリスクマネジメント
2011/07 リスク対策.com 103 << インタビュー 実践的ガイドラインを発刊「事業継続マネジメントに関するガイドライン」 『事業継続マネジメント・グローバルを視点とした実践導入のためのマネジメントガイド』 A4 版240 ページ 定 価:2,625 円(本体2,500 円) 送 料:500 円 著 作:The Business Continuity Institute (BCI) 監 修:BCI 日本支部 発 行:特定非営利活動法人 日本リスクマネジャー& コンサルタント協会(RMCA) cThe Business Continuity Institute (BCI) ISBN 978-4-9905826-0-9 効力が伴うと思うのです。 私はかつて、クレジットカード会社でパートタ イマーとしてお客様対応をしていましたが、この会 社では、お客様対応に関しては、ほとんど現場に対 応を任せてくれました。 お客様の事情を真摯にお聞きし、どうしたらい いかを自らが考え、金銭的な権限は1000 円程度で はありますが、例えば送金手数料を無料にしてあげ ることまで、ほとんど現場の責任で行いました。 その後、50 歳を超えてから大学院に入って勉強 をしたこともあってか、職場の中ではプロモーショ ンセンター長に抜擢され、その後クレジット本部長、 ついには取締役まで任されることになりました。現 場がしっかりこなせる人間を管理職にするというの がこの会社の方針だったのです。頭の中だけで理解 しているような管理職と、現場のことまで理解でき ている管理職では、認識できる責任の範囲も変わっ てくるはずです。こんな現場力があったからこそ、 生き残りが厳しい貸金業界の中でも、健全な経営を 続けてこれたのだと思います。 今回の震災への対応では、こうした組織力の差 が浮き彫りになりました。 これからの企業は、人事の評価軸から変えてい く必要があります。単に学歴や経歴だけでなく、現 場で責任感とリーダーシップのある人を積極的に管 理職に起用していくべきです。同時にそうした社員 を育てるための教育が求められています。 責任と権限が明確になってくると、それまで見 えていなかったリスクに気づくようになります。そ れがリスク感性を磨くということです。そうすると、 自分ができないことは、周りの力を借りるようにな り、逆に自分の活躍が周辺をも輝かせるようになっ てきます。 そして、トップは、社員一人一人がリーダーに なれる社風を育てなくてはいけません。会社が目指 すべき理念を明確に示し、ミッション・ステートメ ントを末端まで分かりやすく伝えることが求められ ます。(談) 日本リスクマネジャー・コンサルタント協会(RMCA)ではこのほど、事 業継続マネジメントの実践的なガイドラインである「GOOD PRACTICE GUIDELINES(GDP)2010 Global Edition」の日本語翻訳版(ハー ドコピー版)を発刊した。 事業継続マネジメントを推進する世界的な組織であるBCI(事業継続協 会/ 本部英国)が策定したもので、BCI 日本支部がBCM の専門家による 翻訳・監修のもと、日本語版の編集を行った。 GPG は事業継続マネジメントの規格であるBS25999 にも大きな影響 を与えたガイドラインとして知られている。申し込み・問い合わせは、同 協会事務局(電話03-6273-3321)まで。
110044リリススクク対対策策.c.coomm 2 2001111//0077 【編集部から】 2008 年3月号で企業のリスクファイナンスについて特集した。少しでも注目され るようにと、「被災時に笑う企業」というタイトルをつけたが、さすがに今となっ ては、この号を大々的に宣伝するわけにはいかない。ただし、この中で紹介させて いただいたリスクファイナンスの事例には、地震保険を考える上でも参考になるも のがある。特に、自社の財務状況に応じて、保険にするか、融資にするかリスクファ イナンス戦略を見直しているオリエンタルランドの事例は是非読んでいただきた い。また、中小企業の財務戦略については、2009 年3月号で静岡県信用保証協会の 災害時発動型補償予約システムを紹介させていただいた。いずれも電子ブックで閲 覧できるので、興味のある方は、ご一読いただければと思う。 (電子ブックから以下をクリック ※ パスワードは目次上) 2008 年3月号 http://ebook.risktaisaku.com/book/000/000/134/view.html ※ オリエンタルランドの事例は24 ページ掲載 2009 年3月号 http://ebook.risktaisaku.com/book/000/000/128/view.html ※ 災害時発動型補償予約システムは14 ページ掲載 9 月号 予告 ●特集 世界の危機管理に学ぶ ※ 特集は変更することがあります。あらかじめご了承ください 電子ブック閲覧サービス 最新号および バックナンバーが、 組織全体で見られます。 (組織は原則として企業・自治体に限ります。組織外への無断提供は固く禁じます) ※ i Pad およびスマートフォンの一部には対応していません。 本機能をお使いいただくにはAdobe Flash Player が必要となります。 下記のウェブサイトから、最新号の目次上にあるID・パスワードを 入力しログインしてください。 http://touroku.risktaisaku.com/member/login.php ※ 有効期間/ 2011 年7月25 日~9月24 日。 次号が発行された段階で、ID・パスワードは無効になります。 2011 年7 月号 Vol.26 2011 年7 月25 日発行 ●発行人 伊澤和馬 ●発行元 新建新聞社 ●本社 〒160-0015 (編集部) 東京都新宿区大京町31 東苑ビル4F TEL 03-5312-7740 ●長野本社 〒380-8622 (営業部) 長野県長野市南県町686-8 TEL 026-234-1120 ●編集長 中澤幸介 ●表紙デザイン 溝口デザイン研究室 【スタッフ】 ●営業責任者 竹花節義 ●記者 上村太一 ●本文デザイン 岡沢ゆう子 定 価 1,700 円(税・送料込) 購読料 1年間 10,200 円(税・送料込) ※ 一部の書店で販売を開始しました ■購読のお問い合わせ (購読係) TEL 026-234-1115 ■記事内容のお問い合わせ (編集部)TEL 03-5312-7740 ■広告掲載のお問い合わせ (営業部)TEL 026-234-1120 本誌掲載記事の無断転載を禁じます。 ※ 乱丁・落丁はお取り替えします。 http://www.risktaisaku.com
2011/07 リスク対策.com 105 BACK NUMBER ■購読・購入に関するお問い合わせは 新建新聞社 リスク対策.com 編集部 〒160-0015 東京都新宿区大京町31 東苑ビル4F http://www.risktaisaku.com/ TEL 03-5312-7740 FAX 03-5312-7741 2010 年11 月号 VOL.22 『変わる! 中国の防災』 販売価格900 円 2010 年9 月号 VOL.21 『クラウドBCP 時代』 販売価格900 円 2010 年7 月号 VOL.20 『新型の記録を残せ』 販売価格900 円 2011 年5 月号 VOL.25 『トップの決断力』 販売価格1,700 円 2011 年3 月号 VOL.24 『企業再生の現場』 販売価格1,700 円 2010 年5 月号 VOL.19 『英国のBCM に学べ』 販売価格900 円 2010 年3 月号 VOL.18 『T 社に隠れた危険』 販売価格900 円 2011 年1 月号 VOL.23 『危機発生時の広報戦略』 販売価格1,700 円 バックナンバー紹介 発売日 2010 年1 月号 2009 年11 月号 2009 年9 月号 2009 年7 月号 2009 年5 月号 2009 年3 月号 2009 年1 月号 2008 年11 月号 2008 年9 月号 Vol.17 Vol.16 Vol.15 Vol.14 Vol.13 Vol.12 Vol.11 Vol.10 Vol.9 900 円 900 円 900 円 900 円 900 円 900 円 900 円 900 円 900 円 『医療機関のBCP』 『横浜の危機管理力』 『英国規格の襲来』 『建設業者にBCP の波』 『感染爆発との闘い』 『中小企業のBCP』 『訓練の秘法』 『大災害がIT を襲う』 『知らない会社は滅ぶ』 2008 年7 月号 2008 年5 月号 2008 年3 月号 2008 年1 月号 2007 年11 月号 2007 年9 月号 2007 年7 月号 2007 年5 月号 Vol.8 Vol.7 Vol.6 Vol.5 Vol.4 Vol.3 Vol.2 Vol.1 『グリーンBCP』 『BCM 狂想曲』 『被災時に笑う会社』 『行政BCP の幕開け』 『オフィスの震災対策』 『その時、BCP が問われた』 『宮城は恐れない』 『コンビニ・スーパーが街を守る』 特集内容販売価格発売日 900 円 900 円 900 円 900 円 900 円 900 円 900 円 900 円 特集内容販売価格
106 リスク対策.com 2011/07 【FAX送信先】編集部 購読係 03-5312-7741 ● ご記入いただきました登録情報は、本誌「リスク対策.com」の送付および弊社からの業務案内(セミナー・イベント案内・新刊案内・アンケートなど) に利用させていただきます。当社以外の第三者への提供はいたしません。 会社名 フリガナ フリガナ □ 年間定期購読 購読開始/ 年 月号より 購読料/ 年6冊 10,200円(送料・税込) 希望発売号/ 年 月号( 冊) 希望発売号/ 年 月号( 冊) 希望発売号/ 年 月号( 冊) □ バックナンバー購入 氏 名 所属部署名役 職 申込内容 お届け先住所 お届け先/ □ 勤務先 □ 自宅 TEL Eメール アドレス ○ 定期購読については、お客様からの中止のご連絡がない限り、自動更新とさせていただきます。 定期購読中止の際は、お手数ですがご連絡をお願いいたします。更新時は、更新契約の3 週 間前にお知らせいたします。 ○購読期間中の途中解約は、原則として受け付けていません。ご了承をお願いいたします。 ○ 購読料金変更の際は料金を改定させていただきます。改定の際は、その旨を事前にお知らせ します。なお、年間定期購読を頂いている方は、現契約期間の終了後、改定料金を適用させ ていただきます。 最新号の目次ページに記載されているID とパスワードを、 幣誌ウェブサイトから入力して頂くことで、過去1 年分の バックナンバーを閲覧することができます。組織内(原則と して、自治体? 企業に限る)の情報共有などにご活用下さい。 ※組織外への無断提供は固く禁じます。 10,200円 (年間6 冊、送料・税込) 過去1年分のバックナンバーが 電子ブックでご覧いただけます 首都圏、中部、近畿エリアの一部書店で お買い求めいただけます。 詳しくは編集部までお問合わせください。 書店販売を開始しました ■ FAX でのお申し込み方法 ⇒ 下記の申込書にご記入の上、FAX 送信 ■ウェブサイトからのお申し込み方法 ⇒ http://www.risktaisaku.com/ 購読料のお支払いは、一括でお願いいたします。雑誌 と同封または別便でご請求書(専用振込み用紙)をお 送りさせていただきます。郵便局または指定の金融機 関にてお支払いをお願いします。 年間定期 購読料 お申し込み 方法 お支払い 方法 購読・購入の特典 年間定期購読のご案内 リスク対策検 索
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